表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/31

17

夕方になりひとりで自宅に帰る。

旦那は早く帰ると言っていたからきっとご飯は食べてないだろうと思いすぐにできるお味噌汁と親子丼の材料を買って帰った。


まだ時間があるだろうと思い換気しながら掃除機をかけていたら玄関の開く音がした。

時計を見ると18時すぎだった。

驚いて玄関に行くとやはり旦那が帰ってきていた。


「おかえりなさい。随分早かったのね。」


不思議と笑顔で迎え入れられた。


「ただいま。最近は仕事が落ち着いてて早く変えれる日が多いんだ。」


前はそういう日もあったような気もするがここ最近では夕方に帰ってきたことなんかなかった…

ご飯の支度が出来た頃旦那がお風呂からあがってきた。


「香織の顔色良くなってるね。神田さんのおかげだね。まずあの日出て行ったこと本当に申し訳なかった。神田さんから言われなければ自分のことばかりで気づけなかった。香織は出て行くことも出来なかったのにね。ごめん。」


旦那はテーブルにおでこが付きそうなくらい頭をさげる。


「もうお互い様よ。私なんて何日家を開けてるか…でも連れ出してくれた有希には感謝してるのよ。フフッ、離れてみると意外と私とあなたの関係が冷静に見れるわね。あなたはどうだった?仕事もしてたから大変だったとは思うけど…」


「ハハッ、本当にね。当たり前になってたんだなって事が沢山あったよ。全部気づかない間に香織がしてくれてたんだなって。」


お互い穏やかに笑顔で話すのなんていつぶりだろう?


「香澄がいないと静かだな。どうしてる?元気にしてる?」


「元気にしてるわよ。有希のところの翔太くんと仲良くて登下校も一緒で喜んでるわよ。」


「そうか、安心した。でも寂しいな、父親ってそんなもんかな?」


旦那は寂しそうに笑っていた。


「今までもこの時間に帰ってたらまた違ったと思うけどだいたい寝る前か寝た後に帰って来てたでしょ?香澄も寂しいとは思ってると思うけどパパのいない家が当たり前になってるのよ。」


「フッ、そうか、自業自得だな…。離れてみて本当に香織のありがたみがわかったよ。」


ありがたみかぁ。


「そうね、私も離れてみてあなたのありがたみはわかったわ。先に食べましょう。」


久しぶりの夫婦2人での食事だった。

その間は出来るだけ娘の様子などを旦那に報告した。

ご飯を食べ終わり私がキッチンで片付けをしているときに隣で旦那はコーヒーメーカーをセットしコーヒーを淹れてくれていた。


「いつまでだったかな?前はよく2人でこうやってキッチンに立ってたね。香澄がうまれてからかな、香織に頼りっきりになったのは。」


「フフッそうね。妊娠してつわりがひどくてまともにご飯を作れなくなってくらいかな?生まれてからはもう生活がガラッと変わって余裕がなかったし…」


「そうだよな~。僕も昇進したりして残業が増えたしね。家のことも香澄のことも本当に任せっきりになってたな。ごめん。」


旦那はマグカップ2つにコーヒーを注ぎリビングに運んでくれた。


「コーヒーありがとう。いただきます。」


めったにブラックは飲まないけど飲みやすいようにアメリカンにしてくれてて美味しかった。

美味しいし、湯気が私の顔を覆うから…涙が出てきた。


「り、離婚しましょう。うっ、うぅ…」


口に出してしまったら嗚咽が出てしまうほど

泣いてしまい、それ以上話すことが出来なかった。伝えたいことが沢山あるのに。

そんな私を見てテーブルの向かいに座っていた旦那はこちらにきて私を横から抱きしめた。


「香織ごめんね。そんな言葉を言わせてしまったのは僕だよな。本当にごめんね。覚悟はしてた。きっと離れてみたら僕なんかいなくてもやっていけることに気づくだろうって。僕が悪いんだ。ごめんね。」


しばらく泣いている私を抱きしめていた旦那もきっと泣いていたと思う。


しばらくして涙が止まり落ち着いてきた。まだ抱きしめられたらままの状態で旦那に話始めた。


「香澄には負担になっちゃうわね。とりあえず出来る範囲で働くつもり。学童に通わせるようになるけどお稽古も続けられるように調整するわ。そのうち私が居なくてもひとりで通えるようになるしね。」


「そうだな香澄には本当に申し訳ないな。出来るだけの養育費は出す。主に金銭面になるだろうけど一緒に育てていきたいと思う。もし君が再婚したとしても香澄の父親でいさせてほしい。」


ゆっくり私から腕をほどきそう言う旦那はやはり泣きそうな顔をしていた。

再婚はしない。私の中での離婚を決意した時に決めたルールだ。

他にもいくつかある。決して誰に言うつもりもないルール。


「私もお願いするつもりだったの。離れて生活するけど香澄の父親はあなたしかいないから香澄とはこれからも関わってもらいたいの。あなたが再婚したとしても。」


「僕なりに調べていたけど浮気して離婚したときって浮気した方に子どもを会わせないケースが多かった。だからそう言ってもらえて嬉しいよ。香織とも夫婦としてはダメだったけど香澄の親として関わっていきたい。」


