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11月が終わり12月になろうとする頃、田邉さんから2人で会いたいってメールが来た。

2人って言うのが気になって稗田さんに相談してみると『家で2人きりとかじゃなければいいんじゃない』ってすんなりと会うこと事態はOKしてもらえた。

私は稗田さんのアドバイス通り外でならって提案すると、田邉さんおすすめの定食屋さんで私が平日休みの日にランチをする事になった。


その日はさすがに12月に突入したと実感できるほど冷え込み、待ち合わせ場所で待っていたら初雪が降り始めた。


「遅くなって悪い。寒かっただろ、まさか雪になるとはなぁ。さぁ、入ろう。」


何故か田邉さんは私の肩を抱き、店へと歩き出した。


「ちょっ、田邉さん!」


私はあわてて肩を抱く腕を押しのけた。


「あっ、悪い。ヒヒッ、つい癖で。寒いとつい、くっつきたくなるから。」


「もうっ!人妻ですからっ、誰かに見られて変な噂がたったら困る。」


「ハハッ、ごめん、ごめん…」


笑ってごまかしながらお店に入って行った。

そして相変わらず私の好みを知り尽くした田邉さんは勝手に天ぷら定食と食後にコーヒーとプリンを頼んでいた。


「私には選ぶ権利がないの?」


「いやいや、いろいろ食べてみた結果天ぷらが一番ってことになったから大丈夫だよ。」


このお店もお水ではなくあったかいほうじ茶を出してくれた。

冷えきった体に染み込むように温かくおいしかった。

天ぷらはやはり田邉さんの言うとおりおいしかった。


「プリンがまた上手いよ!期待してな!」


「フフッ、田邉さんのオススメは間違いがないもんね。楽しみ。」


「香織の笑顔を見るのが一番元気になるよ。俺明後日誕生日なんだ。2人でご飯来れて良かったよ。」


誕生日!?そう言えば田邉さんって私のこと沢山知ってるのに私は知らないどころか知ろうともしてなかった…


「えぇ~!今言わないでよ~。プレゼント用意してないよ。」


「いらないよ。この時間が何よりのプレゼントだ。」


そう言って田邉さんはテーブルの上に置いていた私の手を握った。

何となくそんなこと言われたら拒否出来なかった。


「ハハッ、香織は優しいからな。さすがに振り払わなかった。」


少し悲しそうに笑いながら手を離した。

そんな田邉さんを見ると胸が痛い。どうにかしてあげたいけど変に優しくして希望を持たせるのは返って残酷だ。


「お誕生日おめでとう。当日は?夏川くんもいないし稗田さんにでもお祝いしてもらうの?」


「いや、当日は夏川帰ってくるんだ。きっといつもなら1週間はかかることを2日ぐらいでやらないといけないから寝ずに頑張ってるんじゃないかな。別に当日じゃなくても俺はいいのに…。何だか申し訳ないよ。アイツの気持ちに応えてやれないのに俺のためにアイツは健気に頑張るんだ。」


「そうだよね。私も田邉さんと同じ気持ち。ごめんね、田邉さんの気持ちに応えてあげられなくて。」


「ハハッ、まぁそうだよな。わかってるんだ。だけどキツイな、その言葉。ごめんね…かぁ。」


泣きそうな顔をして笑う田邉さんを見て私も泣きそうになる。


「何でこんなことになったんだろうね…。パラレルワールドって誰の仕業なんだろ?神様?怒らせちゃったのかな?」


そんな話をしているとプリンとコーヒーが運ばれて来た。

確かにプリンは滑らかな舌触りでカラメルは甘すぎずやや苦味があって本当においしかった。


「確かにな~、俺、神様怒らせたのかな?あの夜、香織と少し言い合いをしたな。先輩の奥さんが妊娠したって話で…」


「えっ?稗田さんの奥さん?妊娠したんだ。」


何となくその言葉にショックを受ける。

私の知ってる稗田さんじゃないのに…


「うん。俺たちは子どもに恵まれなかったからな。うらやましかったんだと思う。香織の生んだ子どもが見てみたいって思った。ハッ、実際見れたのは俺との子じゃなかったけどな。」


