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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン2


 ゴドの後ろから、長身で髭面の痩せた男が声をかけてきた。馬車から下りてきた男の一人だ。

「ゴドすごいな。灰色狼を全部倒したのか。護衛に頼んで正解だったな」

「……ジュストさん、俺じゃありません。この子が全部倒したんだ。ジャンを助けてくれた」

 ジュストと呼ばれた男は、エルクとうずくまるジャンを見ていった。

「こんな子供が? なにを言ってる、こんな子供では無理だろ?」

「いいえ、全部、この子がやっつけた。俺は一頭も倒しちゃいない」

 ジュストは倒れている灰色狼を見渡して頭をふった。

「見てみろ。この数で、それもどれも大きい。あっちのなんかこの子の三倍以上もあるぞ。……この子が……本当か……」

 顔をしかめているゴドを見て言葉が途切れた。


「おい、おまえ。おまえがたおしたのか?」

 エルクは肩をすくめると答えた。

「慌ててるんだろけれどもねぇ。初対面でそんな口の利き方されたくないね。それが人にものを尋ねる態度? あんただれ?」

「なに!」

「エ、エルクさん、こちらはこの隊を率いるジュストさん。こちらは魔術師のエルクさんです。さっきの青い光は、多分防壁の魔法。狼たちを倒したのも魔法だろう? ジャンに治癒魔法も使った。エルクさんの魔法の力は大したものだ」

「僕は魔術師じゃないよ。ってか魔術師ってのもいるのか。初めましてジュストさん。エルクです。よろしく」

 ジュストは間に入ってくれたゴドとエルクに交互に視線をやり、わずかに目を細めてエルクに言った。

「フラゼッタ王国のジュスト商会会頭のジュストです。エルクさん、失礼な物言いをしました。許してください」


 ……さすがは商人。即座に客に応対する態度に変えられるんだ。


「ジュストさん、僕こそ生意気な口を聞きました。ごめんなさい」

 ジュストが頭を下げなかったので、エルクも頭は下げなかった。


 ……人付き合いの常識は早めに身に付けたい。


「エルクさん。これだけの灰色狼を一人で倒すとは、お若いのに大した力です。どちらの魔術師ギルドでしょうか?」

「ジュストさん、エルクと呼び捨てで、ゴドさんもね。僕は魔術師じゃないよ。魔術師ギルドって今初めて聞きました。ああ、ジャンさんは安静が必要です。馬車に乗せてください」

「わかりました。運ばせましょう」

 ジュストは他の者たちに命じて、ジャンを運ばせた。


「ゴドさん、この灰色狼たちはどうします? 放って置いて腐るのは問題になりません?」

 エルクはゴドに聞いてみた。

「うむ。これはエルクが一人で倒したものだから、好きにすればいい」

「僕はあまりものを知らなくて。教えて下さい。普通はどうするの? 穴ほって埋める? 焼いて灰にする?」

「いやそんなもったいない。だがこれだけの量だからな。運べない時は魔石と討伐証明になる尾か耳を切っておくが……。ここで作業して血の匂いに魔物が寄ってくるのもまずいし」

「魔石があるんだ。うーん、ゴドさんたちって今夜はどこか宿に行くの? 野営するの?」

「ゴドでいい。この先の野営地に泊まることになる。そこでなら川があるから解体できるが、持ってはいけないだろ? 街道からよけて焼くしかない」

「じゃ、持っていく。毛皮も売れるかな」


 そう言うと、ボスの横にしゃがみ込み毛皮を撫でた。気のせいか、死んで小さくなってしまったように見える。


 ……犬を殺したのは初めてだ。すまないね、次はいい転生を。


 エルクはしばらく頭を下げると、背負っていたパックを下ろして灰色狼たちを収納していった。


「エルク……。そ、それは、アイテムパックか?」

 ゴドは素っ頓狂な声を上げて驚いた。その声を聞きつけて、ジュストが走ってきた。

「……アイテムパック……。それも容量が多い。あれだけの灰色狼が全部入るなんて」

 入れ残しがないか周りを見た後、エルクは二人のところに戻った。

「うん。師匠からもらったアイテムパックだよ。結構入って便利」

 本当は魔王城の宝物庫に入れてるけどね。時間経過がないから腐らないし。でも入れる時にちょっと引っ掛かりがあった。無理に生きたものを入れると死んでしまう。狼たちの体にノミやダニがいたようだ。引っ掛かりはアラームみたいなものか。


「エルク、君はどこか行くところがあるのか? この辺りには人は住んでないはずだが」

 ジュストが聞いてきた。

「どこって特に目的地は決まってないよ。人の多いところに行って勉強してこいって師匠から言われてる」

 三人は馬車が集まっている方に歩きだした。

「エルク、私たちはベルグンの街に行くところだ。良かったらベルグンの街まで護衛を引き受けてくれないか? すまんゴド、君を信頼していないわけじゃないんだ。だがあの灰色狼の数はおかしい。大きすぎるし多すぎる。用心のためにエルクに護衛を頼みたいんだ」

