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十一話 皇族に歯向かう事の意味。


「それにしてもさ…… メリアって凄い大人な定食頼むよな……」


 広く美しい天井が特徴の学院食堂。

 初等から高等までの様々な等級の生徒たちで賑わう食堂で、とりあえず開いている席に座って皆で各々好きなランチを楽しんでいる中、ふと気が付いた様にケンタが呟いた。


 ケンタの呟きに反応して、ジェリーヌは私が食べている鯖の味噌煮定食を見て言う。

 

「確かに、メリア様っていつも鯖の味噌煮定食ですよね…… 鯖の味噌煮、私には未だ早かったです」

 

 そう言いながらジェリーヌは、自身が頼んだ洋風キッズランチBセットを見た。

 パンとスープ、ハンバーグに野菜が少々乗った洋風キッズランチBセットは、初等学生の間では人気のメニューだ。

 実際、ケンタとヨシヒコも同じ洋風キッズランチBセットで、初等学生の人気がうかがえる。

 そんな中、ケンは私と同様に他の定食を選んだ為か、どこか図に乗った態度で洋風キッズランチBセットを頼んだ三人を見渡す。

 

「分かって無いなー!洋風キッズランチBセットなんてダメダメ!やっぱ最強は唐揚げ定食!」


 そう言いながらドヤ顔で三人を見みるケン。

 その様子に、三人はなんだか悔しそうな雰囲気だ。

 仕方ない、この三人の為に私がケンの上に立ってやろう。


「唐揚げ定食は胃に来るわー。実際、コレステロールの塊みたいな料理だし、やっぱり最強は魚料理よね。DHAとEPA万歳よ」


 手をヒラヒラさせて煽る様に言う私に、ぐぬぬとケンは悔しそうなご様子。

 大人な料理な上に、無駄に専門用語を出して完全勝利! 勝利の余韻はこんなにも気持ちいものか……

 そんな私達の様子にジェリーヌは微笑する。


「そんなに張り合わなくても、私から見たらお二人とも大人びてますよ」


 そんなジェリーヌの言葉に、私とケンは顔を見合わせた。

 いい感じに勝ち誇っていたが、そのジェリーヌの佇まいはどう見ても大人で、なんだか毒を抜かれた様な気分だ。

 私とケンは毒を抜かれた様に静かに黙々と定食を食べ始める。

 そんな様子を見ながらヨシヒコは自身の洋風キッズランチBセットを食べていたが、ふと何かに気が付いた様に私たちの席の近くを見つめだす。

 黙々と定食を食べていた私達だったが、ヨシヒコの様子に気が付き、ヨシヒコの視線を追った。


「ああ…… またか……」


 ケンのそんな言葉と共に、うんざりした雰囲気が私たちを全体を包みこんだ。

 二人の取り巻きを連れた女子。

 金髪縦ロールでおなじみのナナミ・キサラギだ。


「あら~、こんにちは底辺の皆さん方~。相変わらずの底辺で皆さん馴れ合っちゃってー…… 楽しそうで何よりですわ」 


 開口一番のセリフがこれだ。

 ホントにその場でこんなセリフが言えてるなら、天職を演劇や小説に変えた方がいいのでは?と思ってしまう。

 ナナミ・キサラギは私の感想など露知らずに私を見る。


「ところで…… あなたファーストネームが無いのですって? 不思議な家系なのですねー。名乗る家が無いのかしら?」


 そう言いながら蔑んだ瞳で私をみるナナミ・キサラギ。

 遂に私個人にも飛び火したか…… 今までは多めに見てたけど、私に飛び火するのは不味い。

 なにが不味いって、ナナミ・キサラギ彼女自身の為にも不味い。

 此処は一つ忠告して置いた方がいいね…… 

 そう思ったら即行動。

 私は彼女を鋭い視線で見つめ、言った。


「キサラギさん…… それはやめておきなさい」


 突然の私の発言に驚いた様子のナナミ・キサラギ。

 

「な、何がです? 嫌な事聞かれて心外ですって?」


 私の急変した態度に焦りながらも、自身の態度を変えようとしない。

 そんな様子に私は少し焦りを覚える。

 このナナミ・キサラギと言う公爵令嬢は、もしかしなくても令嬢としての知識面は疎いのかもしれないと。

 ファミリーネームが無い、つまりは皇族。

 さて、気づいてくれるか…… 


「貴女…… 公爵令嬢よね?」

「そ、その通りですわ!なんたってキサラギ家の……」

「だったら!」

「!」


 ナナミ・キサラギの言葉を比較的大きな言葉で遮る。

 驚いて言葉を止める彼女に、数泊の間をおいてから、意味が通ってくれと祈りつつ彼女に言葉を送った。


「だったら…… 公爵令嬢なら、ファミリーネームが無い相手を侮辱する意味、知ってるよね……?」


 私の言葉に暫く黙っていた彼女だったが、次第に何かに気が付いた表情になる。


「え…… うそ……」


 信じられないと言う表情で私を見るナナミ・キサラギ。

 そんな彼女の様子に、流石にそこまで馬鹿じゃなかったか、と内心安堵してしまう。


「うそよね……? だって、爺やもお父様もお母様も、何も言ってなかった……」

「流石に一言や二言何か言ってるんじゃないの?同じクラスなんだから」

「……あ」


 そう言って、何かを察したナナミ・キサラギ。

 彼女だけじゃなく、取り巻きの二人も気が付いた様だ。

 公爵令嬢の取り巻きしてるからこそ、それなりに教養は有るのだろう。


 固まる彼女達の様子を見て、少し意地悪したくなってきた私。

 だって、仕方ないよね?

