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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン4


 ゴドはナタを取り出し、肉を切り分けていった。内臓を川で洗うとエルクにいった。

「あれだけの数じゃあさばくだけでも大変だ。ベルグンの街についたら冒険者ギルドで解体してもらって魔石、毛皮、肉なんかの部分ごとにギルドに売ったほうが儲かる。解体費用は取られるが、専門の人間がやるから手間がかからない。それと冒険者登録をしたほうが高く買ってもらえる。他の店でも買い取ってくれるが、その見た目じゃ買い叩かれるだろう」


 ……冒険者ギルドに登録か。いいね。


「……ギルドに登録すると、縛られる? 自由に旅行できないとか、国のために尽くせとか?」

「そうだな、縛られないとは言えんな。俺たちは魔物を狩って、魔石を持ってくるのが本当の仕事だ。魔石集めや護衛のために他所の国に行くのは自由だ。もちろん規則があって破ったら罰を食らう。どの国からも徴兵はされないが、魔王が出たら討伐依頼が出て参戦する。まあ、長いこと出てないがな」


 ……魔王は出てるけど。自分と戦う事はできないしなぁ。でも経済的なことを考えると……。


「そうか。冒険者になるか。いいかもなぁ」

「……肉はパックに入れてマイヤのところに運んでくれるか?」

「もちろん」

「血はこのまま運ぶしかないか」

「いっしょにいれるよ」

 怪訝な顔をするゴドから受けとった血の鍋、肉、内臓、毛皮もパックに入れた。


 野営地に戻るとマイヤと男の子が、かまどのそばで鍋やケトルを用意していた。馬たちの世話は済んだらしく、まとめてつながれている。


 マイヤのところまで行くとゴドが声をかけた。

「肉を用意してきたぞ。どこに置く? ここでいいか?」

「そこに鍋を置いとくれ。って手ぶらじゃないか。あんたの腹の中じゃないんだろうね」

「俺じゃねえ、エルクの腹の中だぜ。……そこに出してくれ」

 エルクがかまどに近づくと、男の子がこちらをにらみつけた。


 ……マイヤと同じ赤毛、息子のトピかな。男の子といっても自分より年上のようだ十三、四? パックから血の入った鍋と肉を取り出したのを見て驚いている。


「へえー、アイテムパックかい。話は聞いたことあるけど、本物を見たのは初めてだね。あんたやっぱりお金持ちの子なんだ。それがあれば、商売もずっと楽になるんだがねぇ。手が届かないね」

 マイヤは感心したように言うと、肉をより分けはじめた。

「じゃあ、俺はエルクとジュストさんのところに行くから。ジャンは飯まで寝かせといてやってくれ」

 ゴドと歩き始めたエルクがちょっとトピをうかがうと、さっきよりも一層険しい目でこちらをにらんでいた。


 ゴドはジャンのためにエルクが狼をくれたことを話し、護衛料の交渉をして自分たちより高い料金にしてくれた。野営の点検に行くゴドを見送った。


「ジュストさん、全額から一割引きます。授業料としてください。それとこの魔石を買取ってもらえませんか?」

「……ふむ、魔石か、これは大きい! いいだろう、買い取ろう。うーん、少金貨二枚で買い取る。……それと、食事の時にみんなに紹介しよう。仕事についてはゴドの指示を受けてくれ。空いた時間に私の都合を聞いてくれ、料金分は教えよう」

 にっこり笑うとジュストも見回りに行った。


 おのおのがマイヤの馬車に並んで食事を受け取り、野営地の中央に作られた焚き火の周りで食べる。エルクも並んで器を受け取り、豆のシチューと網焼きにした狼の肉を受け取った。

「エルク、あんたは育ち盛りなんだからたんとお食べ、おかわりもするんだよ」

 マイヤは木の器にたっぷりと盛ってくれた。

「俺も育ち盛りなんだがなあ」

 周りの男たちが軽口をいって笑い合っていた。

 マイヤの陰でスカートを掴んだ赤毛の女の子がエルクをじっと見ている。


 ……娘さんのヘリかな。おとなしそうな可愛い子だ。


 エルクはジュストとゴドの近くに座って、カトラリーの包みをパックから出した。

「いただきます」

 スプーンで豆のシチューを一口食べるとその野趣あふれる味に驚いた。塩味だが、肉の臭みもなく思いの外美味だった。焼いた肉をナイフで一口大にして食べる。ほのかに香るものがある。