「うん、その、香澄に伝えるのも3人で話し合いましょう。あと、仕事が見つかって生活が安定しないと出て行くのは難しいかも…それと…弁護士さんとね話をしたの。色々と決めていかないといけないことがあるみたいで…」


別れるための話し合いって寂しい…

こんな日が来るなんて、

なんで私は離婚を決意したんだろうとさえ思えてくる。


「そうだよね。弁護士さんが必要ならお願いしてきちんと決めていこう。仕事始めるのも急がなくてもじっくり考えるといいよ。まずはこの家に帰ってきてくれないかな?」


「わかったわ。今夜はもう無理だけれど明日帰ってくるようにする。有希に甘えっぱなしも悪いから。」


「そうだ、神田さんのお宅にお菓子を買ってきたんだ僕のせいで迷惑かけちゃったからね。香織を送って行ってご挨拶させてもらってもいいかな?」


そこまで考えていたなんて驚いた。

私は笑顔で頷いた。

時計を見るともう21時過ぎていた。きっと子どもたちは部屋に入って寝ようとしているだろう。

私たちは有希の家へ歩いて行くことにした。


夜旦那と2人で歩くのも本当に久しぶりだった。

結局デートもせず共同生活をするパートナーみたいな感じだったのかな?

もう少しだけお互いに思いやれて尊重してきてたら今が違ってたんだろうな。

そして有希の家までの15分くらいは娘の話ばかりしていた。


大通りを曲がりすぐに入った所に家があり、もう少しというところで私のスマホが鳴りだした。

カバンから取り出すと案外大きい音でなり響き慌てているとすぐに着信が切れた。

小さな声で「えっ」と聞こえたような気がして大通りの向かい側を見た。

稗田さん…

驚いてこちらを見ていたが目が合うとすぐに寂しく笑った気がした。


「電話大丈夫?」


旦那から話しかけられて焦って振り返る。


「えっ、あ、うん。切れちゃったしあとから連絡する。」


そんなやりとりをしている背後で車のドアが閉まる音がし、エンジン音と伴に車が走り去った…。

電話の着信は稗田さんだった。

旦那と楽しそうに娘の話をしていたと思う。

笑顔でこんなに会話するのも久しぶりだって思ってたから…

稗田さんに見られた。

いや、いいんだけど…やましいことは何もないし…

でも何故か焦燥感で胸が締め付けられる感じだった…


胸の動悸も治まらないうちに有希の家に着いた。

インターホンを押す手が少し震えていた。

本当はすぐにでも稗田さんを追いかけたかった。

そんな気持ちを気のせいだと言い聞かせ旦那と有希の家に入った。


旦那は深々と頭を下げ有希夫妻に謝罪とお礼を言ってくれた。

そして、娘には今日は会わずに帰るつもりだったから玄関で離婚する事になったこと、とりあえず明日私と娘を帰らせたいこと、などを報告した。

有希も有希の旦那さんも何も言わずにわかったとだけ言ってくれた。

きっと口を出したいことは沢山あるだろうに、私たち2人が納得出来れば良いって有希は言ってくれた。


旦那さんのお義母さんにも挨拶をして旦那は帰っていった。


「今まで本当にありがとう。有希がいたから私は冷静になれたし離れることで決断も出来た。危なっかしいけど私頑張るからこれからも宜しくお願いします。」


私は有希に感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


「もう、水くさいんだから。私と香織の仲じゃない。これからが大変なんだよ。だからひとりで頑張らないで頼ってよね。あっ、でももう一人心強い人がいたわね、稗田さん!」


有希は目に涙を溜めて冗談混じりに言ってくれた。


「あっ!稗田さん!」


慌てて私はスマホを取り出した。

着信1件とメール1件と表示されていた。

どちらも稗田さんからだった。


『こんばんは、さっきはごめんね。突然いたがらびっくりさせてしまったね。一目香織ちゃんの顔を見たくて…旦那さんとはうまくいったのかな?香織ちゃんの顔が見れたからまた仕事頑張れるよ!返信はいらないよ。夜分にごめんね。稗田』


ぎゅーっと胸が締め付けられた。

きっと稗田さんは私が昼間電話したから気にしててくれたんだろうな。

好きだと自覚してから稗田さんへの気持ちが止まらない…

なんだか旦那といたことを見られて、当たり前だけど旦那といることを優先した自分に罪悪感さえある。


泣きそうになりながらスマホを見ていた私を心配そうに有希が見ていた。


「香織、大丈夫?」


「えっ?あ、あの、こんなときにこんな事不謹慎かもしれないんだけどさっきね、有希の家にくる途中に稗田さんがいたの。」


「えっ!な、んで?」


「私、昼間に稗田さんに電話しちゃったの。勇気をもらう為に…多分心配してくれて仕事の合間に来てくれてたんだと思う。あのね、私きっと、ていうか、たぶん、絶対?稗田さんのこと好きだと思う。」