「いえ、わかります。エルク、とりあえず野営地まで一緒に行ってくれるか?」

「はい。もちろん。ジャンの様子も確認しておきたいし、野営地まではご一緒します」


 四台が集まっているところに来ると最後尾の馬車の戸が開き、中から赤毛のちょっとふくよかな女性が顔を出して呼びかけてきた。

「ちょっとゴド、その子はどうしたの? どこから連れてきたの? さらって来たんじゃないだろうね」

 問いただすようなその声にゴドは怯んだようだ。

「マイヤ、人聞きの悪いこと言わんでくれ。俺たちを助けてくれた魔術師のエルクだ。こっちの美人はマイヤ、オッシの嫁さんだ」

「魔術師! だって子どもだよ、ゴド。うちのヘリよりちょっと年上なだけじゃないか」

「その子どもが、灰色狼を一人で全部倒してくれたんだ。ジャンも治してくれた」

「一人で全部? 馬鹿なこと言っちゃいけないよ。そんな可愛い子がそんなわけないだろ。あんた頭でも噛られたのかい。まさか、あんたの子じゃないだろうね。ジャンはあたしが見てるけど。それがおかしいんだよ。ジャンの服は血まみれなのに傷がないんだよ。狼の血かと思ったんだけど。ああ、骨は折れてないみたいだよ。まったくあんな数の狼が出るなんて」

「あ、あのマイヤさん、エルクです。ジャンの傷は塞ぎました。もう出血は止めましたので大丈夫とは思いますが、体温が下がって死ぬこともありますから注意してください。」

 ようやく口が挟めた。

「あんた、エルクかい。マイヤでいいよ。良く知ってるね。そういうので死ぬのはたくさん見たからね。まかせときな」

 エルクはため息をついて続けようとしたが、マイヤが早かった。

「エルク、あんた喋り方といい、知ってることといい、いいとこの子かね。うちのトピにも見習ってもらいたいもんだね。この辺りに人は住んでないけど、親御さんはどこだい? あたしたちと一緒に来るかい? 次の村まで二日はかかるよ」

「マイヤ、マイヤ。エルクとちょっと話があるんで前に行くよ。エルクも野営地まで行くから後でな」


 ゴドに助けられて、マイヤから脱出できた。ジュストも苦笑いしている。

「マイヤは普段はあんなしゃべり方じゃないんだが、興奮するとああなる。エルク、嫌わないでやってくれ。優しい美人さんなんだ」

「はい。怖かったのでしょう。もうちょっとで追いつかれるところでしたから」

「ああ、息子と娘が襲われることを心配したんだろう」

「息子と娘……家族で馬車に?」

「オッシの一家は行商しながら、歌ったり踊ったりもしている。マイヤ似の子どもたちだから美男美女になるだろうなぁ。オッシもそろそろ腰を落ち着けたほうがいいんだが」

 ゴドはおしゃべりなのか、マイヤのように怖かったのか、聞くのは止めておこう。


「エルク、私の馬車に乗ってくれ。ゴド、交代で馬車に乗ってもいいぞ。馬に水をやったら出発だ」

「はい、ありがとうございます、ジュストさん。交代で乗せてもらいます」


「よし、出発だ!」

 ジュストが声をかけて、エルクと一緒に荷台の後ろにあるちょっとした出っ張りに腰掛けた。街道はわだちがあり、つかまっていないと振動で落ちそうだ。

「エルク、さっきの護衛の話、受けてくれないかな。護衛費はそう出せないが」

「……いくつか確認したいことがあるけど、ベルグンという街までは護衛を受ける方向で検討します。ただ正式なお返事は確認が取れてからでいいですか?」

「確認をとってからか……ああ、いいとも。……君は礼儀を知っている。いい教育を受けてきたようだね。良家の出身なのかな」

 

 ……前世は高齢者だからね、子供の言葉遣いが難しい。


 エルクは頭を振って言った。

「僕は、孤児だよ。拾われてから今までずっと森の中で魔法の師匠と暮らしてた」

 ルキフェと考えたエルクの設定を話した。

「師匠以外の人とはあったことがないんだ。師匠も世間に出ずに魔法の研究をしていたから、世事に疎い。一通り魔法が使えるようになったので、世間に出て学んでくるようにと言われて旅を始めたばかり」

「ほう、魔法の師匠に。……エルク、そのアイテムパックだが……売るつもりはないかね。相応の金額を出すがどうかな?」

「ふふふ、このパック? 買ってもジュストさんは使えないよ。僕以外は出し入れできないようになっているから」

「そうなのか? 君以外は出し入れできないのか。……ではどうだろう、私の商会に雇われ……いや、すまん。つい悪いこと言ってしまった、忘れてくれ」

「いえいえ、商売向きな魔道具なのは、僕にも分かるよ。けどもっと勉強したいのでね。誰かの下につくことはできないんだ。それがどんな人でも」

「……そうか、護衛を受けてくれればありがたい」

「はい。あ、そうだ。ジュストさんは旅の間は忙しい?」

「いや、考えねばならないことは多いが、特に忙しいわけではない」

「じゃあ、護衛費用をいくらかまけるから、僕に色々教えてくれませんか?」

「こうして話をするのは気が紛れる。私に教えられることならかまわんよ、教える料金は高いぞ」

「お手柔らかに。では、お願いします」

 こうして世の中の事を教えてくれる先生を獲得した。


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