武道家の最後
完全に見切り発車ですが、ネタが尽きるまでがんばりたいと思います。
初投稿なので至らない点が多々あるとは思いますが、温かい目で見てもらえると嬉しいです。
ここは、とある世界の一番大きな王国だ。その王城の広間に俺を含め数人の人間が集まっていた。集まっている理由は、魔法により国が滅びるほどの緊急事態であることがわかったからだ。
「・・・・・・本当に魔法でどうにかならないのか?」
そんな重苦しい空気の中で,王は小さな声で質問した。誰に対しての質問かは言わなくてもわかる。
「他に方法はありません。何度もお伝えした通り、1時間後に王都に直撃するであろう"隕石"を防ぐことはできません。我々の魔法では隕石をどうにかするにはとても威力が足りませんので。誠に申し訳ありません。」
「そう…だったな。いや、こちらこそ何度も聞いてすまない。」
王の質問に答えたのはこの国最高の魔法使いであり、宮廷魔法師のトップを30年勤めている初老の男だ。王も長年仕えている男を疑っているわけではないのだが、不安を紛らわすために無意識に質問しているのだろう。このようなやりとりも、もう何度目かはわからない。
「安心してくださいよ、国王。そのために俺がいるんですから。」
「「「・・・・・・」」」
空気を変えようと俺がそう言うと、またより一層重い空気になってしまった。言葉を間違えてしまったか?だがまぁ、落ち込んだってしょうがないし、俺だけでも明るく振舞うべきだよな。
「隕石については魔法でかなり詳しいことが分かってる。このまま王都に直撃する場合大きさは、この王城と同程度の大きさで、それだとこの国にある魔法では防ぐことはできない。けど、俺が隕石をある程度バラバラにすればこの国の魔法でも対処できるってな。」
「しかしそれでは…」
「それも何度も話したろ?俺はこの国に、王様,あんたに感謝してるんだ。魔力のなかった俺を大切にしてくれて、国のみんなも優しくて。そんなみんなのために死ぬことになるなら本望だよ。」
そう、俺は死ぬのだ。みんなが重苦しい空気をしているのは隕石が落ちてくることではなく、俺が死ぬことに対してだ。俺が隕石の処理を失敗するとは誰も思っていない。だからこそ俺は嬉しいと思っている。俺のために悲しんでくれているのだ。その気持ちがわかるから、俺は嬉しくてつい笑みがこぼれてしまう。
そんなみんなを守るために死ぬのだ。今以上にふさわしい死に場所もないだろう。
俺は魔力を持っていなかった。
魔力を持っていない人間はそれなりにいるが、百万人に一人といわれているほど数は少ない。そんな世の中だから当然魔力を前提とした形で国が成り立っていた。そのため小さい頃は散々苦労した。
例えば、一般的に水が欲しければ魔法で作れば良い。水を生み出す専用の魔道具が安価に製造され普及しているので、その魔道具に魔力を少し流すだけで水が手に入る。
もちろん俺には使うことができなかった。だから親や友達に何度もお願いする羽目になっていた。火を扱うときや、風を出して服や髪の毛を乾かす時なんかも俺は自分ではできなかった。
幸い俺の周りにいた人はみんな俺に優しかった。俺が頼めば魔道具を動かしてくれて、断られた記憶はほとんどない。むしろ、必死になって助けようとしていたと思う。
だからだろうな、俺はその環境がいやだった。
周りから優しくされるのが当たり前で、それは赤ちゃんに対しての行為に思えてしまっていた。物心ついた頃は気にしていなかったが、十歳を過ぎた辺りから、いつまでも子供以下の扱いをされていることに不満を募らせていた。今思えば、なんて贅沢な悩みなんだろうな。
だから俺は武道家を目指した。
これまでの歴史上、魔力を持たない人が魔力を持つ人と対等の関係になったというのは、所謂天才と呼ばれるほど頭の良い人か、国の外に生息している魔獣に、体一つで対抗できるような凄腕の武道家の二種類らしい。勉強は嫌いじゃないが、俺はどちらかといえば体を動かす方が好きだから武道家を選んだんだ。それに武道家なら、自分でできることの幅が広がるはずだしな。
それから武者修行を行って、三十歳になった今ではこの国最強の男と呼ばれるようになったわけだ。
まぁ少々鍛え過ぎたみたいで、この国の宮廷魔法師百人相手に無傷で勝ったり、空にいたドラゴンを一撃で仕留めたりしたからな。この国最強だと俺自身も思ってる。
さて、そんな俺が死ぬような作戦だが、内容はシンプルだ。
隕石が目視できるところまで来たら、跳んで殴ってぶっ壊す!
以上。
え?
雑過ぎないかって?
そんなこと言われても俺にはそれしかできないからな。そういえば、隕石を受け止める案もあったっけ。でもその案は隕石が飛来する余波だけで王都が壊滅するから却下になったんだ。だからこれしかない。
強いて言うなら、俺が壊した後の隕石の破片は宮廷魔法師たちがうまく破壊したり、受け止めたりすることになっている。
「じゃそろそろ準備しようか」
「ああ、そうだな。部下達にも手順の最終確認をやらせよう」
俺がそう言うと、宮廷魔法師のトップの男が真面目に返事を返して来た。一番冷静なのはこの爺さんだな。
あ、今睨まれた。白髪が目立って来てるんだから爺さんで間違いないだろうに。
それにしても、顔に出したつもりはなかったんだが、魔法で心でも読んでたのか?防ぐ術が無いから考えていることがダダ漏れなんだよな。こわいこわい。
そんなことを考えながら、全員で城の外の広場まで移動を始めた。
「さて、じゃあ行ってくるか!」
隕石が目視できるようになるまで、一分を切ったところで俺が宣言した。
「お主の失敗を疑ってはいない。余のため、この国のため、そして多くの国民のために命を燃やすこと、誠に感謝する。」
「こちらこそ、今まで世話になった。感謝する。」
王様はやっぱり王様だな。さっきまでの頼りなくて悲しい雰囲気は微塵も感じさせない、堂々としていて荘厳な空気を纏っている。
「私もお前の失敗は計算には入れていない。お前が隕石を砕いた後のことは任せろ。・・・・・・今まで楽しかった」
「ああ、俺も楽しかったぜ!」
爺さんも話しかけて来たが、内容が意外だったな。素直に気持ちを言葉にするタイプじゃないはずなんだが。
あぁ、そうか。本当は泣きそうなのを無理して隠してたんだな。さっきの言葉を口にしたせいか、肩が少し震えている。
素直じゃないなぁ。そんなの見せられたら、俺も泣きそうになるだろ。いやすでに泣いてるわこれ。
いけないな。俺がこんなんじゃ作戦が失敗しかねない。俺は涙を拭って一度深呼吸した。
(よし、大丈夫だ。)
気持ちは落ち着いた。今一度この場にいる全員の顔を見る。お互いに目が合うが、言葉は不要。最後に王と目を合わせお互い無言で頷いた。
そして俺は、空に王都めがけて落ちて来ている隕石を壊すべく集中する。
「隕石確認しました!推測通り三時の方向からおよそ60度の角度でまっすぐ向かって来ています!」
情報担当の者がそう告げると、俺は目を開きその方向を見据える。
「・・・・・・見えた」
俺は無事に隕石を確認すると、全力で跳んだ。
「いっくぜ〜〜!」
王都から見て隕石のど真ん中、なるべく細かく砕けるような場所を見極めて全力で殴る。その拳と隕石の衝突は、跳んだ勢いも合わせて、とてつもない衝撃となった。
この瞬間、王都は凄まじい轟音と光に包まれた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。