おきつねさまサバイバル。ゾンビパニック編 Part6
遅くなりました。
猫又達との合流地点に向かったところ、彼らの御霊式神が置かれていた。猫達の式神は『九つの命』のうちひとつを自分の身体から切り離し、術式で構成された肉体を与えるというものである。存在している力が本来の9分の1しかないため干渉できる事柄や容量は小さいが、その代わりに被害も少なくなるという仕掛けになっている。破壊された場合は本体には被害が反映されるものの、式神のために使った命は消費されずに戻ってくる。ただし、反映された被害のせいで命が消費される可能性はあるとか。
分霊であるため、私が普段使うような式神と違い声を発することができるだけではなく、本体と同程度の思考能力も持ち合わせている。私も一応は音の出る式神を作れるのだが、手持ちの物資では作ることができないし、録音を再生するという程度しかできない。私の普段使う式神達は最初に設定した行動しかできないが、猫の式神は通常の式神よりもはるかに高度に、臨機応変に対応できる。しかし彼らは他の種類の式神はほぼ使えないと聞いた。
その式神が言うには、6人全員で新居探しのための探索を続けている、ということ。この式神が私と合流した後には、その式神が先に狐の拠点に戻り、待機している猫達に連絡する予定であるらしい。
「別に私を待つ必要はなかったのではないか?」
「お世話になっているのですし、伝えておいたほうがよろしいかと」
そもそも別行動しているのならば同時に探索しに来た意味もないのではないか?
「まあ、そのあたりの判断は任せるが。お前の本体との連絡は通じているか?」
黄色の毛をした猫の式神に問いかける。本体とは違い、かなり幼いような外見になっているように見える。山猫達を相手にしている時に御霊式神を使わなかったのは、単純に単体あたりの戦力が乏しいものになるというのと、相手側も同じように御霊式神を使えるからだろう。
「本体とも、他の式神とも通じています。30人体制で探索していますし、狐の皆さまに迷惑を継続させることはないかと」
猫達の新居探しはこちらが同行するべき事案ではないし、彼らの敵対勢力すべてを把握しているわけではない。此方の判断で良さそうな場所だと思っても、猫達にとっては危険な場所になり得るのでこちらは干渉できない。ただそういう事情があってもこちらも切羽詰まっている状況にある。滞在期間がもし延長されるようならば家賃の値上げの考慮をしておかなければいけない。
ほんの僅かな情けをかけたが為に自分達の方が被害を受けた、といった事態になってしまっては困る。直接要求されてしまったのだからできる範囲ではやっても良いだろうが、現状がその範囲の限界点である。拠点の中に、友好的だとはいえ別の勢力が集団としているのは、かなり精神的な負担になっている。
ほんの数日のことであるが、母狐達からは不安の声がかなり上がっている。子供達同士の間で怪我や事故などが起きるかもしれないと気を遣うのも大変だ。なるべく早いうちに出て行って貰わなければならないが、一度拾ってしまった以上投げだすことも難しい。
「もう夜がちかいか……」
僅かな雲に隠れた太陽の方に目を向け……と思ったが、方向がおかしい。建物の窓硝子に反射して映っていたものに視線を向けていたようだ。
この災害が起きて何が一番大きく変わったかといえば、であるが。
60億以上の人間達が、交渉の余地もない、理性もない、統率もされていない敵対的勢力となっていることである。海を渡ることができないという【奥】の言葉を信じるのならば、実際に相手になるのは8000万程度だろうか? いずれにしても数が大きすぎるので気休めにもならない。
ゾンビ達に多くの妖獣の拠点が荒らされて食料供給が滞った結果、いくつかの場所で争いが起きている。青蛇の強盗もそうだし、山猫と猫又の問題も恐らく似たようなものと考えていい。
ゾンビ達をどうにかできるならば、事態は解決しないまでも少しはマシなモノになる、と考えるのはさすがに楽観視しすぎだろうか。
解決する理由というものを探しているような気がする。8000万も敵対する存在が増えたとはいっても、別にすべてを相手にするわけではあるまい……そう考えて、1つ思い出した。
