ボール当て(後半)
ボール当ての後半です。
〜〜レオン視点〜〜
「よ〜い、ドン!」
ラックの合図でお互いのチームが一斉に振り返り、後ろに置いてあるボール目掛けて走り出した。ボールを置いてある場所に到着すると、ボクは2個だけボールを持って、すぐに木の箱の上に乗ってラックチームの動きを確認した。
ラックチームの動きは速い。チームリーダーであるラックが、ボクとの長期戦を避けようとするため、必然的に走り回って一気に勝負を決める作戦が多いから、日に日に足が速くなっているんだと思う。
ラックチームのメンバーがどう動いたのかほとんど見えなかったけど、今日新しく参加した子が、ボクから見て左に動いたのは確認出来た。初参加の子に難しい作戦はさせないはずだ。
小さい子が左に移動したことと、誰もすぐに攻めてこないことから、おそらく左に主力を集めているだろう。一人一人を自由に攻めさせるのではなく、左右どちらかに偏らせる作戦であり、今回は左に人数を集めている可能性が高い。
ラックは本命ではない方に足の速い人を集めて、ボクのチームの混乱を狙うことが多い。初めてその作戦をやられた時は、全体の指示が間に合わずに混乱して、ボクのチームはほとんど一方的に負けた。
普段はラック1人で勝っているような状況だからか、あの時はラックのチームメンバー全員が心から喜んでいた。久しぶりに自分たちの力で勝てたと実感できたんだろう。その気持ちがラックにも分かるため、それ以来ラックチームはこの作戦を取ることが多くなったように思う。
つまり、初めて参加した子がいるという状況では、ラックはこれまでと同じ作戦を取るとボクはあらかじめ考えていた。そしてその予想は当たっていたようだ。
(後は、落ち着いて対処すれば問題ないかな…)
右側ではラックチームの足の速いメンバーが撹乱を狙うが、ホリックとベルがいるから問題ない。2人の他にあと3人配置したから盤石の体制だ。5人とも随分と慣れたもので、すぐにボールを当てることができるだろう。
ボクは左側にも5人配置した。そうするとボクと盾を持った子以外の残り4人いるけど、その4人はボクの立っている木の箱の後ろに待機してもらっていた。
左右どちらかが陽動に動くと予想し、本命の逆方向にすぐに移動できるよう、ボクの近くにいてもらった。もちろん、新しく参加してくれた子もここにいる。今は小さな声で、みんなから遊びのやり方と作戦について何度も聞いている。
今回は右側が陽動であったため、右側からホリックとベル以外の3人がボクのところまで戻ってきたら、作戦開始だ。
左側が何人残っているかはわからないが、ニックスかハンナさえいれば、囮として機能するはず。ラックチームが囮に気を取られている隙に、7人が周りを囲ってたくさんのボールを投げて一網打尽だ。
「俺は動く!」
ラックのこの言葉を聞いたレオンチームは、左側にいるラックチームメンバーを一網打尽にするべく動き出した。
〜〜ラック視点〜〜
「作戦通りってことか?」
「そうだね。今回は新しい子がいたから変わった作戦を取れないと思ったし、予想しやすかったかな」
「そうか…」
確かにいつも通り過ぎたのかもな。かといって、子供達ができて、尚且つレオンチームを出し抜けるような作戦って中々思いつかないんだよな…。
反省は後だな。俺だけじゃすぐ思いつかないから、みんなで考えることにしよう。
「ラックにいちゃん。囲まれてるよ…。」
「どうすれば良い…?」
こんなに綺麗に囲まれるのは久しぶりだからか怖がってるな…。申し訳ないことをした。
「まぁ、2人には難しいな。全部俺のせいだし、後はもう思いっきり楽しんでくれ!」
「「・・・?」」
あれ、あんまり伝わってないか?
