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楽しく食事も済み夏川さんが食器を洗ってくれ、私はテーブルを拭いていた。


「そういえば昨日ジュエリーショップから電話があったんだよなぁ。」


思い出したように田邉さんが言う。


「出来上がってるけどいつ取りくるかって。」


「覚えてないの?」


「あぁ、間違えじやないか確認したら確かに俺の名前言ってたし、ペアリングって言うんだよ。しかもスイートテンダイヤモンドがどうとか…」


「スイートテンなら10年の記念だよね?」


「やっぱりそうだよなぁ、香織とは結婚して12年だったし、今いる現実には10年を祝う別の誰かがいるんだろうか。」


ガシャーン


音のした方を見てみると黙々と食器を洗ってくれてた夏川さんがお皿を落としたようで足元で割れていた。

でもそれよりも驚いたのは夏川さんの目からは涙が次々に流れ出ていた。


「おい、どうした?大丈夫か?」


田邉さんが駆け寄り割れたお皿を拾うけど泣いている事に気が付いてなさそうだった。

私はあまりにも夏川さんが悲しそうだったから動けず見入ってしまった。

そのまま立ち尽くしている夏川さんの目から流れた涙が床へと落ちていく。


「えっ?な、つ、かわ?どうしたんだ?」


「本当に、本当にわかんないの?忘れたの?10年も一緒にいたのに…やっと、やっと家族になれると思ったのに…」


夏川さん…田邉さんの相手って夏川さんの親しい人かなにかかな?

なんとなく私はここに居るべきではない気がする。


「夏川、何か知ってるのか?スイートテンの相手を…?」


夏川さんはものすごい剣幕で田邉さんの胸ぐらをつかみ引き上げる。

あんなでかい人を小柄な夏川さんでも持ち上げれるんだと変に感心してしまった…


「僕が何をしたの?本当は心のどこかで同性だってことが嫌で忘れたの?嫌なら嫌って言えばいいだろう!何で忘れるんだよ!」


同性だってことが嫌で?あれ?

もしかして…田邉さんの相手って夏川さん?

それならこの家で田邉さんより夏川さんが勝手を知ってたのも納得がいく。

田邉さんはこの家での記憶がないから…


「夏川ごめん…よくわからない…落ちつい、」


「千秋だよ!千秋!そう呼んでたじゃないか。弘人、思い出してよ!お願いだよ。」


やっぱりそうか…

田邉さんに付き合ってたりとかそういう相手いないのかなって思ってたけど一途に私へ好意を向けてくるし誰も何も言わなかったから何となく自分の中でいないって決めつけてた。

帰ろう!私はここにいちゃダメだ!


戸惑っている田邉さんに縋るように話をしている夏川さん。

二人の邪魔をしてはいけないと思いそろっと帰ろうとした。


「待って、待って、そうだな、香織は帰った方がいいよな。夏川、ちゃんと話するからここで待ってて。送ってくる。」


えっ?今?私を?夏川さんを置いて?


「ううん、私ひとりで帰れるから夏川さんと話をしないと。夏川さんを置いて行くのはひどいわ。ね、田邉さんお願い。」


そう言って私は田邉さんのマンションからひとりで帰った。


動悸が止まらなかった…

そっか、田邉さんと夏川さん…

予想外で驚いた。自分の周りに同性カップルなんていないから当然のように可能性を排除してた。

傷ついている人がいたんだ…私も傷つけちゃったかも…

何故だか私も涙が出た。

恋人から忘れられるなんてどれだけ悲しかったんだろ…


その夜、田邉さんから謝罪と無事帰れたかを確認するメールが届いた。

私も無事に帰れたことだけメールで返した。


そしてその日は旦那の帰りが遅く日付をまたいで帰ってきた。

私は起きていたけどリビングで待っているのも嫌でベッドに横になったけど眠れなかった。


「ママ?もう寝た?」

旦那は帰ってくると横になっている私に声をかけてきた。

寝たふりをしようか迷ったけど起き上がった。


「おかえりなさい。お風呂沸かそうか?」


そうして寝室から出ようと旦那の横を通ったときにフワッと香水の匂いがした…

そっか、たまに匂ってたな。

最近匂わなかったから忘れてたけど…

どうしてあの時はこの匂いに気づかなかったんだろう…


「香織、遅くなってごめん。課のお祝いがあって参加したんだ。なかなか抜けられなくなっちゃって…」


言い訳をしている旦那に腹も立てれないほどの脱力感があった。

はぁ、何だか今日は疲れたな…


「そう、なら私は先に休ませてもらうね。お休みなさい。」


寝室に戻ろうとした時腕を掴まれ、抱きしめられた。


「ごめん、香織。心配して起きてたんだろう。」


心配?何だろう、自分の感情がわからない…


「離れて、臭いの。香水、匂ってるわよ。」


力なく押しのけると簡単に旦那は私から離れた。

呆然と立ち尽くす旦那を横目に寝室へ向かった。


「違うんだ、香織、聞いて香織。」


また腕を掴まれ引き寄せられる。


「だから、臭いの。もういいからやめて。」


「彼女、三浦さん飲み会ですごく酔ってて、僕の補佐だから周りから面倒を押し付けられたんだ。立てないくらいに酔ってたから抱えてタクシーに乗せた。それだけだよ。」


必死で弁明しようとする旦那を見ていたら目から涙がこぼれた。

そうか、私って傷ついてたんだ。

泣いている夏川さんを見て私も傷つけたんだって傷ついて、

久しぶりに帰りが遅かった旦那を信用出来ずに裏切られたって傷ついたんだ。

そしてもうどんなに弁明されても私は旦那を信じることができない…

元にはもう戻れないと確信して傷ついたんだ。


「ごめんなさい、私あなたのことが信用できないみたい。」


それからしばらく旦那は私を抱きしめていた。


「香織、かなり痩せちゃったね。僕のせいだよな。ごめん…。」


「フフッでもこっちのほうが健康的でしょ。太ってたから…もっと痩せたいくらい。」


「僕は今までの柔らかい香織が好きだよ。」


「三浦さんは小柄で細い子だったけど?もう寝るわ。お休みなさい。あなたも早く寝てね。」


自分の気持ちを認めてしまうと何だか楽になった…

元に戻ろうと頑張ってて信用しようと努力した。

でもどんなに頑張っても信用出来なかったんだ。

ひどく疲れたな…でももう本人に信じられないって言ったらすっきりした。


傷つくのも傷つけられるのも怖かった。

でもどうしたって誰かを傷つけちゃうし傷つけられちゃう。

今は何も希望が見えない。脱力感と疲労感でいっぱいだ。

でも今日は何だか眠れそう。

寝室のドアを閉める間際に旦那のすすり泣く声が聞こえた気がした。


どんな事があっても朝はやってくる。

何とか起きてリビングへ行く。

もう旦那はスーツを着ておりコーヒーを飲んでいる。


「おはよう。今ご飯つくるわね。」


「僕はいいよ。昨日遅くまで呑んでたから胃がもたれてるんだ。」


きっと寝てないんだろう。

コーヒーを飲むと早めに仕事に行ってしまった。

私は娘を起こし、いつもと変わらない朝を過ごした。


それから何度か田邉さんからメールが届いた。

内容は『会いたい』とか『話がしたい』だった。

会うことによって夏川さんを更に傷つけてしまうと思い断った。

電話も何度かあったけど出ずに無視をした。



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