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それからは何とか泣かずに過ごし、
夜、娘が寝たあと旦那に話があると伝えていた。
話をするにあたってものすごく緊張した。
「私ね、自分でも気づかないくらい傷ついていたの。でもねあなたのしたことだけではなくてそれによって生まれたドロドロした感情だとか頑張ってもあなたを信用しきれなかったこととか…言葉にするとわかりにくくなっちゃうけどいろいろ。」
こんなに言葉にするのは難しいのか…
「うん。最近の香織は本当に見ていられないくらいボロボロだったよね。僕に何ができるかわからなくて戸惑ってた。たぶん今は僕ではダメなんだよね…。」
「それでね、私もね浮気してきたの。」
びっくりしてこちらを凝視している。
「相手の人には申し訳ないから誰とかは言わないわね。そこはごめん。とても優しい人で私があまりにやつれたからって今日ランチをご馳走してくれたの。あなたもあの子と食事に行ってたでしょう?それでね、キスはしたの。でも体の関係までは断られたわ。私が泣いてしまってそれで…。それでわかったのあなたとは恋人のような関係には戻れない。でも家族としてなら一緒に暮らしていけると思う。他の人に癒やしを求めてしまうのもわかった。」
「そんな…おまえ…僕のせいだよな?」
旦那の手が震えていた。
「きっかけはあなたよ。でも自分で決めて起こした行動なの。私だけ隠すのは良くないと思うから伝えた。今度はあなたが考える番よ!これからどうする?どうしたい?家族として生きていくのにもお互いの努力が必要だし、別れるにしても歩みよってお互いに思い残すことのない方法を見つけていかないといけない。焦らずゆっくり。香澄もいることだし急いでもいいことないと思うから。」
ドンっ
旦那が震える拳でテーブルを叩く
「フッごめん、香織を責められる立場じゃないけど、その男に腹が立つ。そんなことした香織にも、そんなことさせた自分にも…」
しばらく沈黙が続いた…
「ごめん、今日はホテルにでも泊まるよ。少し頭を冷やす時間が欲しい。」
「うん…。」
旦那に正直に話したのは心のどこかで許されると思っていたからかもしれない…
旦那は仕事に出る準備をしたのかスーツに着替えて仕事カバンを持って出て行った。
はぁ~、何やってたんだろう?
稗田さんまで巻き込んで…
こんな時にまで稗田さんに会って抱きしめられたいとさえ思う…
もう嫌だ…こんな自分が…
涙が溢れて、溢れて、もうどうしようもなく、やりきれず、声を押し殺して泣いた。
そしてテーブルで突っ伏していつの間にか寝ていた。
さすがに10月だから朝方は冷え、寒くて目が覚める。
4時かぁ…
洗面所に行くと見るも無残に顔はむくみ目が腫れていた。
今日はどこにも行けないなぁ…
とりあえず娘に心配かけないように出来るだけのことはしないと…
蒸しタオルをつくり顔に当てる。
こんなタオルの温かさでさえ縋りたくなるほどだった…
誰か助けて…
今は母親としてもうまくやれる自信がない…
何がダメだったんだろう?どこで間違った?
もし旦那が浮気さえしなかったら私は稗田さんと会わなかった?惹かれなかった?
私は本当はどうしたいのかな?
旦那と別れて生きていく自信がない…なぜ?
そんなこと考えたらまた涙が溢れる…
タオルはもう冷めきって冷たいのに顔に押し当て泣いた。
「ママ?大丈夫?」
ドキッとした。
振り返えると娘が立っていた。
「あ、あ、うん。ごめんね…大丈夫だよ。」
慌てて顔を拭いて笑顔を作った。
でも娘の顔はみるみる険しくなり涙をポロポロ流し私に抱きついてきた。
私も抱きしめ返すと小さな手で私の頭を撫でてくれる。
泣いちゃダメなのにもう涙は止まらずしばらく娘を抱きしめて泣いた。
ごめんね…こんなママで…
それから泣き疲れて娘は眠ってしまった。
私は娘の寝顔を見てこれではダメだと思い有希にSOSの連絡をした。
もう私一人では無理だったから…
子供が3人いて仕事もしてる有希は私なんかよりすごく忙しいのに私と娘のために有給を取って朝一で駆けつけてくれた。
お義母さんに旦那さんと子どもたちをお願いしてきたらしい。
「かすみんご飯食べないと勉強ができなくなっちゃうよー!頭に元気をあげないと!ねっ?」
「うん、ママも食べてね。」
元気も食欲もない娘をみて本当に申し訳なく思う。
自分のことより私のことを心配してくれるなんて…
「ママは大丈夫なんだよ~!今は少し頑張りすぎちゃって故障中だけどこの有希ちゃんが頑張って直すから心配しないで!」
胸を張って言う有希を見て娘も笑顔になっている。
このままじゃダメだな…
有希が娘の世話をしてくれて学校へ送り出してくれた。
「本当にごめん…全然連絡しなかったのにこんな時だけ頼って…」
「何言ってんのよ!連絡なかったときも一人で頑張ってたんでしょ?翔太を使ってかすみんから香織の様子探ってたのよ!」
「え?そうなんだ…あの子何も言わないから知らなかった…。」
自分に必死だったけどあの子はどのくらい気づいていたんだろう?
