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周一郎舞台裏 〜猫たちの時間5〜  作者: segakiyui
6.シーン203

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4

「な…んか」

「え?」

 高野は山本の顔を振り仰いだ。例によって、『月下魔術師』撮影の合間の、他愛ないおしゃべりの最中だ。

「なんかこう……いやに目につくな」

「何がです?」

「いや……ほら、修一の奴さ、前より垣へのまとわりつき方が酷くなったような気がしないか?」

「…そういえば……そんな気も」

 高野は演技中の修一に目をやった。

 伊勢は修一の演技にまだまだ納得しておらず、喚き散らしている。

「何やってんだよ! 友樹君! そこでそんなに滝を頼っていくな!」

「はいっ」

 素直にこっくりと頷いて、修一は再び演技を始める。だが、今度は、垣の方が椅子の脚に蹴つまずき、テーブル掛けを引っ掴んでこけた。

「垣っ! 何やってやがるっ!」

「垣さんっ!」

 修一がうろたえて垣の側に走り寄る。心配そうな顔で覗き込み、どこも怪我していないらしいと知って、ほう、と溜め息をついた。

「ありゃ、肉親を見る眼だよ」

 山本がばっさり切り捨てる。

「肉親?」

「そ。それも血の繋がった父親とか、兄貴とか、な」

 山本は口調に皮肉を響かせた。

「あ、修一さんと言えばね、最近素直になってません?」

「そうなんだ。この間、落ちた脚本を拾ってやったら、『ありがとう』だってよ」

「へえ、あいつが」

 心底意外そうに口を挟んだのはメイクの山根だ。

「前のときは拾ってやっても少し頷いただけでさ、プライド高いぜ、って見せつけてきたのに」

「今撮っている映画もののせいでしょうかね」

「10年来の当たり役だって、監督一人で喜んでるぜ」

「そうは見えないけど」

 高野は怒鳴っている伊勢を不審そうに見つめる。

「ああ、ありゃ、監督一流のポーズだよ」

 山根が事情通ぶって教えた。

「修一はもっと何かを引き出せるって言ってたぜ、監督。今は自分の才能だけに頼ってるが、その上に積み重ねりゃもっといいものが出来るはずだってさ」

「周一郎シリーズも3作目だからな。なまじな演技じゃ客は呼べんって訳だ」

 冷ややかな山本の声が続いた。

「あ、それじゃあ修一さん、その当たり役だってうえに感情移入してるのかな」

 思いついたように高野が瞬きした。

「修一さんと周一郎、どことなく境遇が似てるし、このところ修一さんも辛い事が続いてましたからね」

 感情移入じゃないよ、と山根が嗤った。

「ありゃ、完全に周一郎になりきってるよ。垣を滝に見立ててんのさ、休憩の時もな」

 山根のことばと同時に休憩になった。垣さん、と修一が声をかけながら垣の側へ歩いていく。へたへたになって座り込む垣にタオルを渡して、脚本を一緒に覗き込みながら何やかやと話している。

「甘えているんだな、あれは」

「いいじゃないですか、役がうまくいくんだから」

 山根と高野がのんびりそれを見守っていると、

「そううまくいくかな」

 山本の冷笑が響いた。

「え?」「は?」

 高野と山根が振り向く。

「どういうことですか、山本さん」

「簡単なことさ」

 訝しげな高野に山本は肩を竦めてみせる。

「確かに修一は周一郎に同化して、勝手に垣に滝のイメージを被せて甘えてりゃ、演技もうまくいくし、あいつもシアワセだろうな。けれど、問題は垣だ」

 答えを引き出そうとするように、山本は2人を見返す。問われている気配に、2人はちらちらと視線を交わすが、答えには辿り着けず、山本に視線を戻した。

「垣に『こける』以上の才能があると思うか?」

 お前達も知ってるよな、と山本は続ける。

「滝は確かに『ドジでお人好しな一般人』って描写をされてる、けれど、そうじゃないだろ?」

 2人が一瞬考え込み、それからそれぞれに、あ、と表情を変える。


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