26
「はい、ダメダメ!香織ちゃんはお前が襲ってきたら逃げれないし、夏川に襲われたってお前は逃げれるだろ?」
ナイス助け船!
本当に戻れるなら2人の為にも早く戻れたらいいけど…
「いや、逃げれなかったんすよ。この前…」
「ヘヘッ、ベロチューしてやりました!僕のこと忘れる弘人が悪い!」
「ハハッ、夏川もなかなかやるね~!見直したよ!」
それから夏川くん田邉さんにしがみついて寝ちゃったから田邉さんが送って行くことになった。
私と稗田さんは2人をタクシーに乗せたあとに代行を呼んで稗田さんのマンションへ行った。
「やっと落ち着いて2人っきりになれたね。」
リビングに入ると稗田さんが後ろから抱きついてきた。
「フフフッ、一番の危険人物はまさかの稗田さんですよね。」
「ひどいなぁ!危険だなんて。一番安心できる人物ですよ。俺にとって香織ちゃんはそうだけど?」
お互い笑いながら、私が稗田さんの方に向き直りキスをする。
何度もしてるけどやっぱりドキドキする。
「先にお風呂入る?」
「そうですね。私、午前中に娘と公園で遊んだりしたので入りたいです。」
「フフッ、今日は一緒に?って聞かないんだね。」
流された感じではあるけどこの前は一緒に入ってしまってる!
今回もとかとんでもない!ムリムリッ!!
「香織ちゃん顔に出てるよ。安心して、嫌なら1人でゆっくり入ってくるといいよ。」
「稗田さんお先にどうぞ。」
「香織ちゃん先に入っておいで。服とか出しておくし。」
何だか嫌な予感はしていた…
稗田さんの促す通りに私は先に入った。
少し経って、頭を洗っていると予感的中…稗田さんが入ってきた。
「ちょっとまだ入ったばっかりです!何で入ってくるんですか!?」
やっぱり!ゆっくり入ってくるといいよなんて嘘ばっかり!
シャンプーしてて目があまり開けられないのに、とりあえず後ろを向き胸の前で手を組んだ。
でも明らかに無防備で反撃の術がない私は言葉での抵抗も虚しく後ろから抱きしめられた。
「やっと会えたんだから2人の貴重な時間は有効活用しないと。香織ちゃん、俺が洗ってあげようか?」
「えっ、遠慮します。そんなの恥ずかしすぎる…お願い。」
「フフッ、じゃあ髪と背中だけは?洗いあいこしよう。」
稗田さんってこういうのストレートで困る。
恥ずかしすぎる…
でも稗田さんの言うとおり、いつでも会える仲ではないからこそだよな。
自分の人生でこんな事をするなんて思ってもなかったけど思い切って稗田さんに従った。
洗い終わると後ろから抱きしめられる形で2人で湯船につかった。
すぐにのぼせそうなくらいドキドキする。
「素直な香織ちゃんも可愛いよ。大好きだよ。」
後ろから耳元でしゃべるからもぞもぞする。
稗田さんは私のどこに惹かれたんだろう?
稗田さんは私の顎を持ち振り向かせるとキスをしてきた。
それでなくてものぼせそうなくらいなのにこんな風にキスされると意識が飛んで行きそうだ。
私は稗田さんの胸に手を当ててゆっくり押しのける。
「上がりましょう。のぼせてしまう…」
2人でお風呂から上がり、やっぱり稗田さんが私の体を拭いてくれる。
半分のぼせてされるがままになるとあっという間に寝室に連れて行かれベッドの上で組み敷かれていた。
「今日はかなりお酒も飲んでたし酔ってるのかな?抵抗しないでくれるのが嬉しい。大好きだよ。」
「私も、好きです。怖いくらい好き。」
なぜだろう、嬉しくてたまらないのに涙が出る。
「フフッ泣き虫。大切にするよ。」
長いキスをした後、稗田さんの手は私の身体をなぞるように触れていき、その手に身を任せた。じっくり、ゆっくり責めてくる稗田さんに応えるのに精一杯だった。いつの間にか二人とも汗ばんでいた。
その後はお互い疲れ果てて裸のままくっついて眠った。
翌日、稗田さんの家でゆっくり過ごし夕方に有希の家の近くまで車で送ってもらった。
次はいつ会えるとか約束ができないけど、稗田さんが真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるから不安はない。ちょっと寂しいけど…
仕事のペースさえ掴めば基本的に外で行動するから時間を合わせてランチぐらい出来そうだ。
有希の家に迎えに行くと少し元気なさげな娘が出迎えてくれた。
やっぱり寂しい思いをさせちゃったのかな?