「香澄、何か言ってた?」
「元気だけど元気じゃないって。女の子はすごいわよね!よく見てるんだと思うよ。その上で自分は迷惑かけないようにって頑張ってたんだよ!」
そっか…
そういえばなんでも自分で出来るようになったなって思ってたけど頑張ってくれてたんだろうな…
「香織やつれすぎ!うちの旦那とお義母さんに許可もらってるからうちに来て!もう私も引かないから!かすみんのためにも、ねっ?」
どうしよう…旦那になんて言ったら…
「とりあえず旦那に相談を…」
「そんなの必要ないわよ。いないじゃない!何があったか知らないけど出て行ったんでしょ?自分勝手にもほどがある!」
有希が怒ってくれるのが申し訳なくて…自分のしたことや、旦那のことを信用できないこと、稗田さんに惹かれてることを話した。
「稗田さんかぁ~。あの爽やかイケメンから弱ってるときに優しくされるとねぇ~。しかもなぜか香織ちゃんって呼んでるし!そりゃ惹かれるわよ!私この前駅でたまたま会ったのよ。『香織ちゃん元気ですか?』ってきかれたから曖昧に返したらいろいろ知ってそうで正直に連絡があまり取れないって言っちゃったんだよね…」
そうだ、有希に会ったから連絡したって言ってた。
「本当にごめん…迷惑ばっかりかけて…」
「え~!私が困ってたら香織も助けてくれたじゃない?お互い様だよ!うちからかすみんも学校通えるし翔太喜ぶし、うちにおいでよ。」
有希の三男の翔太くんは娘とクラスは違うけど同級生で同じ小学校だ。
もう甘えちゃおうかな…
「うん。何日かだけでもお願いします。家事は私がさせてもらいます。」
「なに言ってるのよ!分担よ!フフッさぁ、荷物まとめて!」
ずっと逃げるわけにはいかないけど少しだけ逃げ出そう。
でも私が家を開けるとなると気がかりなことが結構あった…
とりあえず冷蔵庫の腐りそうなものを持って、洗濯は回して乾燥機にかけた。
その間に有希も一旦私の荷物を持って家に帰った。
私は娘が帰ってきてから行く予定にした。
一段落してお昼に何も食べたくなくてコーヒーを入れてリビングのテーブルの椅子に座った。
スマホがチカチカ光っており見てみると稗田さんと田邉さんから着信ありとなっていた。
先に着信のあっていた稗田さんにまず電話をかけた。
『はい。こんにちは、香織ちゃん電話ありがとう。』
「こんにちは、電話の近くにいなくて気づかずにすいません。」
『本当に?避けられてるかと思って落ち込んでたんだ。良かった。泣いてない?』
そんな…
稗田さんの声は相変わらず優しくて…昨日抱きしめられた感覚が蘇ってくる。
「心配かけてすいません。昨日のこともすいません…」
また涙が出てくる。
『心配かけてよ。俺も半分原因になっちゃったしね。謝るのは俺だよ。順番を間違ってたし、突っ走っちゃったから。余計に香織ちゃんを困らせたよね…』
『・・・・~!』
電話の向こうで田邉さんの声がする。
もしかして今の会話聞かれたかな?
