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朱邑魔都 〜白炎の王〜  作者: 月湖畔
リン 7
93/123

リン 二十 ー 30 ー

朱色の髪を持つ者はこの大陸で特別な一族のたった数人しかいない。

大陸に恐怖を与える魔に対抗しうる力を持った神官だけ。

何故こんな山奥に神官が一人でいるんだ。

そこらの村人と変わらない質素な衣装を身に着け、労働に従事している。

しかも樵と名乗った。

混乱するばかりだった。


「山賊に見えないし……もしかして、迷ったのかな」

「はい。迷った、とは少し違いますが、街道の道に戻ろうと考えています」


真っ先に立ち直ったのはスエン。

シウマに近づいて行く。

リンとリャンは顔を見合わせ、あとに続いた。


「外の道か。私は村から出たことがないから知らないんです」

「……そうですか」

「私の妻なら知っているかもしれない。よかったら村へ来ませんか」


男の正体は気になるが、村があるというなら立ち寄らせてもらう他ない。

それより『外』という表現が引っかかる。

邑と同じく、隔離された村だと予想がつく。

シウマが切った木を運ぶ手伝いをしながら、村へ向かう。

暫く歩くと二階建ての丸太小屋に着いた。


「ここが私の家です」


普通だ。

木を組んだだけの普通の家だった。

朱色で塗り固められてもいないし警備をする者もいない。


「まずは村長の家に行きましょうか」

「村長がいるんですか?」

「? はい」


神官は支配階級であり、都も地方都市も神官が治めている。

邑も神官であるクロウが長だ。

神官は魔から民を守り、民は神官を敬愛する。

神官はそれほど絶対的な存在だ。

なので、朱色の髪を持つシウマが村長だと思い込んでいた。

シウマは荷物を置くと、こちらです、と案内をしてくれた。

シウマの自宅は森の中にあり、村も同じ様に木々の間に点々と家があるのかと思っていたら、開けた場所に出た所に家が集まっており、集落を形成していた。

シウマの家の方が特殊だったらしい。

あの場所を選んだのは樵という所以かもしれない。

村人はリンたちと同じ黒髪に黒い目。

もしや神官ばかりいる村かと思ったがそうでもない。

皆、外部から来たリンたちが珍しかったのか、奇異な目でじろじろ見てくる。

敵意を向けているつもりはなかったが、相手からすれば不審者に違いなかった。

仕方ないと割り切るしかない。


「こちらが村長のお宅です。失礼します」

「……シウマか。珍しいね」


扉を開けてそこにいたのは老婆だった。

シウマが取り次ぎを頼むことなく話しかけているので、老婆がこの村の村長だと推測される。


「こんにちは。今日は、外から迷った方々をお連れしました」

「外の人間か。なるほど、鳥が喧しいわけだ」


村長は値踏みする目で三人を見ると、ふいとそっぽを向いてしまった。

遠慮がない態度に戸惑ってしまう。

旅人だと知れると歓迎されるか拒否されるかの二択だが、立ち寄った村の大半は歓迎をしてくれた。


「貧しい村だ。取る物なんて何もないよ。用が済んだらとっとと出て行っておくれ」

「俺たちが物取りだと……?」

「腰に立派な剣を下げておいて、人を斬ったことがないとは言わせないよ」

「村長さん。この方々は道に迷って村に辿り着いたそうですよ。木を運ぶのを手伝ってくれましたし」

「腹に一物抱えてる奴程、親切に振る舞うもんさ」


警戒心が強すぎて取りつく島もない。

疾しい気持ちがある筈もなく、森の抜け方を教えてもらいたいだけなのに。

困っていると、家の外が突然騒がしくなった。

森から村長宅まで歩いただけで、静かな集落で、けして賑やかだと感じなかった。

村長も外の騒がしさに気づき、訝しげに片眉を上げる。

やがて男が一人、駆け込んできた。


「村長っ! おっと、誰だあんたら」


勢いのままに飛び込んだが、手前にいたリンたちに気づくと、眉をひそめた。

間から村長がひょっこり顔を出す。


「なんだい?」

「村長。五日前いなくなったサンとこの子が山林で見つかったんだ!」


村人ははっとしてリンたちを睨みつける。

もしかしなくても疑っている目だ。

見つかった、という言い方からして、無事戻ってきたのではないのだろう。


「五日前は山に入る前だ。あんたたちがいう外の村で世話になっていた」

「余所者の言い分なんて信じられるわけがない!」


男の態度は邑の家名持ちを思い出す。

こちらが何を言おうと正義は自分であることを疑わない。

なんとなく懐かしい気持ちになりながらリャンとスエンに目配せをする。