ゾンビは、増殖するような増え方をしていた。感染する以外にも、ゾンビは数を増やす。事態が始まってから1週間経過していないのに同一の存在を複数見つけることになったということは、おそらくネズミよりも早い勢いで増殖していくと判断していい。そうなったら実際に相手にするのは8000万どころではないんじゃないか。他の勢力や生存している人間達が対処していると考えても減らしたうちに入らない程度のわずかな誤差だ。他の個体たちも同じように分裂するような増殖をしていたならば、単純に3倍以上と考え、我々が関わる範囲にいるゾンビは2億以上いると考えないとならない。
薬屋にいた理性が残っていた彼は分裂している様子はなかったが、それの理由が腕などが捥ぎ取れていないせいなのか、それとも鎮痛剤で冷静になれているせいなのかは判断できない。奴の方が例外だと判断しておくべきだ。他のゾンビ達の顔をすべて覚えているわけではないが、服が破れている個体はいたが、裸体になっているような個体はいなかったと思う。
なぜ服まで再生するのかというのは、冷静なゾンビを調べた際に把握した。ウイルスの小さなカタチが、再生の術式と同じような形状になっていたからだ。再生による回復の判定に、衣類まで分類されているのだろう。仮に衣服だけで放置していたとしても再生はできない。血流、ひいては生命力を疑似的な魔力や妖力と認識させているからで、再生の範囲には装備品も含まれている。名札入や金属を再生できないのは、それらを再生対象として認識させることができなかったためだと思われる。科学的、生物的に魔術や妖術を再現することは難易度が高いものの、知識さえ備えていれば『それなり』のものが作れるらしい。
ただ、当然ながらそんな術式を組み込めば、身体に負担がかかるわけで。その結果の知能低下や、頭痛なんじゃないだろうか。
ただの身体強化を刺青として腕に刻んだだけでも、その刺青を剥した後でも消えなくなるような痛みを覚えるようになる。それよりも強力なモノを、血液に乗せて循環させてしまえば、まあ『死んで』しまってもおかしくはない。
簡単にまとめてしまうとこうなる。
ウイルスが撒かれた理由は、大規模な監視を行うため。
人が死んでしまったのは、ウイルスが持たされていた再生の機能によって体に負担がかかり過ぎたため。
死んだ人が動き回れるのは、その再生機能によって動かされ続けているため。
出血が無いのは、血液ではなく、それの『血流』を魔力や妖力として使っているため。
ゾンビ達が人間達を発見出来るのは、ウイルス同士が探知と連絡をしているから。
ウイルス同士が一度接続を離されたならば、ゾンビ同士の間で、ウイルスの情報がやり取りされることはないとみていい。
人を襲うのは、最初は燃料補給のためだと考えていたが、再生の術があるのでそうではない。おそらく感染を積極的に広げるようにウイルスが指示を出しているのだと思われる。完全に食いつくされて無くなってしまったような死体を見かけないのでそう判断したが、このあたりは正しくないかもしれない。もしかしたら再生が間に合っておらず、燃料補給で補っているという最初に考えた可能性も確率を下げつつ思考に残しておく。
まだよくわからないことはいくつかあるが、そのあたりは後から考えていくとしよう。
製作者に関して、魔術や妖術に関して心得がある、と考えていたが、実際はその程度のものではないのかもしれない。ウイルスに対して、『うまく術を再現できている』と認識できるという事は、こういった術にも科学にも、異常なまでに知識を備えているという事である。
この事案を解決しても人間社会は元に戻らないかもしれないが、元凶を放置したままであったならば、妖獣や、他の妖怪の生存だって脅かされてしまう。だったら、現状をこのまま放置しておくわけにはいかない。
ならば、自分達の命を守るために、この状況を打開しなければならないだろう。