『もしもし、香織?俺、ひろ…田邉だけど。なんで先輩とは電話して俺は無視なんだよ!』
「相変わらず元気ね。良かった。無視じゃなくて着信があった順番にかけ直したのよ。」
でも今までも電話は取ってないから無視って言われても仕方がないか…
『元気か?この前は送っていかなくて悪かった…。驚いたよな…俺も驚いたよ。またご飯作ってくれよな!じゃあ先輩怒ってるから代わるわ。』
「もう行かないわよ!ちゃんと仕事してね!」
『ハハハッ、つめてーな。』
田邉さん元気そうで良かった。
夏川さんはどうしてるだろう?今の会話聞いてなかったならいいけど…
『香織ちゃん?ごめんね。田邉のヤツ俺のスマホ奪って出てっちゃって…』
「フフッ田邉さんらしいですね。昨日のことは私がお願いしたから、稗田さんのせいじゃないですよ。私のわがままで振り回してしまってすいません。とりあえず現実逃避して有希の家に逃げることにしました。」
『えっ?どうして?俺のせいだよね?』
違うのに稗田さんって本当に…
「違いますよ~。また落ち着いたらご飯行きましょう。」
『あっ、うん…。じゃあ今日はだめかな?』
戸惑いながら優しく誘われたらまたホイホイ着いて行っちゃいそうだなぁ。
「フフッ、今日は有希といるのでまた今度。本当に気にしないで下さい。普通に話せたから良かった。本当に電話ありがとう…私からはかける勇気なかったから、嬉しかったです。じゃあ、切ります。」
涙が止まらなくなってきたから言うだけ言って切ってしまった。
ちゃんと考えよう。
これからのこと。もう時間が解決なんてしてくれない。
昼過ぎにまた有希が来てくれて夕方に帰ってきた娘と一緒に残りの荷物を持って有希の家に行った。
玄関を入ると有希の旦那さんが笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい。いろいろ大変だったなぁ。俺は下にいるから有希とのんびりして、無理せず今は休んでね!」
「こんばんは。この度はなんてお礼を言っていいか…本当にありがとうございます。今日は朝から本当にすいません。」
私は深々と頭を下げる。
有希の旦那さんは優しくてすごく真面目そうなタイプだ。
有希と本当に仲良くてケンカなんてするのかな?って思うほど穏やかなひとだ。
私のために実家である1階にいってくれるらしい。2世帯住宅の2階が有希夫婦の家になっている。
それから有希のお義母さんにも挨拶をし2階のリビングへ行く。
有希の息子くんたちが歓迎してくれた。
そしてもう夕食の準備もされていた。
娘は喜んで子供部屋へ入って行きすぐに楽しそうに何かお話しているのが聞こえる。
心配していたけどお泊まりに行くよって伝えたらすんなり受け入れてくれた。
「はぁ~、本当にありがとう。」
その日は慌ただしくご飯食べてお風呂いれてなんてしてたらあっと言う間に時間が過ぎた。
娘は子供部屋で翔太くんと寝ていてケロッとしている。
ありがたい。ひとりだったらきっと暗い顔をさせていたに違いない。
バタバタしていたから大変なことを忘れていた!
旦那に何も言わずに出てきてしまっていたのだ!
21時過ぎに電話があり気づく…
「どうしよう…有希の家に来ること伝えるの忘れてた…」
きっと帰ると誰も居なくてびっくりしただろうな…
「私出てもいい?結構言いたいことがあるの。」
「で、でもまず私がでようか?急に有希が出たら驚くよね…」
戸惑っていると有希からスマホを取り上げられ勝手に通話ボタンを押してた。
「もしもし、私神田有希です。勝手に香織の電話に出てごめんなさい。香織は出られる状態じゃないので!代わりに用件を聞きます。」
そうやって電話に出た有希はとても冷たく隣にいる私も怖かった…
『あ、あの、香織は無事ですか?帰ったら電気付いてなくて探すけど香澄もいなくて…』
「えぇ、無事です。衰弱しきっていたので私が無理やりお願いしてうちにきてもらってます。勝手に出て行かれたと伺っておりましたのでご主人様には相談する必要はないと私が言ったんです。」
そんな…私もつい忘れてたしまってたから有希のせいじゃないのに。
『そうですか…出て行ったというか、頭を冷やしたくて…』
「男の人は勝手ですね!自分のことしか考えなくていいから。家族を置いてひとりでホテルに泊まるなんて…香織はどんなにショックでもフラフラでも家にいて逃げなかったんですよ。香澄ちゃんのこともちゃんとして家事も。あなたの物を洗濯して食事の用意もしてたでしょう?性欲処理の相手まで…」
有希の目から涙がこぼれた。
言葉にしてしまうとなんてひどいんだろう…
性欲処理って…
『えっ?そんなつもりじゃ…あ、でもそうだよね……香織に代われない、ですか?』
「そうですね。今は少し休憩させてあげて下さい。落ち着いたら香織から連絡させますし、必要なら香澄ちゃんからも電話するようにします。」
『あ、うん…そうですね。連絡を待ちます。昨日はごめんって伝えて下さい。』
「それは次会ったときに直接伝えて下さい。今は穏やかに過ごしてもらいたいので。じゃあ失礼します。」
『わかりました。2人を宜しくお願いします。』
なんだか少し言い合っているかのようだったけど大丈夫だったのかな?