 ……にんにく? それにハーブかな。こっちにもあるのか。シチューは煮崩れた豆がいい。歯応えのある豆も混ざっているから、煮返しに足したのかな。刻んだ内臓も美味い。後でマイヤに聞いてみよう。


 忘れないようにしようと思っていると、視線を感じて目を上げた。焚き火の周りの男たちとマイヤたちがこちらを見ている。カトラリーと一緒に取り出したテーブルナプキンで口を拭きながら、ゴドに聞いた。

「なに? どうしたの?」

 ゴドが頭を振りながら答えた。

「いいとこの子だと思っていたが。やっぱり、エルクは貴族様か?」

「え、なんで?」

「ゴドがそういうのも無理はない」

 口の中のものを飲み込んで、ジュストが説明してくれた。

「王族に近い貴族は皆、銀のカトラリーを使う事が多い。毒に用心してな。それとその肉を刺して食べるものは、いままで見たことがない」

 肉片を手で持ったまま教えてくれた。見渡すと、皆肉の塊を手づかみで食べている。シチューは木製スプーンも使っているようだが、器に口をつけて啜っているようだ。


 ……銀のカトラリーで毒に用心ってことは、ヒ素系の毒があるのか。


「……師匠が使ってたから、普通だと思ってた。銀もフォークも」

「フォークというのか、それ。……手が汚れないし……熱い肉も食えるが……売れるか」

 ジュストが人の話も聞かずに、ブツブツ言い出した。みんなはこちらを見るのを止めて、自分の食事に戻った。



「皆、聞いてくれ」

 ジュストが立ち上がって声をかけた。

「今日は大変だった。あの数の灰色狼がこの辺りに出るとは聞いてなかった。生き残れるか、危ないところだった。一人も欠けずに皆で食事ができるのは幸運だった。エルク、立ってくれ」

 エルクは皿を置くとジュストの横に立った。

「魔術師のエルクだ。灰色狼を倒してくれた。一人で全部をだ。年は若いが、凄腕の魔術師だ。ジャンの傷も治してくれた。私から頼んで、ベルグンの街までの護衛を引き受けてくれることになった。皆よろしく頼む」


 ……いや、魔術師じゃありません。身分詐称は問題にならないのか。


「エルクです。よろしく」

 右手を胸に当て左腕を脇に広げてて軽く会釈、これでいいだろう。みんなが顔を見合わせ、ヒソヒソと話している。

「ゴドたちが倒したんじゃないのか?」

「傷を治したって治癒魔法?」

「……あのおじぎ、お貴族様?」

「……貴族同志の挨拶を見たことがあるが、ちょっと違ってたと思う」 

「あんな子供が倒せるのか?」

「……俺だって、狼くらい倒せる……」


 ……新しい体は聴力の能力が高いよ、ヒソヒソ話がみんな聞こえてます。


「では、皆、今夜はゆっくり休んでくれ」

 そう言ってジュストは話を締めくくると食器を戻して馬車の方に歩いていった。座って残りを食べていると、ゴドが話しかけてきた。

「今夜から仕事だ。交代で見張りをする。周りに、簡単だが魔物よけを置いているから、火の見張りと見回りだ。最初の当番を俺と一緒にやってもらうからな。明日からは一人だ。お、ジャンもういいのか?」