地下に向けて少し探索する。人間の集団がいくつか確認できなくなっているが、それはおそらく地上のほうに退避したか、あるいは他の集団に合流したか。細かい数は見ることができないため詳細は判別付かないが、ゾンビ達のほうに取り込まれたとは思わないでおこう。現実逃避だってしてもいいのだ。
背後から、刃物同士を擦り合わせるような音が聞こえた。探知にはかかっていなかったので気が付かなかったが、咄嗟に振り向きながら距離を取る。
後ろにいたのは、それぞれが6尺ほどの体長をもち、脚はそれと同等程度の長さを持つ大きな蜘蛛が8匹。
「土蜘蛛かッ……!」
蜘蛛類の妖怪は、基本的に人化することを好まない。手足の数が違うから行動がうまくできなくなるというのもあるし、人化状態では糸や毒を十分に扱うことができないからだ。それでも芸に特化するという意味で人化を選択するものもいると聞いた。
土蜘蛛達がここにいるというのには驚いたが、敵対しているので遭遇、あるいは察知されれば攻撃を試みてくるのはそれほどおかしいことではない。問題は、こいつら8匹ともがすべてゾンビになっているという事だ。
ゾンビウイルス……否、感染型の死霊術というものはこいつらの行動と非常に相性が悪いものだったらしい。彼らは毒を操るが、鼠と違い病毒への耐性というものが殆どない。そして、彼らはおそらく感染した死体の肉を食らい、そのまま感染してしまったのだろう。土蜘蛛すべてが感染しているかどうかは分からないが、少なくともこの場にいる8匹は全て感染している。
「不愉快だ、まったく」
自覚していないうちに言葉が出た。脇差を逆手に構えながら周囲を見回すが、数体のゾンビがこちらに寄ってきている。生きた人間や妖怪はいないが、騒ぎを聞いて近づいてくる可能性もあるし、他のゾンビはそれよりも早く集まってくる。
探知にかからなかった理由は、おそらく彼らがゾンビになる前に阻害系の術を使った後、そのまま解除できていないからだろう。己の耳が良くて助かった。
「ゾンビになった後も術は残り続ける、か」
まあ死霊術で操られているのと同じようなものだから、術者、つまりウイルスの方から停止命令がない限りそのまま続行し続けるか。そしておそらくウイルスの方には知能がないので、そのまま認識阻害を実行し続けたままであり続けている。ウイルスをばら撒いた連中の方は術に関する知識があるかもしれないが、ウイルスの方にはそれを停止させる性能は持たせていない可能性が……と、考えている間に1匹がこちらに向けて飛び掛かり、刃物を超えるほどの鋭さを持ったその爪、もしくは腕を突き立てる。
大振りなものなので回避することは難しくなかったが、その爪は舗装された地面にささり、ひび割れを作り上げる。
そのひび割れを回避するように後ろに下がったが、衝撃波とともに礫片が飛んでくる。
「敵対するような記憶は残っているのか?」
思考整理をするために呟きながら顔や胴に向けて飛んでくるそれを、脇差の柄底で受け払う。刃先で受けたりなんてすれば、そのまま刃毀れして折れてしまいそうだ。
対面している蜘蛛以外のうち、5匹が姿を隠す。紙式神を10体呼び出し、追跡させ、蜘蛛1体あたりにつき式神2体で当たるようにしておく。指示は足止めのみで、切断はさせないようにしておく。
残った蜘蛛が3匹、正面、右寄り前面、左寄り前面、と僅かな息をつく暇もない程に攻撃してくる。2匹目の攻撃を避けたところで、最初の1匹が糸を鋭く伸ばし、足に向けて『突き刺そうと』してくる。
「正気かッ……」
いや、ゾンビになっているから正気ではないのか。土蜘蛛の使う糸というのは捕獲に使うものだとばかり思っていたが、鋼鉄のように固く鋭いそれを吐きつけられれば、当たった場所に穴が開くどころか千切れ飛んでしまうかもしれない。
考える間もなく、打ち付けるような爪。3匹目はそれを放った後、足を地面に突き刺したまま、他の足では踏み切り、身体の前後を裏返すようにしながら、他の7本の足でこちらを捕まえようと試みてきた。
狐火を銃に乗せ、そいつを吹き飛ばすために攻撃する。
その反動でこちらはさらに後ろに飛び、火の粉を糸に向けて飛ばす。硬度はどうしようもないくらいに硬いモノだが、術を乗せた刃であったり、単純な炎であっても対処はできる。