私に電話を代わることなく切られた。
「大丈夫だった?びっくりしてたよね?ご飯とか食べたのかな?」
「はいっ!そんな事考えない!考えるのはまた今度。たまには自分でしたら香織のありがたみがわかるのよ!」
そう言って私を抱きしめてくれた。
私はまた泣いた。
「ありがとう。本当にありがとう。」
それから昼間は有希夫婦は仕事に、子供たちは学校に行き私は洗濯物をしてあとは掃除機をかけるくらいだ。
買い物は有希が帰りにしてきてくれて、帰ってから一緒にご飯を作る。
私が買い物すると食事の準備するからそれを避けるためだろう。
全然そんな事負担に思わないのに…
有希の旦那さんは気を遣ってくれておりご飯の時に少し晩酌をするくらいでその他は2階に上がってこなかった。
なので洗濯もきっと1階でしてもらってるのだろう。
本当に申し訳ない…
早く自分の家に帰らないといけないのはわかっているけど日が経つにつれ帰りたくなくてつい甘えている。
昼間の暇な時に有希のお義母さんも気にしてくれており2階に上がってきて話し相手をしてくれる。
すごく気さくな方で話しやすい。
旦那のお義母さんとはこんなに気軽に話をしたことがなかった。
私がインターネット配信のヨガをしていると言うと一緒にヨガをするようになった。
有希の家はテレビにインターネットが繋がっており、パソコンの小さな画面ではなく大画面でレッスンを見れる。
「ヨガって本当に気持ち良いわね~。体が軽くなってきたわよ。」
お義母さんが嬉しそうにそう言ってくれる。
「はいっ適度な筋肉も付くらしくて、それに精神安定にもなるらしくて。」
「香織さん大変だったものね。昔は浮気なんて当たり前みたいな風習だったでしょう?してもいいとか、浮気されても女は騒ぐなみたいにね。でも女をバカにしてるわ!恥ずかしい話だけれどうちの長男は結婚して子どもも2人いるのに落ち着かなくてね~。大輔と正反対の性格なのよ…はぁ…」
大輔さんは有希の旦那さんだ。
旦那さんのことは全く知らなくて勝手に両親と一緒にいるから長男だと思ってた。
「もう、1度や2度じゃないのよ…。そりゃ愛想尽かされるわよね。嫁と子どもが出て行ってあとは弁護士から連絡があって会うことも電話で話すこともなかったみたいよ。私たちも孫にはもう会わせてもらえないからどこで何をしているかも知らないのよ…。まぁしっかりした嫁だったから心配はしていないけどね。」
有希からは一度も聞いた事なかったから驚いた。
だから弁護士をって言っていたのか…
「そうなんですか。意外でした。大輔さんからは想像できないです…でも私も……実は私も良くしてくれる男性に惹かれてるんです。その方優しくて、つい私が旦那のことを話したばかりに気にかけてくれるんですよ。それに甘えて…」
「フフッ、当たり前よ。付け入る隙を作ったのも浮気のせいじゃない。でも厳しい事を言うと子どもの事も考えて。きちんとけじめはつけるべきよ。その方とお付き合いするならまず離婚してからにしないと。」
離婚…
私に今の生活を捨てる勇気があるのか…
離婚しても稗田さんとお付き合いするなんてことは有り得ないだろうけど…
「はい。もういろんな人を巻き込んで迷惑をかけてしまったのでこれからはその方たちを裏切ってしまうことだけはしないようにします。」
「頑張ってとは言わないけれどゆっくりでいいから親として人として間違わないようにね。あなたには有希さんという素晴らしい友達がいるんだから思う存分甘えて頼りなさいね。」
私ってこんなに泣き虫だったかなってくらい泣いてばっかりだ。
しばらく涙が止まらなかった。
有希の家にお世話になって10日ほど経つが旦那のことが気がかりでしかたなかった。
食事はどうにかなるけど洗濯だったりとか…
アイロンも当てないといけなうだろうし…
思い立ってみんなが外出したあと自宅に帰ってみた。
思ったよりも散らかっておらず、ポストの中もそんなに溜まっていなかった。
手紙類はテーブルの上に置かれており、ゴミも溜まっていなかった。
洗面所へ行くとさすがに洗濯が溜まっておりとりあえず洗濯機を回して、窓を開けて換気をした。
「そろそろ帰らないといけないな…」
呟いてみた。
シャツ類はアイロンをかけてからハンガーに干して、手紙のチェックし掃除機をかけて家を出た。
久しぶりに外に出た気がする。
急いで帰る必要もないからのんびりと目的なく歩いてみた。
10日だけど日常から離れてみて気持ちが落ち着いてきたような気がする。
今後について話し合わないと、いつまでも今のままでいいわけない…
ゆっくり歩いていたら隣に車が停まった。
ちらっと横目で見てみると見たことのある車だ。
助手席側の窓が開き、見たことのある男性が顔を出す。
誰だったかな?
そんな風に思っていたら運転席の男性が身を乗り出してきた。




