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朱邑魔都 〜白炎の王〜  作者: 月湖畔
リン 6
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リン 二十 ー 26 ー

至近距離から視線を感じた。

体は眠っているのに意識がそちらに向いてしまっているので、頭が冴えている。

この視線に害意はない。

隣で転がっているリャンだろう。

人の事見ていないで早く寝ろ、と念じる。

ふっと気配が軽くなった。

やっと寝たかと、安堵した途端、窓の硝子が割れた。

パリン、と軽い音ではない。

瞬時に襲撃されたと判断し、腕に抱えていた愛刀を構えた。


「どいつだ」

「全員殺せ!」


明かりがない部屋に数人の賊が押し入った。

窓からだけではなく扉からもドカドカと入ってくる。


「くっそぉ……やられたぁ」


リャンが低く唸る。

暗くてもリンの目にはくっきりと映っている。

窓側に二人、扉側に四人。

見知った姿がいくつかある。

思わずため息が漏れた。

腐っても家名持ちだ。

彼らを害すればリンたちが悪になる。


「リャン兄」

「ん」


どうしようかとリャンを窺うと、顎でくいっと窓を差した。

逃げる一択に小さく頷く。

スエンも襲撃と同時に飛び起きて身構え得ている。

こちらを窺って次の行動を探っているようだった。

互いに戦闘態勢になっており、夜襲は失敗に終わった。

狭い室内では迂闊に襲ってこれないようだ。

まだ諦めておらず、じりじりと賊が距離を詰めてくる。

暗闇で、視界が明るいのはリンだけ。

枕にしていた荷物を手に取り、窓に向かって踏み込んだ。

窓から侵入した賊をリャンと二人で沈め、外へ飛び出した。


「逃げたぞ!」

「追えっ!」


静寂に包まれていた宿屋街を駆ける。

背後から追ってくる気配を感じながら、先頭のリャンに続く。


「どこかに隠れるか?」

「あ〜、っと。あそこに行こう」

「どこだよ」


リャンに案があるらしく、彼に従って走った。

殿のスエンはチラチラとうしろを気にしている。

逃げ込むにしても賊が追いついたら意味がない。


「町の外に出る。外壁の塔を目指すぞ」

「応」


追手を撒きつつ塔を目指す。

石畳を蹴り上げる複数の音が街中に響く。

外壁の途中に建つ細長い建物。取っ手付きの板がついている。


「あそこだ」

「あれは壁の管理塔だぞ」

「上に登れば町の外に出られる」

「飛び降りる気か!?」


勢いをつけて扉の中に飛び込む。

内側に閂がついていたので時間稼ぎの為に閉めておく。

石を積み上げられて造られた円錐の塔はひんやりとしていた。

塔の中は誰もいなかったが、火がと灯っていて明るい。

上がる息を整えながら辺りを見渡す。

人の気配はない。


「スエン。ここの構造わかるか?」

「知らん。が、階段はねぇぞ。賊が、忍び込んだ時、の対策に」


滝の様に流れる汗を拭いながらスエンは指を指した。

高い天井にはぽっかりと穴が開いている。


「まさに今の俺たちだな」

「じゃあ、どうやって上に……」

「梯子があるはずだ」


手当たり次第塔の中を探る。

いくつか小部屋があり、物置とおぼしき部屋に木製の梯子があった。

穴の真下に来るよう壁に立てかける。


「ここに逃げ込んだぞ」

「役人呼んでこい!」


扉の向こうから声がした。

追っ手が追いついたようだ。


「俺が先に行く」


スエンが梯子を登っていく。

梯子は建物の二階の高さまでしかない。

途中から杭が打たれており、それを登っていくようだ。


「リャン」

「ん?」


リンは背後に目をやる。

ドン、ドンっと体当たりされる度、扉が悲鳴を上げている。

板は軋むがまだ壊れる気配はない。


「さっき『やられた』って言ってただろ。襲撃される覚えがあるのか?」

「あーー……たぶん、なくはない」


リャンは明後日の方向を向いてはぐらかそうとする。

心当たりがあるらしい。


「リン」


スエンが上から手を差し伸べている。

リャンを問いつめるのは後にして、続いて登る。

壁の上は道になっていた。

壁は町の中にもあり、市街と神殿を区切る役目も担っている。

腰の高さまである塀の隙間から町中を見下ろす。

先程の男たちが塔の入口を壊そうと躍起になっていた。

少し離れた所から兵士が走っているのが見える。

彼らが呼んできたのだろう。


「よっと」


最後にリャンが登りきった。

更に使った梯子を縄を使って引き上げている。

足場がなくては上には上がれない。

壁を挟んで外側は伸びきった草が生い茂っているただの空き地。

現在地は町の西側、目指す地へ行く為には北側から抜けるのが理想だ。


「ここを通って神殿まで行くか? 事情を話せば……」

「無理だ」


リャンが即座に拒否をした。

神殿には、ロアンへ面会を求めている。

ロアンからも助力の申し出があった。

闇雲に旅をするより、唯一の交易を管理しているロアンの手助けがあったならば確実な道が保証される。


「襲撃者と繋がっている可能性がある」

「何だって……!?」

「詳しくはあとあと。ひとまずはここを離れよう」


外壁には松明が等間隔に設置されており、ゆらゆら移動している火は見回り兵と推測される。

この場でじっとしていても、やがて見回りの兵士が来て見つかってしまう。

壁の外に人気はない。

梯子に使った縄を壁に垂らして、外へ降りた。

念の為、縄に火をつけて燃やしておく。

あとは一刻も早くこの町を離れるのみ。

夜に門が開かないとはいえ、神官であるロアンが敵に回ったと考えるなら、近くにいるべきではない。

魔憑きであるリンは討伐対象。

更に捕縛要請が申請されている。

リンを亡き者にしたいガイたちにより、おそらくこの騒ぎの主犯にされるだろう。

役人たちも、当事者がいない以上詳しく調べず彼らの話しを鵜呑みにする。

見つかったら最後、生きてこの町から出られるはずがない。

元より楽な旅だとは思っていなかったが、先行きが絶望的な程とは誰が予想しただろう。

決まっているのは目的地のみ。

運河を辿れば次の町が見えるはずだと信じて、夜の草原を走った。

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