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都市伝説シリーズ

響く歌声、増える友人。

作者: 紅蓮グレン

「~~~♪」


 綺麗な夕日が道を照らし、私の影が地面に映る。こんな日のサイクリングはとても気分が良い。思わず鼻歌なんかを歌ってみたりして、ご機嫌さをアピールする。まあ、今この道には私を除けば人間など一人もいないのだが。


「~~~♪」


 私は夕暮れの道でのサイクリングを続行。雨や雪が降らない限りは毎日夕暮れ時にサイクリングをする。それが私の日課だ。あまり人に会うことはないが、優雅なサイクリングタイムを邪魔されないのでそれは構わない、というより寧ろ好都合だ。そもそも、私は世間一般の人間とはかなりファッションセンスが違う上、少々物騒なものも持ち歩いているからな。嫌われているか、そうでなくとも変人扱いされているだろうし、そちらの目にも触れない方がお互いの為だ。私にだって数は少ないが友人や同好の士はいるし、そこまで寂しいわけでもないからな。


「~~~♪」


 最近は道で出会った人が私のことを知らない場合がある。そういう人は大抵の場合、私のことを嫌ったり変人扱いしていることはない。そしてとても優しい。少し話をするだけで、たちまち同好の士と判明する。そして、私のファッションセンスを理解して、サイクリングに付き合ってくれる。そんな一期一会もあるから、サイクリングはやめられないのだ。


「~~~♪」


 因みに、人に出会った場合、私は必ずその人に命令をする。反応は2パターンだ。嫌な顔1つせずに受け入れてくれるか、無視するかだ。だが、無視した人が意地悪という訳ではない。無視する人は変なファッションセンスの奴から命令されたことに従う、という事象に照れているだけなのだ。事実、無視した人たちは例外なくその後態度を一変させ、サイクリングに付き合ってくれるのだから。


「~~~♪」


 ……それにしても人がいないな。日が暮れるまであと20分はあるので、その間はサイクリングをし続けるが、単調過ぎて飽きてくるのも事実だ。そろそろ誰かとの一期一会を経験したいものだが……


「~~~♪」


 そんなことを思いながら鼻歌を歌っていると、遠くに人影が見えた。恐らく男性で、周りに他の人はいない。1人のようだ。これなら声をかけやすいな。では、私が近寄っているということを歌で伝えよう。はっきり言って、私の接近を伝える歌は私の名前が入っているので、大声で歌うのは少し恥ずかしいのだが……まあ、あの男性以外には聞こえないだろうし、我慢しよう。もしかしたら彼も友人になってくれるかもしれないしな。


「トン、トン、トンカラトン♪」


 歌声が響くが、男性がこちらを気にするような素振りはない。私としては頑張って声を張り上げているのだが、聞こえなかったようだ。まあ、私の口元は覆われているから声がくぐもってしまうし、相当腹から声を出さないと聞こえないだろう。私は自分の口元を覆う包帯を少し忌々しく思いながら、もう一度声を張り上げて歌った。


「トン、トン、トンカラトン♪」

「っ?」


 息を呑む気配が伝わってくる。そして、男性は私を認識するや否や、こちらに背を向けると一目散にその場から逃亡しようとした。私には命令に従ってさえもらえれば別に危害を加えるつもりなどないんだが……まあ、包帯にグルグル巻きになって日本刀を背負った奴が近付いてきているのを認識したらビビるのも無理もない。逃げようとされることくらい日常茶飯事だし、私の心は大海原より広いからこのくらいのことでは怒ったりはしない。だが、せっかく久しぶりに会った人間だ。少しくらい話をしたい。


「トン、トン、トンカラトン♪」


 私は自転車を全力で漕ぎ、逃げようとしている男性の前に回り込んで逃走経路を塞いだ。さて、では命令をさせてもらおう、と思っていると、また私が何も言っていないにもかかわらず、彼はこう言ってきた。


「と、トンカラトン……」


 ああ、残念だ。私のことを知っているなら命令の後に言えばいいものを。私はゆっくりと背中の日本刀に手を伸ばし、


「私はまだ『トンカラトンと言え』とは言っていない。」


 と言い放ち、そのまま男性を斬り殺した。斬痕から血を噴き出し、バッタリと倒れる男性。返り血を浴びながらそれを見下ろしていると、どこからともなく飛んできた包帯が男性の身体に巻き付き始めた。地面に流れた男性の血液も包帯が余すことなく吸収していく。そして、男性の全身が所々赤く染まった包帯でグルグル巻きになると、彼はどこからともなく日本刀を取り出して背負い、これまたどこからともなく持ってきた自転車に跨った。これで彼も同好の士となったな。私は日本刀を鞘に納めると、彼を先導するようにサイクリングを再開した。


「トン、トン、トンカラトン♪」

「トン、トン、トンカラトン♪」


 2つに重なる歌声。また1人、友人が増えたことに私は満足する。


「トン、トン、トンカラトン♪」

「トン、トン、トンカラトン♪」


 私のサイクリングのルートは特に決まっていないから、いつか君の住んでいる街に行くかもしれない。君と出会った際には、ともにサイクリングできるいい友達となれることを期待しているよ。


「トン、トン、トンカラトン♪」

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