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(偶然なのかもしれない)
ぐしゃりと紙コップを握り潰した。
(ほんのちょっとした幸運が、神様のいたずらで3作も保ったのかも知れない……けど、そろそろ限界なんだろうな)
苦いものが口の中に湧き上がる。あっさり吐き捨てて、次の目標を探しに行ければ、どれほど楽だろう。何に挑んでも自分の限界を知らされるのは辛い、特に自分の内側の声が告げてくるときには一層。
静かに息を吸い、目を閉じる。胸一杯になった空気を一気に吐き出し、ぱっと目を開けた。
見慣れたロケ風景が、妙に空々しく遠い世界に見えた。
(よし)
心の中で頷いた。
(これを最後にしよう)
思い切りは悪くない、と昔から言われた。家を離れる時も泣き出す母親を振り切った。
「垣さん?」
「ん?」
話しかけられて振り返る。
「この次の作品、知ってる?」
「…いや」
胸中を見透かされた気がしてどきりとする。こちらを見返す修一の、明るく輝く瞳にそっと首を振る。
「伊勢監督が次にやるのをさっき言ってたんだよ。シリーズ4作目、『古城物語』をやるんだって。まあ、まず今回のが当たるかどうかってとこだけど」
「ああ、そうだな」
「……?」
くすくす笑った修一が訝しそうに小首を傾げた。思い直したのだろう、からかうように笑い、
「他人事みたいな言い方だな」
「オレ、さ」
一瞬迷ったが良い機会だとも思った。
「この作品で降りる」
「え…」
笑っていた修一の顔がはっきりと強張った。
「お、りる?」
「ああ」
「滝、を?」
「ああ」
ことばを失ってしまって固まった修一に、ちょっと苦笑して見せる。
「あのさ、ちょっと前から、こう、わかんなくなってきてたんだな」
思わず知らず、溜め息が零れた。
「本当に映画が好きなのか…演じることが好きなのか……役者、ってのが好きなのか。……お前は好きだろ?」
「う…ん」
ぎごちなく修一が頷く。
「このあたりがオレの限界みたいだ。先が見えて来たよ」
「そんなことないよ!」
「お前にはわからんかも知れんがな」
突き放した物言いのニュアンスを修一は確実に察した。
「僕が……友樹…修一だから…?」
「……」
「…………おとうさんの……こと…とか…?」
見る見る落ち込んでくる表情、それさえも様になっている気がする。
生まれついての役者。
「…それも、少し、ある」
「……………」
沈黙は重く長く引きずった。
「………まあ、次の滝役は別の人間になるってことだ」
そして、友樹修一の共演者なら、きっと星の数以上に志望者が見つかるだろう。
「…………………」
「おい、そう沈むなって。お前は大丈夫だよ、降ろされやしないさ」
ぱん、と肩を叩いて笑ってやった。だが、修一は笑わない。大きな瞳を見開いて、じっと垣を見返している。
気まずくなった、と咳払いしかけた垣を、折よく監督が呼んだ。
「おい、垣!」
「はいっ!」
これ幸いと立ち上がって垣は走り出す。
何となく、後ろは振り返れなかった。