有希は驚いていたけど優しく笑ってくれた。


「きっと私、香織がその事に気づく前から香織は稗田さんのことだいぶ好きって気づいてたかも。稗田さんの話をする香織の顔が恋する顔になってるもの。しかもあの無駄に爽やかな笑顔、自分に向けられて優しくされたら惹かれて当然だと思う。」


そう言って背中をポンポンっと叩かれる。

そのポンポンに受け入れてもらえたという安堵感があった。


「でも、どうしよう。稗田さんきっと嫌な思いさせちゃったよね?私自分でも驚くほど旦那と楽しそうに話しながら歩いてて、そんなの何年ぶりなくらいだったけど稗田さんそんなこと知らないし、声もかけずに帰って行っちゃった…」


そう言って有希に稗田さんからのメールを見せた。


「う~ん、でも今はまだ人妻なわけだしいくら離婚前提とはいえ公に稗田さんとイチャイチャはしちゃだめだと思う。そのくらい大人なんだから理解してもらわないと。」


有希はやはりきっぱりと言ってくれる。

だめなことはだめと。


「うん…。しかも稗田さんはきっと田邉さんのことがあるから私に親切にしてくれてるだけだから私の一方的な片思いだよ。あとまだ有希にしかこの話はしてないの。」


有希はすごくしかめっ面になって


「ふ~ん、香織って意外と鈍感というか…稗田さんに下心がなければ手つなぎデートも家に連れ込むこともキスも、夜に衝動的に会いに来ることもしないと思うけど?そうね、でもそれなら離婚がきちんと成立するまではこのまま進展しないように!」


「フフッ、ありがとう。とらえようによってはそうかもしれないけど私って本当におばさんだし稗田さんから好かれるはずはないよ…有希はドラマの見過ぎ!」


顔が熱い…きっと赤くなっているに違いない。

もう、変なこというんだから…


「稗田さんには明日にでもメール返しておいたらいいんじゃない?今日は遅いし…あと、仕事のことなんだけどうちのグループ会社で在宅介護の分野があるんだど介護保険対応と自費対応で家事代行とかも取り扱ってるんだけどそっちはどう?人の家に上がり込むのって大変だけど時間とか細かく調整できるし時給も良いから。かすみんがもう少し大きくなるまではパート扱いで、3年生4年生くらいになってから正社員に変更するのはどう?」


思ってもいないほど良い話だった。

こんなに自分にとって都合の良い事はない。


「本当に私で務まるかしら?私にとっては本当にありがたい話だわ。」


「福利厚生もしっかりしてるからたぶん上との掛け合いで手当ても出してもらえるかも。あとはあちらの管理者と面談して決めていかないといけないけど月にいくら稼ぐ必要があるか考えておいてね。そして国からの補助金も出るでしょう?そんなのも調べて、あと養育費と、って菊池さん養育費払ってくれるわよね?」


「う、うん。まだいくらとか具体的な話はしてないけど金銭面でサポートしてくれるっては言ってたわ。」


でも具体的にいくらとか考えだすと本当に私ひとりで娘を育てていけるのか心配になってきた…

家を借りて、光熱費、食費に、娘にもお金はかかる。

ひとりで稼ぐには正直不安がある。

国からの補助金…確かに母子家庭になれば国から補助金が出ると聞いたことはあるけど…


「まぁ、今すぐに働くよりはまず話し合いしてからの方がいいと思うから。きちんと主張するところは主張してね!2人の子どもをひとりで育てることになるんだからその子にかかる時間分働けないのも当然でしょ?その分の援助は受けて当然だと思うわよ!」


やっぱり有希はしっかりしてる。

それから脱線しつつも離婚に向けての話を有希と夜中まで話した。

幸いに次の日は有希が休みだったから良かった。


稗田さんの事を考えると眠れなかっただろうけど有希と話しているうちに眠くなりぐっすり眠れた。

翌朝、娘や有希の息子くんたちに家に帰ることを伝えた。

娘は喜んでいるようにもがっかりしているようにも見える。

帰りは自分の家に帰るように何度も言い聞かせ学校に送り出した。

それから有希のお義母さんにも改めてお礼に行った。


「有希さん仕事で忙しくて昼間はいないから香織さんがいてくれて私は楽しかったのよ。それにヨガを始めて健康になれた気分だったし。どこかヨガ教室にでも通おうかしら。おしゃべりも大好きだから人の集まるところも好きなのよ。」


なんて、迷惑を沢山かけたのに迷惑な顔なんて少しも見せずにそんな風に言ってくれた。


私は今回のことで周りの人に恵まれてると気づかされた。



「そうなんだ。なら良かったわ。親子丼ならすぐに作れるけど食べる?」


「え?作ってくれるの?食べに出るかと思ってた。ヘヘッ、最近はコンビニばかりだったから嬉しいよ。」


「じゃあ先にお風呂入ってて、すぐに作るから。」


そういうとリビングへ行き残りの掃除機を急いでかけてご飯の支度をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