18
そんなに荷物を置いているつもりはなかったのに持って帰ろうとするとあれやらこれやらと沢山増えていた。
近くだけど有希が車を出してくれたおかげですぐに荷物は運ぶことができた。
「まだこの家に居るんでしょ?忘れ物とかあってもすぐに取りに来れる距離だから安心ね。」
「同じ事ばかりになっちゃうけど本当にありがとう。有希の家族には本当になんてお礼を言っていいか…。私がんばるね。みんなの恩を無駄にしないように。」
自分にも言い聞かせるつもりで有希へ決意表明をした。
「え~、頑張りすぎるから心配してるんだよ。ぼちぼちでいいわよ。もし菊池さんが早く離婚して出ていけーなんて言うならまたうちにおいでよ。大歓迎だから。」
「ハハッ、ありがとう。その時はお世話になります。」
私は少し冗談っぽく言う。
きっと旦那は私を追い出したりはしないだろうから。
でもそれにいつもまでも甘えててはだめだけどね…。
その日の夜は久しぶりに家族3人での食事だったから娘の好きなハンバーグにした。
そして延ばしてても良いことはないから今夜娘に話をしようということになっている。
「ママ、私お箸とコップ出すね。」
なんて張り切ってお手伝いしてくれる。
やはりパパに会えるのが嬉しいと話をしていた。
こんな小さな子にパパとお別れさせるなんてと考えてしまい自己嫌悪に陥るのを何とか持ち直している状態だった。
「ただいま。そして2人ともおかえり。」
ちょうどご飯の支度が出来た頃に旦那は帰って来た。
「おかえりなさい。そしてただいま。」
「ただいま、パパ。寂しかった?」
娘はきっと寂しかったんだろうな…
「ハハッ、パパは強いからなぁ寂しくなんかなかったぞー!香澄の笑顔を見たくてお仕事頑張ってたんだよ。」
そのやりとりを見て目頭が熱くなる。
今後のことを考えて寂しかったって言えなかったんだ…
私の決断はなんて残酷なものなんだろう。
「ママ?大丈夫?美味しそうな匂いがしてるけど今日のご飯はなに?」
私が泣きそうになっていることに気づいた旦那は私に笑顔で話しかけ、前に来ると頭をポンポンと撫でる。
私は頷くことしか出来なかったけどキッチンに入って行きさっと涙を拭くとご飯の準備をした。
娘はパパにべったりで着替えている間も横にいてしきりにおしゃべりしていた。
出来るだけ明るく楽しい食卓にした。
あまり夜ご飯をパパと食べる経験をしてこなかった娘にはきっとこんなに笑顔で食べるのは特別だっただろう。
食べ終わってからテーブルを片付けて娘に離婚の話をした。
「香澄、これからね大切な話をするよ…パパとママはね離婚って言って別々に生活する事にしたんだ。でもね、パパと香澄が離れて暮らしてもパパはいつまでも香澄のパパなんだ。わかる?」
娘は真剣な顔で話を聞いていた。
でもパパが話し終わると目から大粒の涙を流した。
「ゆみちゃんもパパとママ離婚してパパいないって言ってた。かすみはパパいなくならないの?」
離婚のこともなんとなく理解できるようになってたんだ。
「いなくならないよ。パパはずっと香澄のパパだから。お家は違っても電話もできるし会うことだって一緒に遊びに行くことも、パパの家にお泊まりだって出来るよ。ねぇ、ママ。」
「そうよ。パパもママもずっと香澄のパパとママだから。ただ一緒に暮らすことをやめるだけ。そしたらパパもママも仲良く出来るようになると思うのよ。喧嘩する事も無くなると思う。それでね、ママはお仕事をしないといけないから香澄は学童に行ってもらえないかしら?」
涙を流しながら必死に話を聞いてる娘に私も堪らなくなる。
でもここで泣くと不安を与えてしまう…
「うん。わかった。ゆみちゃんもね学童行ってるんだよ。一緒に宿題する。」
「ありがとう。寂しい時はママでもパパでもいいから言ってね。香澄がお勉強頑張ってるからママもお仕事頑張る!」