「そっかぁ、私は?何て言ってたの?」


「思い出せない…何て言ってたかな?」


「ねぇ、あっちの世界では稗田さんって結婚してたんだよね?私と田邉さんと稗田さんご夫婦って交流あったの?」


「あ、あぁ。香織と同じヨガインストラクターをしてる里菜ちゃんって子が奥さんで香織が紹介したんだよ。里菜ちゃんが誰かいい人探してるって。」


私が紹介したんだ。

そうだよね…だって私は田邉さんと結婚してて仲良しみたいだし。


「初めは年が離れてるから夏川にって言ってたけどその時に彼氏がいるってカミングアウトっていうの?されたんだよ。こっちではまさかの彼氏が俺っていうね…」


「へー、じゃあ夏川くんって田邉さん以外の彼氏がいたんだ。なんだかかわいいもんね、夏川くん。」


あっちの世界ではちゃんと夏川くんには別の彼氏がいたんだ。じゃあもしこっちの世界の田邉さんが本当にあっちの世界に行ったなら…今頃どうしてるんだろ…


「香織と先輩が先に仲良くなったんだよ。もともとうちの会社は香織の働いてた会社に貿易関連を全て委託してたから。事務にかわいい子がいるってよく話してた。」


「へっ、へぇー…」


私じゃない私なのに照れる。


「当時の先輩は付き合ってる子がいたから香織のことを紹介してって俺が頼んだんだよ。合コンっぽく夏川も連れて。香織も友達連れてきてて、可愛かったよ。茶髪でパーマかけてふわふわしてた。ピンクの頬にかぶりつきたくなるような!」


「悪かったわね、どうせぽちゃぽちゃだったわよ!」


私はわざと頬を膨らまし怒ってみせる。

そんな私を優しく微笑んで見ているから調子が狂う。

確かに私にも髪を染めてパーマをかけてた時があったなぁ。


「ハハハッ、本当に可愛かったよ。先輩なんて彼女と別れて告白しようかなって言い出して慌てて俺が告白したんだ!随分長いこと憎まれ口たたかれてたよ。」


田邉さんは遠くを見ながら優しい顔をしていた。


戻りたいだろうな…

私も別の人生を送っている自分と入れ替わったとしたら普通には暮らせない。

でも田邉さんって普通に仕事してるしすごいなぁ。

夏川くんともきちんと向き合おうとしてるし…


「先輩、俺たちの結婚式のときも香織にまだ間に合うから自分と結婚しようって説得してたよ。ハハッ。本気か冗談か…解りづらいからなぁ、あの人。」


確かに稗田さんってどこまでが冗談でどこからが本気か解らない…


「田邉さんでもわからないんだ。フフッ。そうやってうまく世の中を渡って行くんだろうな。」


稗田さんのことを考えて思わず笑ってしまう。


「あっちの香織も同じ事言ってたよ。結婚式の時に。それからは特定の彼女とかつくらずに仕事ばっかりしてたよ。こっちでの今の先輩みたいに。」


へぇ~、そこは同じなんだ。

じゃあ奥さんになった人とこっちでも出会ってしまうと結婚しちゃうのかなぁ。

いやいや、もしそうなったならその時はきっぱり別れて祝福しないと!

胸がチリチリする。


「結婚した里菜ちゃん?がよっぽど良かったんだろうね~!」


「う~ん、それよりも俺は先輩って本気で香織に惚れてたんじゃないかと思うんだ。聞いたことなかったし、こんなこと俺が聞くのもおかしいしな…。だから香織以上の人が現れなかったからひとりだったんじゃないかなぁ。でも俺たちも結婚して10年くらい経ったし、香織から里菜ちゃん紹介されて吹っ切ったんだと思う。香織以上の女性でなくても幸せにするって。現に仲良かったよ本当に。ケンカもしないくらい。もしあっちに帰れたら聞いてみるよ。」


稗田さんが私を好きで引きずってた?

