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朱邑魔都 〜白炎の王〜  作者: 月湖畔
リン 1
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リン 十九 ー 3 ー

※リメイク済み

住み込みで働いているリンの寝床は、宿の二階の端にある一番狭い部屋。

寝台と横にある小さな棚、数枚の着替えを入れている籠以外に家具らしい物がない。

起きている間は仕事に追われているし、店主夫婦から家族同然に衣食住を与えられているので、少ない給金で買う物と言ったら好物である甘味くらい。

水飴を練って固めたものを少しずつ大切に食べている。

甘い焼き菓子も好きだが日持ちがしないので、良いことがあった日の贅沢だ。

瓶で数日保存できる飴は値が張るので干した枇杷もよく食べる。


仕事が終わるのは、酒場の最後の客を見送り片付けを終えるまで。

片付けの間に賄いを食べ、最後に店の裏手で水浴びをして部屋に戻る。

今日の賄いは落とした魚を再調理してもらった。ほぐした魚の身と豆が入った粥だった。


夜の港町は昼とはまた違った喧噪がある。

昼は活気がある賑やかさ、夜は静まった水面に波が立つようなざわざわと蠢いている騒がしさがある。

大通りも娼館に続く細道も明かりが消えず、客を誘う夜商売の女たちが立っている。

リンも、大将に拾われなかったら道に立って客を取っていたかもしれない。

幸運だった。

十九になるがまだ男を知らない身体。

自分の身体で金を稼ぐ。リンには出来そうもない仕事だ。

きっと怖気で手が出てしまう。


「……クロウ」


幼なじみの名前が零れる。

子供の頃、放置街で拾われてからずっとクロウと一緒だった。






貧民窟と化していたあの街は腐臭が漂い、住む家のない避難民たちが地べたに寝転んで、明日も知れない日々を渇望するだけの瓦礫の街だった。

何日かに一度、神殿の役人が来て浮浪者を放りにくる。

大人たちが魔に脅かされた所為で孤児になった子供も沢山いた。

リンは孤児だった。

都の塀の近くで魔に侵された母親に首を絞められていたところを役人に助けられ、放置街に捨てられた。

食べる物もない。この街で腐っていくだけ。

いっそ助けないで放っておいてくれれば良かったと思ったこともあった。

父を亡くし、母に殺されかけ、行く宛のない寂しさはまさに絶望。

ある日、霞んでいく視界に光が見えた。


『クロウと同じ年頃だ。可哀想に』


抱き上げられどこかに連れて行かれた。

気がつくと身体はきれいに洗われ、汚れのない服を着させられていた。

そして、クロウに引き合わされた。


『今日からおまえの主人だ。仲良くするんだよ』


そう紹介された。

同じ年頃の男の子との初めての出会いは衝撃的だった。

肩で切りそろえた乳白色の髪。真っすぐ映す金色の瞳。

まるで作り物のように美しい子供だった。

美しかったが陶人形のように表情がない。

生気がまるでなかった。少し前のリンのように。


『おまえ、名は?』


人形が喋った。それくらい衝撃があった。

幼いながらも凛とした知性的な声。


『……ィ…………』


反対にリンの声は出なかった。

喋り方を忘れたかのようにかすれて音にならなかった。


『リ? では、リーと呼ぶ。お前はリーだ』


それ日から、どこに行くにもクロウのあとをついて回った。

もちろん、都を追われて忘れ去られた土地に逃げる時も。

余所者だ避難民だと謗られても、クロウの傍を離れる気などなかった。

クロウの傍にいることが存在意義だと本気で思っていた。






「遠いな……」


ちらりと寝台に横たわっている一振りの剣を見る。

長くはない、でも子供が持つには大きい直剣、邑から唯一持ってきたリンの愛剣。

剣を売ればもっと遠くに行けたかもしれないけれど、これだけは手放せない。

リンの為に誂えられた鞘に刺されているのは白い炎、クロウを表す模様。


もう眠らなければ、明日の仕事に響いてしまう。

朝食のあとは井戸から水を汲んで、宿泊客の部屋の掃除をして、市場へ買い出しに行って……


横になって間もなく、狭い部屋に寝息が立った。

一振りの剣を胸に抱くリンの額には、小さな玉の汗が浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私はスコッパーで、多分いままで数千作品とよんできたような人間です。 その私が見るに、この作品・・、そこそこ読める内容の割にポイント不自然なぐらい入ってないなと感じます。 いくら流行りでもな…
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