それからは娘と旦那は一緒にお風呂に入り、宿題をリビングで一緒にしていた。
私は食器を片付けてお風呂に入った。
お風呂で一人になりふと稗田さんの昨日の顔を思い出す。
私はまだ稗田さんに連絡していなかった。
連絡は要らないって言われたのになんて連絡していいかわからなかった。
私って矛盾してる。
離婚への葛藤をしてる反面、稗田さんへの想いも膨らんでいる。
お風呂からあがると2人の姿が見当たらなかった。
どうしたのかと寝室を覗くと旦那が娘に布団を掛けてあげていた。
私に気づくと足音をさせないようにゆっくりリビングに出てきた。
「宿題が終わってソファで話をしていたらいつの間にか眠ってしまったんだよ。トイレ行ってないけど大丈夫かな?」
「ありがとう。宿題の前にトイレ行ってたし、起こすのは可哀想だからこのまま寝かせてあげましょう。」
私はコーヒーを淹れリビングへ持って行く。
「ありがとう。きっとこういうことをしてこなかったからダメだったんだろうな。失って初めて気づいたよ。今まで家のことも香澄のことも全部ありがとう。そしてとんでもない裏切りをしていたのに香澄のパパでいさせてくれてありがとう。」
「ううん、有希から言われたんだけどね浮気したのはあなただったとしても原因は2人にあるって。私は母親であることに必死で奥さんであることを放棄してたもの。周りから痩せたって心配されたけどもっと痩せるべきだと思うし。フフッ」
今回のことでかなり痩せたけどそれでやっと普通の域にギリギリ入ったくらで理想体重からいくともっと痩せていいらしかった。
ヨガを始めて少し勉強してみてがっくりきた。
「そうかな?丸い香織は可愛いと思ってたけどな。これは本当だよ。」
「あら、残念ね、見違える程痩せてやろうと思ってるから。フフッヨガを頑張ってるの。走ったりは向いてないし続けれないから。」
「ゆっくりでいいよ。倒れちゃったらあの子が不安になるだけだから。仕事も、無理しないで。僕はワンルームにでも引っ越すつもりだしお金掛からないから出来るだけ金銭面は心配しなくていいくらい出すよ。」
「でもそれじゃダメなのよ。離婚する意味がないの。あなた一人ただ生活するだけならお金はかからないかもしれない。でも交友関係やお付き合いする方がいたら?再婚する事になった時困るのよ。だから私も自立しなくちゃ。有希の会社でね訪問介護や家事代行の仕事はどうかって言ってくれてるの。自分の時間の都合がつきやすからって。お給料もいいんだって!」
「うん…わかった。でも困ったら真っ先に頼って欲しい。それに父親でいるためにも毎月決まった金額は払わせてね。」
それから毎日少しずつこれからのことを話合った。家具はどうするか、養育費はどうするか、貯金はどうするか。
必要なときには弁護士の泉さんに電話で相談したりして。
そして昼間には不動産屋さんに行き家も探し始めた。
何件か内覧させてもらいなかなか頷ける部屋が見つからなかった。
転校しなくてよくて通学しやすいことを一番条件で家賃も払える範囲でとなるとなかなかないのが現状だった。
今日も1件見せてもらい現地で解散した。
買い物があったから歩いて大型ショッピングモールへ向かっていたら前からスーツを着た爽やかな笑顔の男性がこちらに向かってきた。
夏川くんだ!
「こんにちは、香織さん。偶然ですね。お買い物ですか?」
「本当に、偶然が多いね。そう、買い物に行く途中なの。夏川くんはお仕事?」
思わず周りを見渡して稗田さんや田邉さんがいないか探してしまう。
「ハハッ残念ながら今日は僕一人なんです。そこにうちの商品を置いてくれてる雑貨店があって店長に挨拶に行ってたんですよ。明後日から1週間ほどイタリアへ行くんです。」




