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~もうひとつの世界~
ハッ、眠ってた?どれくらい?
ここはどこだろう?懐かしい匂いがする…
視界が定まらない。
どうやって視点合わせるんだっけ?
思うように身体が動かない…
「田邉さん、大丈夫?まだ頭の痛みとめまいしてる?」
「いや、寝たら治ったみたいだ。」
田邉さんか…
期待した分かなり凹む…
「寝たって言っても10分くらいよ?なんだったんだろうね。そっか、でもとりあえず治って良かった。」
香織の声がだんだん涙声になっていっている?泣いてる?
香織の顔を見たいのに視点が全く定まらない…
香織を抱きしめたくて手を伸ばす。
「泣いてる?ごめん、期待したよな。はぁー。」
目を閉じ深いため息をつく、
香織は差し出した手を握った。
「ごめん、泣かないって言ったのに。お互い辛いのに私だけ…ごめん…。」
「ハハッ、さっきまで一緒にって言うか俺のほうが泣いてたよ?ねぇ、抱きしめてもいい?もう押し倒したりしないから…香織、お願い。」
香織のほうに向き直り手を引き抱き寄せる。
「えっ?今何て…?」
気づかない間に少しずつ周りが見え始めていた。
あれ?抱き心地が…
確認したくて慌てて体を離し香織の顔を覗き込む。
「あ、あぁ、香織…うぅ、うぅ、」
香織の顔を見た瞬間、涙が溢れた。
すがりつくようにキスをする。
「俺、戻れた!」
「え?戻れた?どこから?えっ?何が起こったの?」
俺の家だ!香織と俺の。
そして会いたくてたまらなかった香織が目の前にいる!
「違う世界、パラレルワールド?みたいな!香織、俺の奥さん?」
香織は俺に抱きつき泣き崩れた。
きっと同じ思いだったに違いない…
二人抱きしめ合って泣いた。
まだ信じられない。
確かにここは俺と香織の家。
でももっと信じられないのは香織だった。
落ち着いて話をしていくにつれ、更に信じられないという感じだった。
こっちでの俺はただただ頭のおかしくなったヤツだったようだ。
ある朝から記憶がおかしくなり香織のことを忘れた夫…
夏川にすがりついた挙げ句、夏川の彼氏に殴られたこともあるらしい…
精神科に通院し、頭の検査も定期的にしていたようだ。
そもそもあっちの世界では俺と香織は会ったことのない他人だった。
だから分岐点に気づけるはずもなくパラレルワールドという可能性に行き着かなかったらしい。
香織は自分の事を知らないという俺を名前で呼ぶのをためらったらしく田邉さんと呼んでいたらしい。
だから目が覚めたときに変わらずあっちの世界のままだと勘違いしてしまった。
「もしもあの時、香織が仕事を辞めてたら会うこともなく別々の人生を歩んでたんだ。そして俺は何故か夏川と付き合ってた。」
「フフッ、いきなりひろが夏川くんに抱きついたときは本当に驚いたのよ。」
確かに。俺も夏川から付き合ってるって聞かされて心底驚いた…
「あっちの世界での夏川はかなり落ち込んでて、でも俺はどうしてやることもできなかったんだ。」
今ごろあっちの世界での夏川は喜んでるに違いない。
香織はどうしてるだろう…
旦那と先輩…
心から願う…どちらを選択しても幸せになって欲しい。
「あっちの世界に行く前の夜のこと覚えてる?」
「えっ?よく覚えてない…」
香織は首を振る。
「先輩に子どもができたって聞いた日だよ。俺は香織が産んだ子どもも見てみたかったって思ったんだ。香織も自分と結婚しなかったら俺にも子どもがいたかもって言ってて、少しケンカした…」
そう、きっとあんなこと考えたから…
「でも俺は香織と結婚しない人生が別に存在して男の夏川と付き合ってた。事実婚って形で籍は入れられなくても家族になろうとしてた。」
香織は俺の話を聞きながら頷く。
「だから心配しなくていいんだ。俺たちの結婚。何も不安になることなんてなかったんだ。そりゃ、香織の子は可愛かったけど俺の子じゃなかったし…旦那ともうまくはいってなかったよ。それに子供はいないけど俺たちはケンカしてもすぐに仲直りできるし、お互いを思いやれるいい夫婦だと思う。俺は幸せだよ。」
香織の目からはまた涙が溢れだした。
涙を指で拭ってやり、軽くキスをする。
「俺には香織しかいない。今回のことで本当にそう気づいたんだ。香織、俺を選んでくれてありがとう。これからも一緒に幸せになろう。」
「うん。私も、選んでくれてありがとう。」
しばらくお互いの存在を確かめるように抱きしめ合った。
「パラレルワールド…本当に存在するんだね!じゃああっちでは私たちって会ったことなかったの?」
それからあっちでの出来事を香織に話して聞かせた。
不安は残る。またどのタイミングでどこに飛ばされるか…
でも何のイタズラか戻れたんだ。
今この瞬間を大切に全力で香織と幸せになろう。
「そうだ、先輩や夏川にも迷惑かけたよな…。早く会いに行ってこの話をしよう。先輩には聞きたいこともあるし!」
~こちらの世界~
あれから3日経った。
昨日は田邉さんの誕生日だ。2人とも日本に帰ってきたのかな?