「当たってもしょうがないから、当たるまで、1人でも多くボールを当てるんだ。できるか?」
「「・・・わかった!」」
2人はレオンチームに向かって走り出した。
よしよし。これは遊びなんだし、楽しまないとな。
「ホリック、ベル、ハンナはラックから目を離さないで! それ以外は、落ち着いて2人にボールを当てて!」
「「「はーい!」」」
レオンがすぐに指示を出す。容赦ない。
2人はあっという間にボールを当てられてしまった。
「これでラック1人だね」
「そうだな」
俺のチームはすでに俺1人、対するレオンチームは12人もいる。それでも、レオンに油断は無い。今までこういう状況は何度もあり、全て俺が勝利しているからだ。
さすがの俺も、この人数差に余裕があるわけではないので、集中しよう。
魔力を持つ身体になって一番変わったことといえば、魔力を感じることができるようになったことだろう。魔球当てでは魔力を感知しないよう意識している。もし感知しようとすれば、魔球も人も魔力があるため、どこに魔球があるのか、人が隠れているのか全て分かってしまうので、それではつまらない。
だが、今は状況が状況だ。魔球を全て躱すだけでも、目で見て判断するのではギリギリ過ぎる。なので、魔力感知を使わせてもらう。
「残りはラック1人だ! みんな近づかないように、その場でどんどん魔球を投げて!」
「「「 おー! 」」」
いつの間にか後ろにまで回り込まれていたらしい。全方向から魔球が飛んでくる。だがまぁ、魔球のサイズは決まっている。魔力感知によって、誰がいつ投げて来るのか、投げた魔球の軌道も全て把握できているため、その場から大きく動くこともなく躱すことができている。
「今度は俺の番だ!」
俺は飛んできたボールをキャッチして、そのまま後ろにいた子に向かって投げた。後ろにいた子はちょうどボールを投げたタイミングだったため、避けることができず、そのまま俺のボールに当たった。
(よし、まずは1人)
この後も、ボールをキャッチしては投げて、1人、また1人と数を減らすことに成功していった。
レオンチームが残り7人となったところで、レオンが仕掛けてきた。
(レオンが後ろに下がった?)
すでに、俺を囲んでいるのは6人だけになっており、その状況からレオンが後ろに下がるのは変だ。そもそもレオンの後ろに1人がずっと動き回っていたのが気になる。
(何か来る…?)
そう思った次の瞬間、レオンのいる場所から、一気に魔球の反応が現れた。
「せーの!」
掛け声とともに、レオンと新規参加の女の子が、俺に向かうように100個の魔球を空に放り投げた。まるで弾幕だ。
「魔力が抜けた魔球を集めていたな!」
「そうだよ! 萎んだ魔球なら魔力は無いからね。ラックでも感知できないでしょ!」
「ああ、その通りだよ!」
純粋な魔力による感知では、魔力が無いものを感知することはできない。そのことを利用した作戦をレオンは立ててきたのだ。
上空にはすでに、100個のボールが落ちてきている。それに加えて、今尚俺を囲んでいる5人からボールを投げ続けられている。このままだと逃げ場が無いな。
新規参加の女の子は気の箱の後ろに隠れてしまい、レオンは盾を手にしている。盾は木の箱の後ろに置いておいたのだろう。これでは、ボールが落ちて来る前に、この場からレオンチーム全員にボールを当てることはできない。
これじゃ、どうしようもないな。
(魔力感知だけで今まで勝てていたのだが、諦めよう)
俺は両手に魔力を集中させる。
魔力感知は弱まるが、初めより人数は半分になっているため、すでに目で見るだけで躱すことができるレベルだ。問題はない。
上空のボールをもう一度見る。今はただ自由落下しているだけだ。どのボールがどこに落ちて来るのかは分かった。
あとは俺に当たる可能性のあるボールを、全て吹き飛ばすだけだ。
俺は両腕を上に上げ、両手に込めた魔力を解放する。その瞬間、上空のボールの半分程度吹き飛んだ。その結果俺にボールは当たらなかった。
「・・・ねぇ、ラック。今のは魔力を使ったんだよね?」
「ああ。ただ魔力を飛ばしただけの、魔力波だよ」
「さっきまで魔力感知してて、魔力込めてなかったよね? 魔力を込めるの早すぎだよ…。」
「レオンだってこんなもんだろ?」
「そんなことないよ。ボクはもう少し時間かかるよ」
そうなのか。まあ俺はレオンより長い時間魔力使ってるからな。レオンもすぐできるようになるだろう。
今回のレオンの作戦は今ので最後だったみたいで、後は俺が一人一人ボールを当てていった。
また今回も俺の一人勝ちになってしまったな。
この後はみんなで作戦を見直そうかな。
ここまで読んで頂きありがとうございます。