あまり現実味のない話に聞こえる。


「でも、そんな話里菜ちゃんに失礼じゃない?聞くべきじゃないしきっと仕事が忙しかっただけなんだよ!こっちの稗田さんみたいに!」


ついムキになってしまった…


「いや、こっちの先輩も絶対香織のこと好きだろ。見てたらわかるよ。俺の手前隠してるっぽいけど見てたらわかるよ。」


えっ?田邉さん気づいてたんだ…

つい動揺が顔に出た気がする。そして田邉さんはそれにも気づいてると思う…


「香織、もう旦那と別れろよ。俺が養っていくし、子供も一緒に育てる。先輩なんか見ずに俺を見てくれよ。」


「えっ、なんでそんなこと言い出すのよ。まず夏川くんはどうするの?もしある日突然元に戻ったら?しかも私稗田さんのこと何とも…」


「思ってるよ。好きだって顔に書いてある。そもそも14年一緒にいたんだ。わかるよ。」


やっぱり、私の気持ちも気づいてたんだ…

隠すことも出来ず、どうしようも出来ないこの気持ちが田邉さんを傷つけているんだよね…

勝手に涙が溢れてくる。


「こっちの香織は泣き虫だよな。俺は絶対泣かせない。あっ、でも今頃あっちの香織も泣いてるのかもな。」


そんな事をぼやきながら優しく私の手を握った。

田邉さんの気持ちに応えられない罪悪感でいっぱいになり、私はまた抵抗しなかった。


「香織本当に痩せたよな。初めて会ったときは丸くて驚いたけど、旦那と上手くいってないんだろう?少なくとも俺は周りに先輩みたいないい男がいても目移りしないくらいに香織を愛する自信がある。」


慌てて手を押しのけ顔を上げる。

こちらを真剣な目で見つめてるから…


「やめてよ!私は田邉さんが14年間見てきた香織ではないのよ。あちらの香織さんに申し訳ないわ。」


精一杯、冗談っぽく返した。

カップに残ったコーヒーをいっきに飲み干した。

チラッと田邉さんを見てみると俯きぎみに何か考えているように見えた。


「そうだ、あの日…先に香織が言ったんだ。もし俺が香織と結婚してなければ俺にも子どもがいて幸せだったんじゃないかって…それで、売り言葉に買い言葉であんなこと言ったんだ。」


田邉さんの顔色がみるみる悪くなっていった。

店内は確かに暖かかったけど汗かくほどではないのに田邉さんのこめかみ辺りからツーっと汗が流れる。


「ねぇ、大丈夫?顔色が悪いけど…?」


「悪い、あの日の事を思い出そうと…そうだ、いつも…思い出そうとすると頭が痛くなるんだ。でも今はいきなり思い出して…頭が痛くなってきた。」


「えっ?出ようか?病院行く?タクシー呼ぶから!」


慌てて立ち上がってとりあえず会計に行こうとすると田邉さんは私の腕を掴んで止めた。


「いや、大丈夫。とりあえず帰って横になるよ。」


田邉さんはそういうと立ち上がるけどフラフラしてまともに歩けてない。

私は田邉さんの腕掴んで支える。


「とりあえず待ってて、会計してタクシー呼んでもらうから。家に帰る?」


「悪い…頼む。」


よっぽど頭が痛いのか珍しく素直だ。

私は慌てて会計をし、タクシーを呼んでもらった。

店員さんの配慮でタクシーが着くまで入り口付近の椅子に座らせてもらった。

駅近くなのでタクシーはすぐに到着し2人で田邉さんの家へ向かう。

私はタクシーの中で稗田さんに電話をした。


『もしもし、どうしたの?』


「もしもし、あの、今田邉さんとご飯食べてたんですけど急に頭痛がしだしたみたいで顔色が真っ青なんです…とりあえず横になりたいみたいで田邉さんの家に送って行きますね。」




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