十四 ー 2 ー
※リメイク済み
大陸の西の最果てに新しい集落がある。
先代の神官、クロウの叔父が邑を興した。
この地に移る際、自身の信頼できる部下十数名とその家族、そして都の貧民窟で屯していた避難民を引き連れて。
大陸には魔の巣窟があちらこちらにある。
同時に人が住めない土地もあちらこちらにある。
魔に追われた人たちが行き着くのは大神官がいる都。
都には大陸南部の海まで伸びた運河が通り、神官が住まう大神殿と流通の要である商業都市がある為大変豊かだ。
しかし、栄えている場所があればそうでない場所もあり、神殿関係者と市井では貧富の差がはっきりしている。
さらにはそれ以下の場所も存在している。
彼らは都へ逃げて来た者ばかりで、たとえ暮らしに困っても魔の脅威から逃れられる。
都の貧民窟は避難民の人口が年々増し、神殿の管理の手が届かず、無法地帯となって放置されている。故に放置街と呼ばれていた。
放置街には食うに困っている者たちが集っている。
魔が好むのは闇。純粋な心を持った子供より、不安・焦燥・憤怒・悲嘆が入り交じった負の感情を持った大人が狙われる。
魔から逃げる際に命を落とす者も少なくない。
奪われるのは大人で、保護収容される放置街には子供が溢れていた。
世話をする者もおらず、多くは衰弱して道の端で動かなくなっている。
盗みや殺人が当然のように毎日起こっており、神殿が兵をあげても手がつけられない状態だった。
こんな場所、と思っていても都の外に一歩出れば魔の脅威に曝される。
手を差し伸べた先代の神官は、放置街の避難民にとって正に救いだった。
新しい集落はとても人間が住める場所ではなかった。
荒れた土地を耕せど魔に侵された土地で農作物が育つはずもなく、草も生えない土地から水を引こうとも地盤が堅くて水路を一つ作るのも難しい。
神官の力で人が住める領土を作り出したが、生活は放置街と変わらない程貧しい。
浄化の行き届かない土や水に触れただけで魔に侵され、気が狂って憔悴し命を落とした。
神官が生み出す浄化の炎をもってしても人が安心して触れられるまでに数年を有した。
切り立った崖にある集落は、手前にある魔の森がある所為で安全な路がない。
崖の下は荒れ狂う海。船を出しても沖へ漕ぎ出せば瞬時に波に飲み込まれて沈む。
生きる為には森の外から物資を運ばなければならない。
森の一部を焼いて路を作り、危険性を孕みながらも森を抜けて外へ行くことを可能とした。
年に数度の交易を開始したのは邑が出来てから翌々年のこと。
荒れ果てた土地に人が暮らせる集落となる迄、休むことなく開拓を進めた。
神官とその部下たちが集落を守り、避難民たちが生活を守る。
集落ーー『邑』の民の絆は強固になっていった。