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 食事を終え、アリアは水筒に水を汲んでいるようだ。

 私はその間に木の影から取り出すフリをしてもうふた塊ボアの肉を取り出した。


「アリア殿の腰の鞄は魔道具か?もし持てるならこれも持っていこう」


 そう言って肉を渡した。


「あぁ、もう少しなら入る。ここでは食料も貴重だからあるだけ持っていこう」


「街まではいく日ぐらいかかる?」


「約五日だ。歩く速度や戦闘頻度より前後はするが」


「五日か……途中で食料調達が必要だな」


 私は食べなくとも死ぬ事はないが、この子は死んでしまう。

 ボアの肉はまだまだ持っているが今後は出せない。

 食料が調達出来ないと街まで戻してやるのは難しいだろう…… 出来る事なら街まで戻してやりたい。

 食料との良い出会いがある事を祈ろう。


 私達は街に向けて歩き出した。


「ソル殿は戦士か?魔導士か?」


「魔導士だ。属性魔法を使う」


「何属性か聞いてもいいか?」


「一般的かどうかわからない。一般的には属性魔法というと何が出てくる?」


「一般的か……火、水、風、雷、木、土、光、闇……一般的というとその辺りだろうか」


「どうやら手の内を明かしても大丈夫そうだ。記憶がないから私にとって不利益になる可能性もあって今のような事をアリア殿に聞いたんだ。私は光属性を使う。腕を出してみてくれ」


