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私の先祖は日本のサムライです

 フリーターだった結翔ゆいとが戦国時代に転生され、その後剣豪安兵衛の娘ユキが活躍してから約四百年が経つ。

 そして現代に戻りのんびりしている結翔の前に、ユキの子孫だという女性が現れた。四百年の歴史が螺旋階段のように変化している。戦国時代に現代の知識を持ち込んだ結果、歴史が変わってしまった。




 




 戦国の世も終わった大阪城から、現代に二度目の、いや三度目の時空移転されたおれは、結菜さんとまったりとした日々を過ごしていた。宇宙の超生命体とでも言ったら良いのか、おれを秀吉の嫡男鶴松に転生させたトキとは、永遠に会えなくなってしまった。だが、あの状況ならまあ仕方がない展開だった。

 今台所に立つ結菜さんは食事の支度をしている。カレーライスと彼女の得意料理目玉焼きだ。フライパンを持つその結菜さんがおれに声を掛けて来た。


「ねえ、今日外国の方から面白い話を聞いたの」

「ん?」


 自他ともに認めるお城好きの結菜さんは、今も大阪城跡地で観光ガイドをしている。彼女のガイドは戦国武将のリアルな話やインスタグラム発信も手伝って、なかなか人気があるようだ。何しろ実際に戦国末期の時代に行って来た経験が強みだからな。外国から彼女指名で来る観光客なども居るという。

 一方おれは相変わらずのフリーターでさえないかぎり。あのまま戦国時代に残って居たら、日本を支配していた権力者だなんて、誰が信じるだろう。

 結局今のおれはこの狭いアパート暮らしだ。まあ現代に戻るか、あの時代に留まるかは究極の選択だったのだがな……

 遠くを見るような気持になっていたおれは、結菜さんの声で現実に引き戻された。



「とっても綺麗な女性なんだけど、先祖が日本のサムライなんですって」

「サムライ?」

「そう」

「だけどその人って外国人なんだろう?」


 女性はモルドバから来た観光客で、結菜さんのインスタグラムを見て会いにやって来たらしい。


「でもその方の先祖はヤスべとかの名前で、日本の剣豪らしいのよ」

「ぶは!」


 ジュースを口に含んでいたおれは思わずむせそうになった。


「ヤスべだって!」

「そうよ、確か大阪城にもそんな名前の強いお侍さんがいらしたわよね」


 安兵衛とはつい先日別れたばかりだが、実際に彼の生きた時代は千六百年代前半で今から約四百年近く昔の話になる。


「でね、その女性に私のパートナーが多分詳しく知っているだろうから、会わせてあげるって約束したのよ」

「ちょっと待て、ひょっとして時空移転の話もしたの?」


 だとしたらややっこしい事になる。


「それはしてないわ」

「よかった」

「会うのは明日ね」

「はあ!」





 その女性は名をユミアレクシアと名乗った。先祖を意識して学んでいるらしく、流暢な日本語を話した。モルドバで商社を経営してる方のようなのだが、信じられないくらい綺麗な方で、カフェに入り向かい合って座るとおれはまともに声が出なくなってしまった。


「…………」

「今日はいらして頂き有難うございます。結菜さんからいろいろお聞きして、是非お会いしたいと無理にお願いしてしまいました」

「あっ、そうです、あの、結菜さんはその、えっと今は、はい、えっと」


 おれはテーブルの下で、隣に座る結菜さんから思いっきり足を蹴っ飛ばされてしまった。


「私の先祖は日本から来たサムライで、ヤスべと名乗っていたらしいんです」

「そうですか」


 足の痛みでおれは自分を取り戻した。


「そのような名前の剣豪って、実際にいたのでしょうか?」

「はい、その侍でしたら、多分私の知る者ではないかと思います」


 ユミさんはおれの返事を聞いて目を輝かせた。


「では日本の歴史に名前が残っているのですね」

「はい、実際に彼と会っていた私は、あ、いや――」

「…………」


 さあどうしよう。おれが四百年前の人物と会っていたなんて言えるのか。

 当たり前だが、奇人変人の部類に入ってしまう。

 多世界のパラレルワールド、つまりこの世界以外にも全く別な世界も存在しているなんて事は、実際に観測することも不可能で、その存在を肯定することも否定することも出来ない。

 だから今ここでユミさんとそんな議論をするのは疑問だ。


「詳しく教えて頂けますか」

「それはもちろんです」


 おれは熱心に聞き入るユミさんに、安兵衛に関して知っているほとんど全てを話して聞かせた。但し時空移転に関わる部分はごまかした。

 おれ自身もまだこの変化してしまったらしい世界に、すっきりしないものを感じていた。何がどう変わったのか確認も取れていないのだ。

 この世界の現代では、ヨーロッパでヤスべと呼ばれ有名になっているらしいサムライは、九州の出身で名前は五島安兵衛。黒田利則殿の下に居たのだが思わぬ展開からおれ、つまり当時は秀矩の配下となる。薩摩藩を中心に伝わった古流剣術示現流の達人であった。しかし、その安兵衛がなぜ東ヨーロッパなどに行っていたのか。その辺の事情は全く分からない。おれが現代に戻ってしまった後の事なんだろう。

 何しろその後の四百年が、このおれには数日の、いやもしかしたら瞬間の出来事……

 これはパラレルワールドなのか、それともただ未来が変化してしまっただけなのか良く分からない。


「オスマン帝国で彼はどのような暮らしぶりだったのかご存じですか?」

「オスマン帝国!」

「はい、ヤスべはそこでラウラアレクシアと出会ったようなのです」

「………」


 これは参った。おれは何も知らないではないか。あの安兵衛の身に一体何が起こっていたのだ。

 もうユミさんに教えるどころではなくなってしまった。何とか知っている昔の話をしてお茶を濁した。

 ユミさんと別れた後すぐ書店に行き、あらゆる歴史書を棚から引っ張り出して、遅まきながら安兵衛に関する記事を読み漁った。それでやっと分かったのだが、オスマン帝国や今でいう東ヨーロッパに渡って大活躍をしたサムライとして、どうやら有名になっているようだ。あの安兵衛が日本を飛び出し、遠い異国でそんな働きをしたのか。

 戦国時代に転生して現代の知識を有効に活用したおれだったが、新しいこの現代では逆に知らない事だらけだ。戻って来てまださほど日が経っていないのだが、おれの元居た時代とは随分様子が違うと分かってきた。それはそうだろう、なにしろ家康が敗れて秀吉の嫡男秀矩が天下を治めたのだから。

 だがその後は豊臣と関係のない新政府が誕生する事になったらしい……

 結菜さんはユミさんからまだ数日のガイドを引き受けているようだ。

 おれは新しい現代に続く安兵衛の足跡データを、頭に詰め込んだのだった。

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