 ゴドが声をかけた先を見ると、少し青い顔をしたジャンが歩いてきた。ゴドと一緒に立ち上がった。

「ゴド、もう大丈夫だ。……エルクさん……ありがとう、助けてくれて」


 灰色狼のことを思い出してか、ブルッと震えるとかまれた右手をさすった。

「エルクさんは命の恩人だ。恩は返す。俺にできることがあったら言ってくれ」

「ジャンさん、エルクでいいよ。骨が折れてなくてよかったね。出来ることをしただけだから気にしなくていいよ」

「いや、エルク、に助けてもらえなきゃあのまま喰われていた。ほんとにありがとう」

「ほらほら、ジャン。恩返しは元気になることだよ。これお食べ」

 ジャンの後ろからマイヤが声をかけ、肉を山と盛った器をジャンに押し付けた。マイヤの後ろをついてきたヘリが、大きな目でこちらを見つめていた。


「あんたのために取っといたんだから、たっぷり食べな。あんたにとっちゃ格別の味だよ。なにせあんたに噛み付いた狼だからねぇ」

 けらけらと笑うと、ヘリを前に押し出してエルクに言った。

「この子はうちのヘリ。あたしに似て可愛い子だろ。ほら、ヘリ、エルクだよ」

「初めまして、エルクです。よろしくね」

 胸に手を当ててヘリに会釈すると、ヘリは顔を真赤にして後ずさった。

「……」

「おやおや、おかしいね、いつもはおしゃべりをやめさせるのが大変なのに。エルクに惚れたかね。トピ、トピ。こっちおいで。息子のトピだよ。」

 マイヤに呼ばれて、嫌そうにこちらに来て、エルクをにらむトピにも会釈をした。

「エルクです、よろしく」

「……トピ……」

「なんだいそれ。あんたもエルクを見習って少しは愛想よくできないのかね。ついこないだまであんなに可愛かったのに」

 マイヤのため息交じりの言葉に一層トピの顔が険しくなった。

「じゃあ、食べた器は馬車までもってきとくれ。トピそろそろみんな食べ終わるから、洗い物始めな。ジャン、残したら承知しないからね」

「グ……」

 喉を詰まらせたジャンを見て笑うと、ヘリの背を押し、マイヤは誰彼無しに声をかけながら戻っていった。ヘリはこちらを何度も振り返り、トピは肩を怒らせて歩いていった。


 振り向くとゴドがこちらを見てニヤニヤ笑っていた。

「お似合いだな。だが、オッシには気をつけろよ。おとなしいヤツだがヘリについちゃあなぁ……。トピには嫌われたか。まあ、エルクの魔法には俺でも感じるものがあるからな」


 野営では地面に毛布を敷いてマントに包まって寝る。取り出した毛布を敷き、自分の寝場所を確保すると、焚き火に戻った。

「エルク、魔力は回復したか? 今日あれだけのことをしたんだ、魔力切れには注意したほうがいい。今夜はこの番が終われば、休めるからもう少し辛抱してくれ」

 ゴドがアドバイスしてくれたが、魔力は全然減っていない。


 ……皆どれくらいの魔力量なんだろうか。


 聞いてみたが、魔術師ではないゴドにはよくわからないようだった。


 夜の見張りと見回りについて教えてもらった後で、冒険者についてもいろいろと語ってくれた。


 冒険者は魔石を求めて魔物を狩るのが中心で、護衛や採集などの仕事もこなす。ゴドたちはベルグンの街をホームにして、「嵐の岩戸」というパーティを組んでいる。本来は六人だが、魔術師は短杖を作るために今回は参加できなかったそうだ。

 魔法は長杖や短杖などが無くても使えるが、威力と効率を上げるために必要らしい。


 ……宝物庫にもあったから機会があれば試してみよう。


 見張りを交代して、寝床に行った。今夜はもう番はなく朝まで寝ていていい。

 毛布一枚地面に敷いただけでは、地面からの冷気とゴツゴツ当たる石が辛い。空気と重力の魔法でマットと掛け布団みたいなものをでっち上げた。


 ……身体能力の高いこの体は、あまり睡眠を必要としないが、脳の情報更新には眠ったほうがいい。


 横になり宝物庫を確認した。クラレンスからは毎日羊皮紙の手紙が届く。几帳面な字で要点だけを伝えてくれる。派遣してくれる人選は済んだようだ。数名をよこしてくれるとある。

『ガラン。今、大丈夫か?』

『はい、エルク様。大丈夫です』

『僕は、これからノルフェ王国にあるベルグンの街に向かう。到着する日は未定だが、冒険者ギルドで冒険者の登録をする。冒険者ギルドで、ガランに言われてエルクを訪ねてきた、を合言葉に連絡を取れるようにしておく。クラレンスに伝えてくれないか?』

『はい、かしこまりました』

『そちらから、何か伝えたいことはある?』

『いいえ、特にはございませんが、お待ちいただけますか。今、クラレンスがそばにおりますので伝えます』

『ああ、待つよ』


 夜空を見上げると、満天の星。


 ……雲がかかっているように見えるのは天の川か? 別の銀河なんだろうな。


『エルク様、お待たせいたしました。朝になったら出発させる、馬を使うので十日から十五日ほどかかるだろう、とのことでした』

『そう、わかった。じゃあまたね。お休みなさい』

『ゆっくりとお休みになってください、エルク様』


 ガランとの念話を終えると、いろいろな事に思いをはせた。ふと、前世の妻を思い出した。


 ……輪廻転生……。どこに生まれ変わっているだろう。幸せだといいが……。


 ぼんやりとそんなことを思いつつ眠りについた。


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