「ゾンビになっても、ここまで連携できるものか」
生前の記憶というのがある程度残っているのかもしれない。離れていった5匹は、遠距離や場所移動した際不意打ちをするような行動をする手はずなのだろう。
連携が効くとは言っても、さすがに生前と同じではない。式神が破壊された様子もないので、足止めは十分に果たしてくれていると考えていい。生きているならばそのまま適当に焼き払ってしまえばいいのだ。
ゾンビとなっている彼らは、疲労を知らないか、あるいは無視しているのか。他のゾンビ達の状況を考えるのならば、再生することで疲労を回復させているはずだ。
左側面から横薙ぎに足を2本払ってくる蜘蛛のそれを、脇差の鞘を撃ち当ててはじき返す。
下手に分解してしまうような攻撃はできない。人間のゾンビですら、おそらく腕があればそのまま復活していたのだ。蜘蛛の胴体と足を切り離したところで、9体に増えてしまうだけだ。
切り離した足を即座に焼き払ったとしても、本体の方から足は元通りに生えてきてしまうだろう。傷口を焼いたところで、元通りになると考えたほうが良い。
「なら当然、することは、っ」
今度は糸が、網のように吐きだされる。捕まれば命が危ういものだが、先程のような鋭いものではないので十分回避はできる。後から地雷のようなものになってしまわないように、しっかり焼き払っておく。
糸による攻撃を受けてしまえば、おそらくそのままウイルスに罹患してしまうと考えていい。
網糸の中からは毒液が飛び出してくる。焼かせるのが狙いだったか、それとも捕まえて同時に浴びせるつもりだったか。
火力を強くし、毒液をそのまま蒸発させる。毒霧とは違い、毒液を外的要因で気化させれば、その場に飛び込んで大きく呼吸をしたりしない限りは問題ない。指向性が違うのだ。
「そろそろ、反撃といきたいところだが」
少し手間がかかるか。接触結界を作り、細長い鉄棒のようにして構える。脇差は持ったまま、逆の手に武器として持つ。
「クモの心臓は腹部背面、だったか?」
仮に普通の魔力や妖力、あるいは体外から力を供給するような形の再生術式だった場合、心臓を破壊したところでそれほど意味はない。
だが、罹患者達の大半にはそういった術に関する心得はない。もともとは密偵として使うような存在に変えるものだったと考えられるから、そもそも自力でそういった術を使えるようになる『改造』は施されていない。
再生の術式、即ちゾンビウイルスがどの場所に一番多く存在しているかといえば、おそらく循環を奪われている血液。肉の動きも制限するような場所にまでウイルスが蔓延っていたならば、肉体が動けなくなっているか、あるいはもっとなりふり構わないような狩猟行為を行っているだろう。燃料に変換しているのは、あくまで血流だけ。そうなると身体のどこに負担がかかるかといえば、当然心臓。
人間達が行動不能にしたであろうゾンビ達は、おそらく四肢のどれかでも残っていればそこから再生していたと考えられる形跡があったので、単純に『心臓がなくなってしまった』程度の破壊では意味がない。
「そう簡単に撃たせてはくれないか、」
左からの爪に結界棒を打ち当て受け流す。右から迫る顎に向けて狐火を打ち込み、蜘蛛毒を撃たれる前に妨害する。正面から迫りくるクモに対応するため、奴の頭頂部から顎、地面を縫い付けるように脇差を投げ刺す。新しい服は多少動きにくいものであるが、この程度ならば問題なく回避できる。
クモの大きすぎる身体と長く鉤爪状になった足先では、刃物を取り外すには時間がかかる。脳を大きく傷付けることができたので、即座に対応する必要はない。
1体のトドメに拘ろうとして他の奴らに攻撃されてはかなわない。
脇差の代わりに新たな結界棒を用意し、片方を地面に押し付け、それを掴んだまま跳躍棒にするように跳ぶ。右から迫るクモを跳び越える。
左にいるクモが糸を吐こうとしてきたので、それを左手の結界で、空中にいる間に絡める。糸が絡んだままのそれを、まだ行動が自由なままの2体の蜘蛛を同時に縫い留めるようにするために、鋭く投げつける。
