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道中いくつか魔物との遭遇があったが、いずれも弱い魔物であった為全てアリアが討伐していった。
「アリア殿もなかなかやるではないか。大したものだ」
「あなたに言われると嫌味に聞こえる……私などあなたの足元にも及ばないだろう」
「そんな事はない。ところでアリア殿はどうして戦士を目指すのだ?」
「戦士を目指す理由……わたしは幼い頃に両親を亡くしたので守ってくれる者がいなかった……自分の身は自分で守る。いつの間にか戦士になっていた」
「目指したのではなく、生き残る為か……」
「いろんな事を経験した。辛い事、騙された事、殺したい程人を憎んだ事もあった。だが生き残る為にそんな感情は切り捨てた。常に生きる道を選び続けた」
偉い子だ。
仕返し、復讐、殺人など、何も生み出さない。
そんな事より生き残る為に行動してきた。
私もこの子を見習い、慎ましく暮らしていこう。
「アリア殿は正直な人だな。嘘をついていないのがよくわかる。それだけ信頼に足る人物だと言える。君が私の名付け親で良かった」
「な、名付け親……そうだな……良い名前を考えないと……」
◇
「ライト殿、見えてきた。あれが城塞都市ラダートだ」
ライトというのはアリアが付けてくれた名前だ。
光属性でライト……安直だがアリアらしい。
「アリア殿のおかげでここまで来れた。恩に着る」
「私の方こそライト殿がいたおかげで帰還出来た。感謝している」
「ではお互い様と言うことにしておこう。貸し借りなしだ。その上で一つ頼みがある」
「なんでも言ってくれ」
「私は身一つで記憶も失っていた。つまり通貨を持っていない。キラーベアの素材などで得られたお金から少し分けて貰えないか?」
「キラーベアの素材はライト殿の物だ。全てライト殿に渡すつもりでいる」
「いや、一部でいい。君が運んだんだから君が取ってくれ」
「ではこうしよう。ライト殿と合流してからはパーティを組んでいたのと同じ。つまり山分けだ」
「すまないな。そのプランに乗っかろう」
「では買い取りしてもらう為にギルドへ行こう」
「ギルド?」
「ライト殿の記憶はどの程度抜けてしまっているのか分かりにくいな……ギルドを覚えていないのか?」
「そうだな……ギルドはわからない。どう言った物だ?」
「ギルドとは特定の職業の者が所属する組織だ。冒険者が所属するのは冒険者ギルド。商人が所属するのは商人ギルド。それぞれの職業にはギルドが存在するんだ」
「なるほど……今から行くのは冒険者ギルドか?」
「あぁ、冒険者ギルドだ。魔物の素材を買い取ってくれる」
「理解した。手間を取らせたな。ギルドへ向かおう」
アリアの案内で少し大きな建物の前まで来た。
「冒険者ギルド ラダート支部……」
私は看板の文字を読み上げた。
心配していたが、無事に文字が読めて良かった。
「入ろう。掲示板奥の買い取りカウンターだ」
アリアは先に歩いていった。
ギルドへ入るとすぐに掲示板が並んでおり、そこには何名かの冒険者がたむろしていた。
我々はその奥にあるカウンターへ向かった。
「すまない、素材の買い取りをお願いしたい」
「かしこまりました。素材を拝見したします」
アリアはカウンターの女性にキラーベアの素材を出して見せた。
周りの冒険者が好奇の目で見ている。
「キラーベアですね。強敵なのでなかなか持ち込みが少ないんですよ。お二人で討伐されたのですか?」
「そうだ、二人で討伐した」
私が答えた。
放っておくとアリアが「自分は何もしていない」と言い出しそうだったからだ。
「アリア様はよく存じ上げていますが、そちらの方はお見かけした事がありませんね。冒険者登録はされていますか?」
「いや、していないしするつもりもない。ソロが気楽なんだ」
「そうでございますか……キラーベアを討伐出来る程の腕をお持ちなら是非とも冒険者登録をお願いしたいのですが……」
「ライト殿、ここは一つ登録してみないか?登録したとしてもデメリットと言える事はないと思うんだが」
「アリア殿がそう言うなら登録してみよう。名だけでいいのか?」
「はい、お名前はライト様でよろしかったでしょうか?すぐに登録しますのでそのままお待ちください」
アリアの勧めで登録してみたが、これはこれで良かったかもしれん。自分一人ではしなかっただろう。
「はい、お待たせいたしました。こちらが冒険者証です。無くさないようにしてくださいね」
チェーンの先にプレートが付いており、首から下げるタイプのようだ。
私は首に下げてみた。
「どうだ?」
「これでライト殿も冒険者だな!よく似合っている!」
その後買い取りを済ませてギルドを出た。