まだ連絡はなかった。
その代わり稗田さんとは毎日電話をしている。
あの日、田邉さんが戻った夜、香澄が眠ってしまって私が起きているとわかると会いに来てくれた。
ほんの10分くらいだけど、コーヒー飲んで帰りにキスをする。それだけで本当に幸せだった。
その日の夜、夏川くんから電話がかかってきた。
『もしもし、香織さん?夏川です。香織さん…』
電話を取ると元気な夏川くんが話出したかと思ったらすぐに泣き出してなんて言ってるか聞き取れなかった。
「夏川くん?大丈夫?田邉さんと喧嘩でもした?」
『いえ、弘人とちゃんと会えたって…ズズッ報告してなかったので。僕からちゃんと言いたかったから、うぅぅ~。』
「うん!良かったね。本当に良かった。誕生日もお祝いできた?オーストラリア大変だったでしょ?」
『ヘヘッ、はい。本当にありがとうございます。そしていろいろごめんなさい。こんな僕だけどこれからも連絡していいですか?』
「もちろんだよ!私何もしてないし、謝られるようなこともされてないよ。あっ、あと私、田邉さんにラブラブ写真付きのメール送ってもらう約束したのに。まだもらってないんだけど?」
『えっ?ラブラブって…香織さん、そんな刺激的な写真欲しいんですか?ククッ』
えっ?刺激的?
「いやっ…もー!そんな写真じゃないよっ。すぐからかう!」
『ハハハッ、送ります。香織さん、大好き。いつか会えませんか?弘人も改めてお礼がしたいって。社長も一緒に。』
「お礼だなんて!フフッ、私も好きよ!夏川くんのこと。みんなで会いたいね!夏川くんは今度はいつ海外行くの?」
『それが、社長からの結婚祝いにひと月ほど実質休みもらったんですよ!なので新婚旅行計画中なんです。なので早めが助かります。ヘヘッ』
夏川くんがこんなに嬉しそうに話すのは初めてだった。本当に戻って良かった。
「夏川くんめちゃくちゃ可愛くなってるよ。また連絡するね。」
『はい。じゃあまた。連絡待ってます。』
電話を切ると夏川くんから写真が送られてきた。
夏川くんと田邉さんが指輪を見せるように撮ってる写真と誰に撮ってもらったのかオーストラリアの空港らしきところバックに抱き合ってキスしてる写真だった。
きっと浮かれて誰かに撮ってもらったんだろうな。
そんな風に浮かれることができる日が来て本当に良かった。
もしもあの時…私の選択が違っていたら別の人生があって今とは違う運命の人がいたんだ。
でもそれぞれがその時その時で幸せを見つけててきっと不安になったり迷うこともある。
今回あっちの世界の田邉さんと出会って私は救われたし、稗田さんとも出会うことができた。
田邉さんほどじゃないけどすごい体験をしたなって思う。
これから先すごく不安だけど自分の選んだ道を信じようと思う。
それから夏川くんと田邉さんはグアムで2人だけの結婚式を挙げて真っ黒になって帰ってきた。
夏川くんはより一層可愛さを増している気がする。今ではすっかり友達として仲良くなった。
私は日曜日に親子で参加できるヨガ教室に娘と一緒に通い始めた。
その教室のインストラクターのお姉さんの名前が川崎里菜先生だ。
里菜先生はスッゴく可愛くて、同じスタジオ内の男性インストラクターと結婚しているらしかった。
写真を田邉さんに見せるとやはりあっちの世界の稗田さんの奥さんらしい…。
稗田さんにも写真を見せたがあのポーカーフェイスでかわされた。
少し不安もあったけど変わらず稗田さんは私にまっすぐ気持ちを伝えてくれる。それだけで安心出来たし、幸せ。
こちらの世界は周りの皆もつまづきながらも幸せだよ。あっちの世界の田邉さんも周りの皆も幸せでありますように。
〈あとがき〉
この拙い作品を最後まで読んでくださりありがとうございます。
ある歌を聞いてふと思いついた妄想から出来上がりました。
書き始めた当初はもっと田邉さんとの絡みを主にし、離婚するつもりもなかったのですが…。
書いているうちにどんどん違う方向に話が進んでしまいなんだか田邉さんの存在が薄いような気がしてなりません。
もともと昔から妄想が大好きでいろいろ妄想してきましたがなぜかふと書いてみよう!って勢いだけで書き始めてしまいました。
本当に完成するのか、完成させる気があるのかわからず途中全く書かないままの期間もありました。
そもそも妄想なので自己満足が目的であり、何か伝えたいとかではなくただただ、稗田さんや夏川くん、田邉さんのそれぞれの優しさや包容力、可愛さなどに癒されることが目的としてきました。
そんな私の妄想にお付き合いくださりありがとうございました。
日々妄想はつきませんのでまた気が向けば書いてみようと思います。
ありがとうございました。