私はとりあえず娘を抱きしめた。
「ただいま、遊園地楽しかった?」
「うん!ママもパパも一緒だったらよかったのに…パパに会いたい…」
そっか、半月もパパに会ってないもんね…
寂しいよね…
有希は車で送るって言ってくれたけど遊園地で遊んだあとは疲れきってるだろうに、断って歩いて帰った。
帰っている途中、パパとお話だけでもしたいっていう娘の希望で電話をした。
パパが出ると大喜びで今日のことを話しはじめた。
私が荷物を持ち、娘と手を繋いで帰っていると私が下りたところにまだ稗田さんがいた。
心配で待っててくれたのかな?
声をかけようとしたとき…
「ママ、パパがね、私の好きな物を食べに行こうって!いい?」
嬉しそうに娘が聞いてきた。
たぶん稗田さんにも聞こえたよね?
でも笑顔でこちらをみており優しく手を振って車に乗り込んだ。
胸がチクチクと痛む。
そのまま稗田さんの車は走り去って行ってしまった。
私は車のテールランプを見えなくなるまで見つめてた。
「ねぇ、ママ?ダメ?」
「えっ?あ、今から?」
「そうだよ~!ママ、話聞いてなかったの?」
少し怒って私にスマホを差し出す。
私はスマホを受け取ると久しぶりに元旦那と話をした。
家まで迎えに来るってことになり急いで荷物を置きに帰った。
しばらくすると元旦那から着いたよと連絡があった。
娘を見ていると本当に嬉しそうに靴を履き、下まで下りていった。
「久しぶり~!パパ、会いたかった!」
何て言って抱きついてたから私の胸は締め付けられる感じだった。
稗田さんのことも、娘にとってのパパも大切で、どちらも失いたくない存在だ。
それから娘が大好きなハンバーグのお店でご飯を食べて家まで送ってもらった。
「なんだかママ元気がないけど大丈夫?」
えっ?私が元気ないって気づくなんて!
「どうもしないよ。あまりにこの子が嬉しそうにするから少し複雑ね。罪悪感でおしつぶされそうになる。こうやってお互いが気遣える関係が保ててれば離婚しなかったかもしれないのに。」
「ハハッ、確かにね。でも離婚したからこそお互いを気遣えるようになったんだと思うよ。今日の香澄を見て僕は安心したけどな。きっと悪い方向には向かってないよ。ちゃんと笑えてるから。しかも罪悪感を感じなきゃいけないのは僕の方だよ。」
そう言って背中を軽くポンポンと叩かれた。
そうだよね。色々これからなのにマイナスへ考え過ぎていた。
「きっとママは香澄の近くにいる分香澄の小さな変化に気づいて罪悪感を感じるんだと思う。そこをママひとりに背負わせてしまってるのは申し訳ない。今度はうちにもお泊まり来させてよ。そして僕も父親なんだから香澄に対することは何でも気軽に相談してな。今日は電話ありがとう。楽しかったよ。」
「うん、こっちこそ弱音吐いちゃってごめんね。元気出た!」
香澄は疲れきって後部座席に横になって眠っている。
パパに抱き上げられても起きず、結局今日もベッドまで運んでもらった。
そして元旦那は娘をおろすとすぐに帰っていった。
私は稗田さんと話がしたくていてもたってもおられず電話をした。
『はい。こんな時間にどうしたの?』
何コールもしなくて稗田さんが電話に出た。
「あ、あの、こんばんは。えっと…」
『え?香織ちゃん酔ってるの?大丈夫?』
勢いで電話したからなんて言うかなんて決めてなかった…
「いえ、あの…さっきの気になって…待っててくれたのに。前もこんな事あって誤解させちゃったから…ごめんなさい。」
『ん?謝ることなんて何もしてないよね?昨日みんなで香澄ちゃんの話したけど実際きちんと会ったことなかったから顔を見たかったんだ。』
「そうですよね…でも、ごめんなさい。まだ今は稗田さんに香澄を会わせるつもりはないんです。パパと離れたばかりだし、負担をかけててその上ママの好きな人だって紹介するときっと混乱すると思うから…」
稗田さんは香澄に会いたかったんだ。
でもあやふやにするよりもきちんと伝えてた方がいいよね?
