十話 子供が嫌いな大人。
学院の入学式から一週間が経ち、授業にも大分慣れてきた。
目の前の黒板の前で教鞭を振るう世界史の先生は、大分高圧的な態度で授業をしている。
この世界には、人の上に立つ仕事は皆高圧的でないといけないっていう法律でもあるんかな?
世界史の授業をしているはずが、何故か軍隊のブートキャンプをしている気分だよ……
「ここ重要だからな! 世界史に置いて、一番初めに誕生した人間の名前だからな!」
先生はそう言いながら、神話に置いて一番初めに誕生した人間の名前を繰り返す。
神話の話が世界史の始まりと言う、前世の私なら「他所でやって、どうぞ」って言いそうな事を生徒の皆は真剣に聞いている。
流石、神様が感じれる世界。
空から滝が流れたり、海が割れたり、地面から突然町が出来たりと、突拍子も無い展開のオンパレードなのに、誰も疑問に思わない。
私は単位に響くから、一応聞いているレベル。
ぶっちゃけ、授業の内容の重要な部分だけがビックリする程にスラスラと頭の中に入ってくるんだよね。
私の頭って、こんなパソコンみたいな性能してたっけ……?
まるで、人間ハードディスクと言わんばかりの性能だよ……
そんなブートキャンプじみた授業は四時限目終了の鐘で幕を閉じた。
終了するや否や、さっさと帰って行く世界史の先生を見送るクラスのキッズ達。
あの先生、ホント心底子供が嫌いなんだろうなー…… なんで初等の先生なんかやってるんだろ?
そんなに初等のキッズ共が嫌いなら、中等とか高等の先生すればいいのに……
実際、ツンツン頭の少年ケンタも、あの先生にご不満な様だ。
「何か凄い嫌な感じだよなー…… あの先生」
「確かに。あれは厳しいじゃなくて、何か別の雰囲気を感じるよな」
ケンタの言葉に長身眼鏡の少年ケンも同じ印象を持っている様で、頷きながら感想を述べている。
二人の疑問に何も考えず、私は思ったことを口にした。
「単純に低年齢の子供が嫌いなだけでしょ」
「子供が嫌いな大人って居るの?初めて聞いたよ」
私の言葉に、黒髪つり目の少年ヨシヒコが私に疑問を投げかけてくる。
まあ、確かに子供からしたら、そんな子供が嫌いな大人がいるとは思わないだろうね。
「普通に居るよ。大人の半数は子供が嫌いなんじゃないかな?」
私はそうヨシヒコに言う。
実際、前世の日本社会でも子供が嫌いな大人は半数程いたと思うし、普通にこの世界でも半数は嫌いな大人が居てもおかしくない。
みんながみんな出来た大人じゃないのだ。
そんな私の言葉を横で聞いていたジェリーヌは自身の赤い瞳を少し伏せた。
「子供が嫌いな大人がそんなに沢山いるのですか……? ちょっと、怖く思いますね……」
ジェリーヌは不安そうに呟きながら、机の上の教科書を見ていた。
私はジェリーヌの様子を見て、少しこの事実は重かったかなー…… なんて思ってしまう。
子供からしたら、大人は守ってくれる存在だからね。
自分たち子供が嫌いな大人と言う存在は知りたくもないし、認めたくもないのだろうな。
「大丈夫! 心配はいらないよ! 子供が嫌いな大人は表立って「子供が嫌いです!」なんて言わないから!」
「それ、全然心配いらない要素が無いじゃん」
ジェリーヌを安心させようとした私だったが、どうやらヨシヒコ曰く子供が安心出来る要素は全然無かった様だ。
この沈んだ空気を紛らわす為にも、可及的速やかに全員を食堂に誘おうか。
「さ、さーて! 皆食堂にいこか! 腹が減っては戦は出来ぬって言うし!」
「何その言葉、初めて聞いた。てか、誰と戦するんだよ……」
私の言葉にそんな事を言うヨシヒコ。
そういや、この世界には腹が減っては戦は出来ぬのことわざは無かったね。
そんな私たちのやり取りを見ていたケンは、
「まあ、確かに大人の事を考えても仕方無いか」
と言い食堂に行くことに賛成する。
そんな皆で食堂に行く流れにケンタは、
「よーし! そうと決まれば行こうぜ! ささ、ジェリーヌさんも立って立って!」
とジェリーヌを立つように促し始めた。
ケンタに促され、少し困惑気味に苦笑いを浮かべながらも立ち上がるジェリーヌ。
先ほどの暗い雰囲気はどこへやら、私達は五人そろって食堂へ向かう。
さーて。
今日は何を頼もうかなー。
次話、ざまぁ回