関わらない方が良い。まともに相手をするだけ無駄。

二人も同意見らしく、目礼で返してきた。


「明日には出て行きますから、宿だけ教えてもらえますか?」

「この村に宿なんてないよ」


閉鎖された村は、外部から人が来ないから宿が成り立たない。

邑も同じく宿はないが、宿泊施設として神殿の一室を解放している。

この村には神殿もなさそうなので野宿になりそうだ。


「でしたら、我が家にいらして下さい」


控えめに申し出たのはシウマ。

宿がない以上屋根があれば何所でも良い。

村長たちの怪訝な目に見送られながら、シウマの家まで戻る。

途中、集落の一角に人集りが出来ていた。

女が泣き叫んでいる。

子供の母親なのだろう。

やはり子供は無事ではなかったようだ。


「リン?」


スエンに呼ばれ、顔を上げた。


「変な顔になってたぞ」

「変って……もっと言い方あるだろ」

「あー……沈んだ顔してたから」

「ちょっと、昔を思い出しただけだ」


邑では魔の所為で人が死ぬのが日常的にあった。

肩を並べた仲間や、一緒に畑の世話をした夫人、魔憑きに巻き込まれた子供もいた。

日常的でも、人がいなくなるのは悲しいし寂しい。


「子供の行動は親の責任。山中は危ないから立ち入らせない教育してない親が悪い」

「極端な……」

「子供を死なせたくなきゃ教えるのが親の役割でしょ。そこらの獣だってやってる」


リンは母親に同情したが、リャンは逆だった。

リャンは長く続く工房の生まれで家族は仲が良く育ちも良い。

そんな家に生まれながら、育児放棄や虐待をする親を憎んでいる節があった。

自分の婚約者の生い立ちに理由があるのだろう。

穏やかで健気な彼女に、幼少期に虐待を受け家を追い出された過去があることをリャンは知っていた。

故に、過敏になってしまう。


「手厳しいですね。あの子は子供同士で遊んでいて、いつの間にかいなくなっていたんです。ふざけて森に入ったとかではないらしいんですが。村総出で探しても見つからずこんなことに……」


シウマが表情を曇らせる。

神官と同じ色彩を持つ男に口答えする気がおこらず、黙ってあとを歩いた。


「ただいま」


再び森の中に建つシウマの自宅に来た。

扉を開けると中は薄暗く、窓から入ってくる光のみと、やや頼りない。

ひんやりとした空気に音が妙に響いた。

丸太だけで組んだ家は、シウマが自分で建てた物だと言う。


「私の祖父が外から移住してこの村に住み着いたのです。先程の通り、この村の人たちは外から来た人を歓迎していない。ですので、私も余り良く思われていないのですよ」

「そんな。あなたはこの村の生まれなんでしょう?」

「風習なんでしょう。それにこの髪色ですし。とにかく余所者が嫌いなんですよ」


つい、と一房見せびらかす様に髪先を持ち上げる。

この色が神官を示していると、知らないのだろうか。

神官が尊い存在だとわからないのだろうか。


「その髪は、親譲りなんですか?」


神官が行方知らずになったなど聞いたことがない。

尤も、クロウとリオンは都から逃げ出したが、建前上ではリオンは病で臥せっていると噂になっており、クロウは初めから存在しない者とされている。


「いいえ。両親とも黒髪でした。祖父母も違うと聞いています。私だけなんですよ」


ははっ、と力なく笑う。

他人とは違う朱色の髪は劣等感の塊のようだ。

特殊な力より他人と同じ髪色に生まれたかったと、傷ついている様に見えた。


「あの、炎のことは村の人は知っているんですか」

「……やはり知っているのですね」


一瞬目を見張り、肩を落とす。

どうやら村の人たちは知らない、知られない様にしていた。

掌を天に向けると、ゆらりと朱色の炎が現れる。

魔を避ける朱炎だ。


「これがどんなものか知っています。妻が教えてくれました」

「そういえば、奥さんは?」


存在は聞いていても姿を見ていない。

先程、ただいま、と声をかけても返事がなかった。


「生憎臥せっておりまして、人前に出ることが出来ないんですよ」

「そんな所にお邪魔しちゃっていいっすか?」

「はい。部屋も余っておりますし。この村では、誰も招いてくれないでしょう」


確実に門前払いされる。

それどころか、子供を誘拐して害した犯人として吊るされかねない。

快く部屋を貸してくれるというなら、遠慮なく泊まらせてもらう。

お礼にと湖に潜って魚を獲ってきたが、またもや衣服をびちゃびちゃに濡らし、真っ赤な顔のスエンに怒られた。

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