変に緊張して、何でか涙が溢れていた。
『うん。そうだね。わかった。勝手な事してごめんね。』
あっ、稗田さんの謝ることじゃないのに…
「ごめんなさい…稗田さん…」
一気に色んな感情がこみ上げてきて涙が止まらず、まともに話が出来なかった。
『えっ?香織ちゃん?泣いてる?大丈夫だよ。俺、理解するって言ったでしょ?香澄ちゃんの事や香澄ちゃんのパパのことも。寂しい事もあるけど2人でその時その時の最善を見つけていこう、ねっ?』
見えるはずないのに私は頷くばかりで声が出ない。
『ハハハッ、香織ちゃん泣きすぎ。電話じゃ抱きしめられないよ。今度は俺の前で泣いてよね。普段頑張ってるんだから俺の前ではそうやって弱いところも見せて欲しいしひとりで泣かないで欲しい。ね?』
「うっ、うぅ…わかっ…た。」
『今から行くよ。20分くらい待ってて。』
そう言うと稗田さんは電話を切った。
いきなり来るって…びっくりしすぎて涙が止まった。
そわそわしながら、あがるかな?顔見たらすぐに帰るのかな?何て考えながらとりあえずコーヒーメーカーをセットし暖かいコーヒーが出せるように準備した。
そして本当に20分くらいで稗田さんは来てくれた。
『香織ちゃんの家は何号室?そう言えば香澄ちゃんって起きてる?勢いで来ちゃったけど…上がらない方がいい?』
私は稗田さんに部屋番号を伝えるとすぐにあがってきてくれた。
玄関に入ると私から稗田さんに抱きついた。
別れたばかりだったけど会いたくてたまらなかったんだ。
「フフッ香織ちゃん泣き虫になってるね。良かった。抱きしめてあげられて。」
「ごめんなさい…ありがとう。すごく会いたかった。稗田さん本当に私なんかでいいんですか?面倒くさいでしょ?」
本当のところはそこだった…
稗田さんが冷静になったとき面倒くさい私なんかより若くて一緒にいて楽しい子がいいって思うんじゃないかって。
「う~ん、めんどくさいって何?恋愛って基本的に面倒くさいものでしょ?だからこそ本当に好きな人としか出来ないし、続けられないんじゃないかな?俺は香織ちゃんがいいし、面倒くさいことを苦には思ってないよ。」
私は稗田さんに力いっぱい抱きついて泣いた。
そんな私を抱きしめ返して頭を撫でてくれた。
「香織ちゃんの不安なことは溜めずに言って、その都度解決していこう。俺も納得出来ないことや知りたいことは聞くし不安なとこは不安だって言うよ。」
稗田さんは私の顔を上に向かせておでこにキスしてくれた。
「ヘヘッありがとう。そうだ、少し時間があるならコーヒー飲んで行きませんか?」
「うん、香澄ちゃんが大丈夫ならお邪魔するよ。」
さすがに玄関での立ち話は寒くて熱いコーヒーがおいしかった。
「今日ね、あれから娘の希望でパパも誘ってご飯を食べに行ったの。有希の家族と遊園地に行ってたから家族が恋しくなったみたいで…。あの子もいろいろ平気そうにしてくれてるけど我慢もしてるし頑張ってくれてるんだと思う。そんな時に稗田さんを紹介するときっとあの子は仲良くしないとって頑張ってくれるんだと思う。そして私たちに遠慮してパパに会いたいって言えなくなったり、何か我慢してることが増えるかもしれないって思うの。だから今の生活が当たり前になって、私を通さずにパパに連絡出来たり会いに行けるようになったらその時は稗田さんのこと紹介させてほしいとも思ってる。」
稗田さんは私の話をうんうんと相槌を打ちながら聞いてくれた。
「わかった。きちんと話してくれたから安心して待つことができるよ。俺は香織ちゃんのこと香澄ちゃんのこと理解してるようで自分自身気づかないうちに焦ってたんだと思う。まだ2人は始まったばかりだもんね。これからも沢山話をしよう。言葉に出さないとわからないから。」
それから少し話をして稗田さんは帰った。
稗田さんと会えて、好きになって、好きになってもらえて良かった。
もし会えずに今もひとりなら、旦那が浮気したことを乗り越えられなてなかったかも…離婚してシングルマザーとして頑張る決意もできてなかった。
人生どうなるかなんて想像もつかない。
これからも乗り越えないといけないことや立ち向かわないといけないことがあるだろう。そんなときできれば稗田さんと一緒がいいな。