「少しだけここで待っていてくれ」
そう言ってアリアはまたギルドへ入っていった。
すぐに出てきたが、どうやら仲間が亡くなった事を報告してきたようだ。
「一緒に食事をしていかないか?美味い店を知っているんだ」
アリアが誘って来たので乗ってみることにした。
アリアの案内で酒場のような場所へ入っていった。
「ここへはよく来るのか?」
「ここは少し高いからよく稼げた時だけだ。自分へのご褒美だな!それよりこれがライト殿の取り分だ」
そういってアリアは通貨の入った袋を渡してきた。
「少し教えてもらえないか?この金はどの程度の価値がある?ここの払いを済ませた後宿を借りたいが、そこの払いも賄えそうか?」
「もちろんだ!ラダートの普通の宿ならひと月は滞在出来る。キラーベアとはそれぐらい強敵なんだ」
「そうか。少し安心した。ゆっくり街に滞在出来そうだな。それよりアリア殿、頼みばかりで申し訳ないが後でいい宿を紹介してくれないか?」
「いい宿と言うわけではないが、私が利用している宿に案内しよう。ラダートでは中の中と言える宿だ」
その後アリアのおすすめの料理と酒を注文して歓談を楽しんだ。
「ライト殿は冒険者として討伐依頼などを受ける予定か?」
「まだ決めていない。しばらく街やギルドをぶらぶらしてみようと思っている」
「良かったらまた一緒に討伐に出ないか?私のパーティは全滅してしまったから仲間がいないんだ……」
「仲間とは長かったのか?」
「いや、今回初めて組んだ仲間だった。私には長く連れ添った仲間がいたんだが、つまらない事で別れてしまったんだ。それ以来一人だ……今回はグリフォン討伐のメンバーを募集していたから参加してみたんだが、うまくいかなかった……」
「そうか……ままならないもんだな」
「まったくだ……私の人生ままならない事ばかりだ……疲れてしまったよ……」
アリアは机に伏せってしまった。
辛い事を沢山経験しているのだろう。
「いつも一緒にはいてやれないが、たまになら一緒に討伐戦をこなそう」
「本当か!約束だぞ!!」
アリアはガバッと起き上がり、嬉しそうな顔を見せた。
いい子だ。
「ここの酒は本当に美味い。そう思わないか?」
アリアが顔を赤くしながら問いかけてきた。
「あぁ、美味い。酒はひさしぶりに飲んだから余計に美味く感じる」
再生してから初めての酒だけに五臓六腑に染み渡る。
美味すぎて何杯おかわりしたかわからない。
「しかしライト殿は酒豪だ……そんなに飲んでも顔色ひとつ変わってない。どう言う胃袋をしてるんだ?」
「私は酒で酔ったことなんてないな。美味いと思うが酔った感覚は味わった事がない」
アリアが唖然としながらつぶやいた。
「化け物か……」
ひとしきり飲食して店を出る頃にはアリアはかなり出来上がっていた。
仕方なく私はアリアをおんぶして店を出た。
「アリア殿、飲み過ぎだ……宿へ戻るまでが旅路だぞ」
「大丈夫大丈夫……シラフのライト殿がいる……宿はあっち……」
ダメだ……。
私は要所要所で道を確認して宿まで辿り着いた。
アリアは背中で九分九厘寝ている。
宿のカウンターで主人と思しき男に声をかけた。
「すまない、この子がここで部屋を借りていると聞いたが合っているか?」
「アリア様……確かに、うちを利用して下さっています。部屋へ案内致します。どうぞこちらへ」
この主人の心の光り方は悪くない。
まぁ無難な宿であろう。
主人の案内でアリアが借りている部屋まで来た。
「今鍵を開けます。お客さんはどうなさいますか?」
「私も部屋を借りたい。空いているか?」
「はい、空き部屋がございます。ご用意致しますのでアリア様を寝かせたらカウンターまでお越しください」
「待て、すぐにアリアを寝かせてくる。ここで待っていてくれ」
私は部屋に入り、アリアをベッドに寝かせた。
数日を一緒に過ごしたとは言え無防備過ぎる……。
私は澄んだ心を持つアリアの将来が事が心配になってきた。
「主人、待たせた。施錠してやってくれ」
「かしこまりました。では参りましょうか」
主人の案内でカウンターまで戻り、私の部屋まで案内してくれた。
「こちらの部屋になります。お出かけの際にはカウンターで鍵をお預けください。それではごゆっくり」
私は部屋に入り施錠をした。
ベッドに寝転び目をつぶった。
私はこれから人と共に生きていこう。
目立たず、騒がず、迷惑をかける事なく。
慎ましく、のんびり暮らしていこう。
しかしアリアはいい子だが、その分人を信じ過ぎるようだ。
私が悪意を持っていたら今頃大変な事になっている。
気にかけてやらねば……。
そんな事を考えながら眠りについた。
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