おきつねさまサバイバル。ゾンビパニック編 Part9
あけましておめでとうございます。40日ぶりの投稿です。いろいろ読んでいたり遊んでいたりだと、あっという間に時間が過ぎてしまいます。今年は投稿数を戻したいです
怪我をしていた猫がいたので、包帯と水を貸し与えて傷口を洗い、手当としておく。
蓄えが十分にあれば問題なかったのだが、蛇はそのあたりも抜かりなく盗んでいっていたようだ。私や他の狐が確保していた分、それと今回猫が確保してきたいくらかの薬品くらいだった。
結構少ないものではあるが、さすがに怪我をしている相手を前にケチるものではない。貸し与えている、ということにすれば問題はないだろう。
もともと約束していた日付までは経っていないが、猫達は新しい住処を見つけた。ここから少し離れている場所にある廃墟になりかけのアパートだそうだ。一往復で子猫達全てを守りながら移動するのはこのままでは難しいとのことで、帰還した彼らは休憩をはさんだ後に、護衛の為の式神を数体用意し、それが完了次第に向こうへと移動するようだ。紙式神ならばそれほど負担にもならず作ることができるだろう。大きな消費ではないのでこちらから紙式神を貸与してもいいのだが、種族の違う式神だとそのまま敵対してしまう可能性がなくもない。和紙程度の支援なら大した消費にもならない。此方の方は無償で与えておく。
滞在中に消費した食料や今使った包帯などは、今日から10日後までに返してもらうという形になった。それだけの時間があれば、十分な量を集めるか、収穫することは難しいことではないはずだ。
この隠れ家の現状としては、生活していくには問題ないが、細かいところで不便が目立つ。洗濯や下水の為には水交を使えばいいが、飲料や農作業用には人間の管理している水か、あるいは敷地内の河川の水を浄水して使う必要がある。
死霊毒である菌が結界内部に入り込んでくることはさすがにないが、少なくともそのまま飲んだりすれば腹を下す可能性はある。浄化そのものは手間ではないが、一度に掛けられる量にも限りがある。そのあたりは私が出向いてまでする必要も無いので、子狐達の訓練も兼ねてやらせておけば問題ないだろう。妖力を使わせることで、訓練の代わりにもなる。万一があった時の為に、術の使い方を覚えておく方が良い。私は教えるのがあまりうまいとは言えないので、子狐3人に対して管を1人付けておく。この数ならば奴らの睡眠時間を削るようなことにはならないはず。
さて、女学生2人との面談、と行こうか。
「まず大前提として、ここに留まるか、それとも他の人間の生存集落を探すか、だな。ここから出ていく場合には、ここで見たことは基本的に他言禁止……例外として、この場所を知っている人間には伝えられる」
あのいけ好かない預言者の子孫くらいしか場所は知らないはず。あとは【奥】に使われている人間くらいか。それと、猫又以外の他種族への他言も禁じておく必要がある。
「ここを出ていかない場合には、何かしらの労働を対価に。炊事洗濯農作業、まあなんでも好きなものを選んでくれ」
狐の数を考えればいずれも重労働になるだろうが、この小娘2人だけしかそれをしないわけではない。手はらあっても足りないのだ。
「えっと、私達はしばらくの間、ここに残ろうかと考えています。その先にここを出ていくかどうかは全く未定なんですけど」
髪の短いほうが、おずおずと言った感じにそう言う。なんというか、小動物と言った感じの仕草であり、このまま外に放り出したらもうそのまま他の獣に狩られてしまいそうだ。なんなら、ゾンビや妖獣どころか普通のイエイヌにすら負けそうである。
まあ、だからといって積極的に保護するつもりはない。本人達の考え次第である。協力関係を作ることがあったとしても、線引きは決めておかなければいけない。
現状としては出ていかないという選択肢は正しいモノだろう。外の動く死体達の対処も考えなければならない。積極的な保護はしないと言っても、外に追い出して死体を2匹増やすような真似はするつもりはないが。
成り行きとはいえ一度助けたものを放り出すつもりもない。意図的に迷惑をかけられるようならばその限りでもないのだが、作業のミスはあってもわざと妨害工作をするようなことはないだろう。
「それで、えっと。2人で農作業と食事の準備の手伝いをするつもりです。それから、そちらで使う予定がないならですが、発電機の方も使わせていただけたら助かります」
2人は、庭の一角に置かれたそれに関して言及する。此方では使用できる者が少ないし、使えるような道具も殆どない。使い方を把握している者に任せたほうが良いだろう。
「あと、それからもういっこ……お願いがあるのですが、良いですか?」
「叶えられるかどうかは別にして、とりあえず言ってみてくれ」
この時の2人の願いは当然のものだったかもしれないが、少なくとも私にとっては予想外だった。人が使うこともできる、というのが意識の外に出ていたからだ。
「私達に、狐さん達が使っている魔法を教えてください」
魔法ではなくて妖術なのだが、それに関してはあとからいろいろ確認するとしよう。
「あー、できなくはない。ないが、想像しているほど便利なモノではないぞ。簡単に言うと、道具の代わりに体力を使うような感じだ。基本的に原始的な状態にある人や種族が、科学文明に近づこうとして作られたものだ」
妖力などの適性を見るために、2人に手を伸ばしこちらの方を握らせる。