硬い糸が丁度良く引っ掛かりになり、近いほうの頭を貫通しつつも通り抜け切らず、そのままもう一体の胴体にまで到達する。
「さて。考えてはいたが成功するかどうかは分からんのだよな」
どれか1体が動き出すまでに15秒ももたないと見ていい。後での行動の事も考えるならば、他のクモも追いかけなけてとどめを刺しておいたほうが良い。
片手に残ったほうの結界棒を軽く振り、先端に判子のような、刻印の術を用意する。
ゾンビ達を即座に焼けない場合は、何かしらで行動不能にするか、あるいは再生できない状態にしてやらなければならない。
血流を資源としているならば、血液か血流のどちらかをなくしたり、妨害すれば問題なくなる。
刻み込む術の刻印は『影縫』のもの。通常ならば自分の妖力を使い他人の行動を封じる軽い術だが、これを呪ではなく紋として打ち込み、彼ら自身の血流を利用し、その血流の動きを縫い付ける。
クモ達の心臓がある場所を、外側から突き刺すように、刺青のように印し、即座に他の2体にも同様に刻む。
「ふむ、成功か」
30秒が経過し、彼らは再び動き出すようなそぶりも見せることがなかった。術式は特に拘るものでもなかったが、失敗したとしても動きだすのを遅延させることができるこの術は悪い選択ではないだろう。
軽く息を吐き、狐火を放つ。封じたとは言っても術に残り蓄えられていた回復のための資源は、数分の間彼らの回復を助けることができたようだ。まあ、人間のゾンビを相手にするならばここまで時間がかかったりしないだろうし、なんなら最初に建物などに集めてから火を放てばいい。あくまで戦闘になってしまった時の対応策として考えておこう。
クモの顎と大地を縫い付けるために投げつけた脇差は、そのまま地面まで突き刺さっていた。刀身にわずかな傷が増えてはいたものの、刃毀れはしていなかった。石のように舗装されていた地面に突き刺さっていたのだし、もしかしたらクモの爪を受けたとしても問題なかったかもしれない。まあ確かめるよりも確実なほうで受け止めるべきだが。
クモの表皮が焼けて爆ぜる音、それから焼けてゆく彼らの臓物の匂い。夕闇の中でこの場が明るく照らされ、周囲の存在にこの場に何かがあるという事を主張する。
明るさに釣られたのか、それとも匂いに釣られたのか。ほかのゾンビ達が人間、獣、妖獣問わずにそれなりの数寄ってきた。彼らにも燃料になってもらうとしよう。
建物に引火してしまった。大きな建物が丸ごと燃え上がり、異様としか例えようがない音を立てて崩れるという光景はそうそうお目にかかれるものではない。なんというか、火ばっかり使ってたらそのうちこういった事故になるような気はしないでもなかった。だけれども、事件が起きてから狐火をそれなりに使っていながら延焼を起こしていなかったから、まあ大丈夫なんじゃないかって思ってたんです。
人間の恨みを直接買うようなことはなかったし、ガス漏れでもしたんじゃないかと思ってもらえたようなので、資源がある程度失われてしまったこと以外は問題ないだろう。ある程度野次馬のようにその様子を見届け、一応それ以上の延焼がないことを確認すると、残ったクモが倒しに向かうことにした。
あいつらはこの炎に釣られてこなかったようだ。
紙式神を回収しに向かい、不意打ちをするようにクモを倒す。4匹までは紙式神を囮にしつつ、背後から不意打ちで焼き払えば問題なく滅することができた。数で有利ならば問題なく滅することができるか。
「む、」
最後の1匹の居場所……まあ直接は分からないので、紙式神を頼りに向かうのだが、その最中で2体とも同時に破壊されてしまった。深追いするのもまずいかと思ったが、紙式神を2体纏めて倒せるようなクモは対策を取っておかなければならないだろう、と考えて向かう。
闇はすっかり深まってきたが、狐の目ならば十分に状況を把握することができる。紙式神が破壊された場所に到達したところで……クモはいなかった。破壊された式神が放置されているだけだった。
不安要素を残しつつも、そろそろ戻らないと到達時には日付を超えてしまうと考えて、そのまま急いで帰ることにした。
説明が分かりにくいようでしたらツイッターや感想の方で意見もらえたら助かります。