「こうか?」


 アリアが腕を出してきた。

 擦り傷が無数についている。

 私はその腕をひと撫でして傷を消した。

 癒しの光だ。


「おぉ!ソル殿は光属性、それも回復系か!傷を癒せる冒険者は非常に数が少ない。神よ!この出会いに感謝する!」


 アリアがとてもはしゃいでいる。

 いい子だ。


「攻撃手段も持っている。ボアを仕留めた事でも証明出来ているとは思うが」


「素晴らしい……しかもさっきの癒しも無詠唱だった。ソル殿は記憶を失っているが、本当は高名な冒険者ではないだろうか……」


「どうだろうな。名を売ることなど一切興味がないから街でも私の事はなるべく話さないでくれ」


「そうか……これ程の回復魔法……あなたならどのパーティからも引っ張りだこになると思うが……」


「私はソロでやっていける。どうしてもと言うならアリア殿の手助けはしても良い」


「本当か!!あぁ、この出会いに感謝する!!」


 アリアが浮かれてスキップを踏んでいる。

 いい子だ。


 その後は何も起こらずに夕方に差し掛かった。


「そろそろキャンプ出来る場所を見つけないとな」


 私が提案するとアリアには心当たりがあるようだ。


「いい場所を知っている。この辺りでは有名なキャンプスポットだ。もうすぐだから暗くなる前に着けると思う」


 程なくして昨夜を過ごしたような河原に到着した。

 先客も一組いるようだ。


「先客がいるようだな」


「何も問題ない。私は薪を集めよう。ソル殿は焚き火用の石をセッティングしてくれ」


 私達は役割を決め焚き火の準備をした。

 先客とは出来るだけ離してセッティングしたが、その気になれば顔が判別できる距離だった。

 アリアが戻り薪をセットしてくれたので、私が火をつけた。


「今火をつけたのは魔法?一瞬の事でわからなかった」


「光魔法だ。熱を発生させて発火させたんだ」


「ソル殿はやはり只者ではないな……火属性なら納得できるが光属性で火が起こせるイメージがなかった」


「大した事ではない……」


 思ったより私のスキルは目に止まるようだ。

 魔法ではないから当然だと言えるが、気を付けないとまた封印されてしまう。

 冗談でソルを名乗ったが失敗だったかもしれん……。


 焼けた石にボアの肉を並べながら考えていた。

 人前では体内に取り込む事も出す事も出来ない。

 収納関係の魔道具はすぐに手配した方が良さそうだ。

 光線も魔法っぽく球状にしたり刀身を模した物にした方が良いかも知れない。

 私の光線を通常出力で使うと貫通力が強過ぎて魔王扱いされてしまう。

 人前で使う場合はもっと雑な、集約されていない状態で使うべきだろう。


 そんな事を考えながら肉が焼けるのを待っている時だった。


「ソル殿……まずい。私は気配探知が出来るんだ。向こうから只ならぬ気配が迫ってきている……」


 確かに来ている。この気配は覚えがある。アリアはなかなか優秀な冒険者のようだ。強敵を前にしてパーティで唯一生き残ったのもその危険察知能力あってのことだろう。


「アリア殿。それが何の気配かわかるか?」


 私は大きめの声で聞いてみた。

 どうやら向こうの冒険者パーティも気付いた様子だ。

 四人パーティのようだが立ち上がり退避の準備をしている。


「おそらくキラーベアではないかと。急いで退避しよう!」


 キラーベアと聞き、向こうの冒険者は即座に去っていった。

 物資も捨て置くほどキラーベアは恐れられているようだ。


「向こうの冒険者は去った。少々騒いでも迷惑にはならんだろう。このままここで迎撃する。アリア殿は隠れていなさい」


「な……無理だ!キラーベアは四人パーティでも避けられることの多い魔物だ!単騎で迎撃できる相手ではない!」


「心配ない。私は魔王ソルだ」


「冗談を言ってる場合か!早く逃げよう!さぁ!!」


 そうこうしているうちにキラーベアは目視出来る所まできた。


「くっ!もう間に合わない!」


 アリアが抜刀し、キラーベアに向き合った。

 私はアリアに耳打ちした。


「ここで見た事は他言無用だ。私の切り札なんだ」


 そう言って私は光線を放った。

 雑に集約した光線は、光の槍のように見えた。

 一直線にキラーベアの額を射抜き、キラーベアはうつ伏せに崩れた。


「な……キラーベアを一撃で……今のは……?」


「今のは光の槍だ」


 適当に言ったが今の見た目なら納得するだろう。


「光の槍……そうか、ボアもこの魔法で……?」


「その通りだ。くれぐれも他言無用で頼む」


「魔王ソル……本当にそうなのか?」


「ははは、冗談に決まっているだろう。アリア殿は可愛らしいな」


「くっ……ソル殿は意地悪だ!あんな強力な魔法を見せられたら誰だってそう思ってしまうだろ!」


 アリアは顔を赤くして抗議してきた。

 いい子だ。


 その後キラーベアを解体した。

 アリアは解体も上手くこなした。

 売れるという素材もしっかり剥ぎ取っていた。

 食料問題は解決できたかも知れない。


「アリア殿の鞄にはあとどれだけ入りそうだ?」


「全部は入らないが街までの二人の食料分は充分入る。キラーベアの素材も手に入ったし、いい事ずくめだ。私一人なら万事休すだったが……」


「食料問題は解決だな」


 そして私達は中断していた食事を摂り、薪を追加して眠りについた。


 朝目が覚めるとアリアは起きてすでに火を起こしていた。


「焚き火の準備をしてくれたのか。ありがとう」


 アリアは火を突きながら呟いた。


「昨日の光の槍を思い出していた。あんな集約された光は見たことがない……」


 雑に集約したんだが……。

 だがボアの時は集約し過ぎて破壊部位が少なく殺しきれなかった。雑に集約して破壊部位を増やした方がかえって殺傷能力は高いのかも知れない。


「あなたは本当に魔王ソルなのではないのか?」


「言っただろう。記憶がないと。それに魔王ソルは人間なのか?私をよく見ろ。私は自分を人間だと思っているんだが、違って見えるか?」


 アリアは顔を伏せた。


「ソル殿はどう見ても人間だ……だが魔王ソルが人間か否かは私は知らない……人間だったかも知れない……」


「人間がそれ程長く生きられるという事を知らなかった。これは記憶がないからか?人間は千年も生きられるものなのか?」


「無理だ……人間は長く生きても百年程度……ソル殿が魔王ソルであるはずがない……」


 アリアは更に顔を伏せた。

 私は自分の外見が完全に人間と同じである事を理解しているので今のような問答が可能なのだ。

 ちなみに血液も赤い。


「納得していない顔をしているな。私がソルを名乗ったのは話の流れに乗っかっただけだ。それで魔王であると疑われるなら違う名前を選ぼう」


「すまない……あなたは謎めき過ぎている……違う名前にしておいた方が良い……」


 アリアがいい子で良かった。


「アリア殿、街に着くまでに私の名前を考えてくれないか?名乗るべき名が思いつかない」


 私は他の名前を考えるのが面倒だったのでアリアに名付けを一任した。


「わかった。あなたに合う名前を考えてみせる!」


 アリアは責任感に燃える目をしている。

 いい子だ。

 この子は無事に帰してあげたい。

 庇護欲をくすぐってくる。

 本当に素直ないい子だ。

 なぜ戦士などやっているのだろう。


 ふと見ると昨日去って行った冒険者の物資が残されている。

 彼らは無事に帰還出来ただろうか。


「アリア殿、昨日去って行った冒険者の物資が残されている。冒険者ならこういう場合どうするべきだ?」


「彼らは物資を置いて逃げた。この物資はもう所有者がいないと考えて良い。持てるだけ貰っていこう」


 そう言ってアリアは物資を漁り、カバンに詰めた。


「先を急ごう」


 アリアはそう言い、移動を開始した。



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