「それと、想像しているようなわかりやすい【消費量】だとかはない。指先に明かりを灯すだけでも死にかけるほどの体力を使う者もいれば、世界を滅ぼすほどの炎を起こしても余裕がある者だっているだろう」
まあ、現代どころか私の現役時代にだってそんな怪物じみた人間は存在しなかったはずであるが。人間の神話に語られるような存在も、さすがにそこまでではない。
ただ、そういった説明に引用されるという事は、それほどまでの力を持っていた存在がいるかもしれないという事なのだろうか。人外か人間かは分からないが。
説明をしつつ、妖力を響かせる。
「なるほど、こういう事もあるのか……」
思わず声に漏れてしまう。現代日本人としては異様と言って良い程に、霊力を蓄えていた。
専門ではないのだが、片手間に教える程度ならば充分だろう。ただ、
「こちらも時間を割くこと、対価なしに教えることは難しいな」
迅速に何か行動しなければならないという状況ではないのだが、それでも手は多いほうが良い。片手間に教えるならば私の個別の時間が減ってしまうだろうし、本腰を入れるならば子狐達にも纏めて教えてやったほうが効率が良くなる。そうするならば、私にせよ他の狐にせよ、いくらかの労力を使う必要がある。
とはいっても、子猫達の教育に関して手を割こうかと考えていた手前、大きな労力は必要とはしない。そのまま組んでいた予定を流用できる。それでも知識を提供するので、対価として労力や手間を請け負ってもらう必要がある。
「術がある程度使えるようになってからで構わない、とある一団を探してほしい」
私はそう切り出した。さらに具体的に言うならば、預言者の子孫達の救出。
「それから、ゾンビ達に対して【除霊】をしていって欲しい」
病毒が死霊術であるならば、強い霊力での【除霊】と【浄化】がかなり効果的であるはずだ。
死霊術の性質がある以上、病毒を【浄化】したところで汚染された魂は去らないだろう。
病毒である以上、【除霊】をかけたところで感染した病毒から新たな魂が流れ込んでくるだろう。
両方を同時に行使してやる必要がある。
この手の術を複数同時に行使するのはかなり難易度が高い。私の場合は、妖術と式神ならば問題なく行えるが、他の術に関しては同時発動することができない。
この娘たち、2人とも霊力が大きく規模も同程度。『あわせ』で術を発動させれば、ゾンビ達の問題も解決できるだろう。管狐達が霊術を使えれば頼る必要がなかったかもしれないが、彼らは霊力を殆ど持たないため、除霊、浄化活動に関しては期待できない。子狐の方にもいくらか霊力持ちがいたはずだが、この状況では【成長】を終えるまでは期待することはできない。この状況で成長が止まる子狐もいなくはないので、そちら全てを先の戦力として考えるのは少し危険。
雄狐は討伐よりも、食料や日用品の補給が主だった作業、それのついでにやらせるならばともかくとして、そちらをメインにするわけにもいかない。そういった行動の場合、『あわせ』るために霊力が同じくらいの人員で編成する必要があるが、その場合は戦力が偏ってしまうだろう。最低2人1組で行動することになるため、活動効率も非常によろしくないものになるだろう。
割ける手と言うのは結構少ないものなのだ。
授業の対価として支払ってもらうのは、近い将来の労働力。1週間で使い物になればいいのだが、そういった術等になれていない現代人、時間に関しては多少かかっても気にすることはない。
「頼んだ救助以外では、遠出をしてまで浄化と除霊に出向けとは言わない。が、生き残っている人間が危険な目に合わないようにするためには、悪くない提案だと思うが」
2人の安全に関しては考慮できないが。それを加味して考えても、2人が提案を拒否することはないんじゃないだろうか。
とある一団、即ち預言者の子孫達。
生きている人間達の存在を示唆しておく。『電話』のおかげで、どのあたりの位置に退避しているかはおよそではあるが見当がついている。状況判断するに、移動している可能性は低いだろう。恐らく、守っている【何か】があるはず。
夢であいつが言っていた何かが思い出せればいいのだが……まあ、考え過ぎるのもあまり良くない。重要な事ならば、そのうちどうにかするべきなんだろうが……少なくとも現状ではどうすることもできない。
「わかりました、じゃあゾンビ退治と人捜し、それを交換条件に……術を教えてもらう、という事で大丈夫でしょうか」
「ああ、大丈夫だ。まあ今すぐにとはいかないが、子狐達と同じタイミングで学習できるように取り計らおう。午前中には労働、午後には休憩を挟みつつ授業という形になるな」
「こんな状況になっても、勉強ができるというのは……悪くないのかもしれません」
片方の娘ばかりが喋っているようだが、もう片方は……夜中に礼を言われた時にしか声を聞いていない。というか、吐息すらも殆ど聞こえない程である。力の確認をするときには手を差し出し返してくれたので、此方の事を完全に警戒しているとかそういったことではないようだが……人間の心理はよくわからない。夜中に声を出していたので、失語という訳ではないだろいし。
喋るつもりがないのなら無理に喋らせるという必要も無い。呼び名がないと不便、という事もない。現状人間の娘はこの2人しかいないし、違う方が来たらもう片方がどこにいるか聞けば良い。
話し合える状況は大事ではあるが、何よりも優先しないといけない、という訳ではない。私とは話しにくいことがあるかもしれないが、当人同士、あるいは子狐達となら話しやすいかもしれない。
この選択が悪くなければいいのだが。
誤字報告等お待ちしております。




