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朱邑魔都 〜白炎の王〜  作者: 月湖畔
【間話】クロウの初恋
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【間話】 クロウの初恋 ー 3 ー

※残酷な描写があります。

気づいたら暗く、埃っぽい場所に転がされていた。

足は自由になるが、腕は手首を合わせるように縛られている。

力を込めても子供の腕力ではびくともしなかった。

知らない男たちに捕らえられたことは覚えている。

途中、籠のような物に押し込められ運ばれた。

クロウの予想では、リオンの屋敷の外に連れ出された。

叔父の愛情が偽物でないのなら、犯行を命じたのは大神官である実父、または奴に組みする家名持ち。

クロウは最重要警護対象として守られていた。

屋敷の警護の目をすり抜け、攫ったのだから相当の手練の犯行。

そもそも、懐疑心の強いリオンが屋敷の入場を許可したのならば、クロウを攫ったのは信頼の置ける顔見知りとなる。

屋敷は今頃、クロウの不在に気づき、騒がしくなっていることだろう。

一番始めに気づくのはクロウの警護を任されていた者か、一緒にいたリャンか。

どちらにしても一番騒ぎ立てるのはルオウだろう。


「いた……っ」


近くで声がした。

暗くて良く見えないが声は子供、間違いなくリーだろう。

一緒に攫われたようだ。


「リー。大丈夫か?」

「クロウ? ここどこ!?」

「しー。人攫いにあった。場所はわからない」

「リオン様のお屋敷じゃない?」

「たぶん」


周囲にリー以外の息遣いが聞こえないので、近くに見張りはいない。

身を捩ってなんとか上体を起こす。

声がした方へ擦り寄った。


「わあ!?」


途中でぶつかり、驚いたリーが声を上げる。


「わたしだ」

「クロウ……か」

「こう暗いと何も見えん」

「うん。クロウ、怪我してない?」

「縛られて痛いけど、他は大丈夫だ」

「腕! すぐにほどくから……」

「暗くて見えないだろ」

「じゃあきるもの……」

「危ない」

「縄ぬけ……」

「まだできないだろ」


クロウをなんとか助けようと案を出すがいずれも困難なものばかり。

クロウには神官の炎があるが、リオンに固く禁止を言い渡されている。

炎であっても物質を燃やす性質ではない為、明るくなるだけだが。

リーが静かだ。

すべて切り捨てる為拗ねてしまったのか黙ってしまった。


「リー?」

「……人がくる」


リーは耳が良い。

床に寝転んでいるから振動が聞こえるのだろう。

振動元の方に顔を向けると同時に、扉が開いた。

しばらく暗闇にいたから突然の光に目が眩む。


「白い髪……本人だな」


逆光になって顔がはっきり見えない。

主人と思われる男が一人、誘拐の首謀者だろう。

そのうしろに家来が数人。

隙をついて逃げることは難しい。


「この後はどのように」

「本当に炎が使えるのか」

「噂ですので、実際には」

「なら、炎を出してみろ」


男はクロウに命じた。

髪は朱色ではない、ただの黒。

何故神官でもない初対面のただの人間に偉そうに命令されなくてはいけないのだろう、と苛立ちが湧いた。

無言で男を睨みつけた。


「生意気な! 出せと言っているんだ!」


男は逆上し、クロウを蹴ろうと振りかぶる。

衝撃がくると、構えた。


「ぐぁあっ!」

「!?」


クロウを庇ったリーが横に吹っ飛んだ。

壁にぶつかりぐったりと横たわる。


「リーっ!」

「なんだ、この餓鬼は!」


男は汚らわしいものを見るような目でリーを一瞥する。


「殺せ」


男は家来に短く命じる。

ひゅっと喉が鳴った。

サーッと血の気が引く音がする。

今まで何度も命の危機に遭った。

助けてくれる大人もいない。

人の手によって明確な死が近づいている。


「リー、起きろっ! リーっ!!」


家来の一人がスラリと剣を抜く。

ぼんやりとしていて動こうとしない。

痛みで朦朧としているのだろう。

だけど、頼むから逃げてくれ。

また願うしかできないことが、何より苛立たしかった。

剣が閃く。


「やめろーーーーーーーーっ!!」


リーはぴくりと動き、引きずる様に刃から逃げた。

家来はくそっ、と呻き、リーを足で踏みつけた。

無防備な背中に剣を突き立てる。


「ぃひぁぁあああーーーー!」


ドクンドクンと心臓が大きく速く鳴っている。

声がひりついて出せない。

全身が凍った様に冷たく感じる。

半開きになった口から漏れ出す息の様に音が震えた。


「リー……?」


リーは動かない。

剣が抜かれた傷口から赤い血がダクダクと流れている。


「お前もああなりたくなければ、さっさと炎を出してみろ」


首謀者の男が剣を取る。

抜いた先にはクロウ。

従わなければ斬るつもりなのだろう。

従っても生きて帰れる保証などない。

いや、本当の黒幕が大神官ならば、けして生かしておくわけがない。

ちらりとリーを見る。

微かに瞼が震えていた。

まだ生きている。

僅かの可能性に賭けてみた。

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