 私達五人は、このナナミ・キサラギとその取り巻きの言動には嫌と言う程には鬱憤を貯めてきたのだから。

 

「ところで…… 貴女、さっき私に何て言ったっけ? 「名乗る家が無い」だっけ?」


 私の言葉に彼女達三人は氷の様に動かなくなった。

 そんな彼女達に追い打ちをかける。


「他にも、毎日の様に私に何か言っていた気がするのだけど…… 底辺、だとか……」

「あ……」

「品格が低い、だとか」

「う……」

「低い家柄とかも言ってたっけ?」

「ああ……」


 顔どころか、全身真っ青なナナミ・キサラギ。

 今にも死んでしまいそうな程真っ青な彼女を見ていると、ちょっと楽しいと思う自分がいた。


「そういえば、貴族社会の断罪って知ってる?言ってみて」


 私に疑問を投げかけられて、今にも死にそうな表情の彼女。

 精一杯言葉を振り絞った様子で私に答える。


「階級降下…… です……」

「そうよね…… その通りよね」


 満足気に頷く私に、この世の終わりの様な表情の三人。


「い、嫌だ……」


 そんな事をつぶやく彼女に、没落よりもっとツラい現実をみせびらかしたくなってきた。

 どんなのがあるのかって? 

 この世界、それなりに文明が栄えているが、未だに存在してる古典的な刑罰があるのですよ……

 この話出したら、どんな反応するのだろうね!  

 

「あら? 階級降下は貴族間での刑罰ですよ?」

「……え?」


 私の指摘にそんな声を出すナナミ・キサラギ。

 微笑む私を怯えた表情で見ている。

 さて……


「ところで…… 侮辱罪の基本刑ってご存じ?」

「……!?」


 この世の終わりと言った表情が、途端に一面恐怖に塗り替えられ、腰を抜かして後ろに尻もちをつく。


「ヒィィ!! 嫌ァ!!」


 今まで散々私達に罵詈雑言を吐いてきた件の少女。そんな少女は、今私の前で恐怖と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、


「許じでぇ…… 許じでくだざいぃ……」


 と命乞いをしていた。

 少女の様子を見て、それなりの満足感が得られた私は侮辱罪と言う物を思い出す。


 侮辱罪。それは、世界を統べる皇族への侮辱行為を断罪する法律だ。

 大昔から存在し、皇族が突如消えた時代から現代まで、ずっと消滅せずに存在して運用する準備もされていた刑罰。

 そんな侮辱罪の現在の基本刑は、単純明快。

 その名も『火刑』

 みんなご存知、火あぶりの刑である。

 火あぶり処刑は数百年間変わらず存在し、世界帝国の首都の中心に存在する公開火刑場は今も現役でメンテナンスされていて、現在でも皇族の権力の象徴なのだ。


 どれだけ好き放題やってきた公爵令嬢でも、そんな火あぶり処刑は知っているらしい。

 

「いままで好き放題やってきたみたいだけど、相手は選んだ方が…… あれ?」


 先程まで元気に命乞いをしていたナナミ・キサラギは食堂の床に倒れ込み、動かなくなってしまった。


「ふむ…… これが俗にいうやりすぎたって奴かな?」

「いや、俗に言わなくてもやりすぎだろ……」

「侮辱罪の話を出すのは流石に可哀そうです……」


 まさかやりすぎたのだろうかと思い五人に聞いてみたが、ケンとジェリーヌから見ても今のはやり過ぎらしい。

 さてさて、どうしようか。

 気が付いたら取り巻きの二人も完全に腰が抜けている。

 困ったなー。

 どう収集つけたらいいんだ?これ。

 いつの間にか食堂は静かになり、私たちを見ている。


「とりあえず、この三人の処遇を言ってくれ。無罪放免か、火刑か」

「「ヒィ!」」


 そんな注目を浴びる中、ケンは私に彼女達の処遇を聞いてきた。

 取り巻き少女たちが恐怖に顔を歪める。

 そんな様子を見ながら、冗談でも火刑!と言える雰囲気でもなく……


「……そら無罪よ」

「だろうと思った。これで、正式にこいつらは命拾いしたわけだ」


 ケンの言葉に食堂の皆は肩をなでおろしている。

 正直、今の今まで自分が皇族と言う実感が余り無かったが、今現在初めて実感した。

 やろうと思えば、私の一存で目の前の少女を火刑台に送る事もできたわけだ。

 そんな事実に少し目を背けたくなる。まあ、背けても現実は変わらないのだけど。

 

 私の言葉を聞いたケンは、ナナミ・キサラギを脇に抱える。


「じゃあ、保健室連れて行くぞ」

「分かった」

「手伝うよ」


 男子三人組は女子を一人ずつを抱え、


「メリアも来た方がいいぞ。多分な」


 ケンは私にそう言う。


「そうだね……」


 そんなケンの言葉に私は頷きながら、三人の後ろをついていくのだった。



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