スーパーハイパーウルトラミラクルフレンド
「友樹、なにそれ?」
クラスメイトの一人が、友樹が何かを書いているのを見て不思議に思い聞いてくる。
「あぁ、これか?一稀との交換日記だ。」
「え、お前ら交換日記してんの?相変わらず仲良いな、お前ら。それいつからやってんだ?」
「えっと...小学生の頃からかな。」
「長すぎだろ!...何冊目だそれ?」
「多分10冊以上だな。もう覚えてねぇ。」
「...それ、持ってる?」
「一稀が持ってる。」
「そうか...そういや友樹、一稀って小学生の頃ってどんな感じだったんだ?」
「あ〜...うん...えっとな...」
「一稀!今日から小学生だな!」
「うん...そうだね...」
友樹の服の裾を掴みながら、一稀は面白くなさそうな顔をしてそう答える。
「楽しみじゃないのか?」
「...うん...」
「大丈夫だって、ちゃんと友達出来るって!」
「...そんなこと心配してないよ。」
と言いつつも、そう言われた瞬間に裾を強く握り直した一稀を見て、友樹は優しく笑う。
「教室、一緒だといいな。」
「うん...そうだね...」
「でも勉強したくないな...遊びたい。」
「勉強しなきゃ世界で生きてけない。」
「うぅ...そーなの?」
「うん。そーなの。」
「ふ〜...やっと着いた...遠いな!」
「喋りながら歩くからだよ。」
「よし、クラス見に行こーぜ!」
友樹が走り出し、裾を掴んでいた一稀は転びそうになりながら張り出されている昇降口の前に到着し、また裾を掴み直した。
「...あ、一緒だ。」
一稀はそう言いながら服の裾を離し、友樹の隣に立つ。
「俺と一緒だと嬉しいか?」
「うん。嬉しい。」
とある日の放課後の事だった。
「一稀!野球やろうぜ!」
「え...野球...?どうして...?」
「面白そうじゃん。」
「...いいけど...」
「ほんとか!?じゃあ今日帰ったらおかーさんに絶対言えよ!」
「わかった。」
プロ野球を見るのが好きだった一稀はやはり野球の話題に食いついて来た。
その日の翌日。
「...ところでどこでやるの?」
「えっと〜...ここ!」
「えっと...チームって...友樹...一年生が入ってもいいの?」
「ここは小学生チームだぞ!」
「いやそうじゃなくて...」
「お、なんだ?野球したいのか?」
一稀がよくわからず焦っている内に、コーチと思われる人がやって来る。
「おう!」
「はっはっは、そうかそうか。ここの練習は厳しいぞー?着いてこれるかー?」
「着いていける!」
「そっちの根性は十分だが...隣の子は...どうかな?」
「...やれます。」
「ん〜、そっちもOKみたいだな。んっと...監督〜!」
「あ〜はいはい、希望者?」
監督と呼ばれた女の人がやって来る。
「一年生みたいなのですが...」
「んー...とりあえず投げ込んでみたり、打たせてみたら?」
「えっと...フォームとかは知ってるかい?」
「知らねー!」
「知ってます。」
「じゃあその子は監督がお願いします。」
「はいはーい。じゃ、その子の方はよろしくお願いしますねー。さ、こっちだよー。」
「...さて...えっと...」
「一稀です。」
「一稀...君?ポジションは?」
「...ピッチャーがいいです。」
君付けを迷われた事に少し不服そうな態度で一稀は質問に答える。
「経験でもあるのかい?只者ではなさそうな感じがするのだが。」
「...特に...ないです。」
「まぁ、とりあえず投げてみてくれよ。」
「はい。」
「いやーらすごい!これまで野球少年は何人も見てきたけど、君ほど覚えるのが早い人は初めてだね!」
「そーなの?俺ってすげー!?」
「おー、すげーすげー。」
「一稀よりか!?」
「そりゃわからんなー...」
「か、監督ぅ〜!」
友樹と監督が話していると、ヒョロヒョロとした様子のコーチが監督の元へと走ってくる。
「どうかしましたか?」
「はぁ...はぁ...や、やばい。一稀君は『本物』だ。球がおかしい。」
「もう、しょうがないですね〜。じゃあ私が行ってきますからもう一人の『本物』でも見ておいてくださいよ!」
「えぇ...この子もなんですか...?」
「一稀君。とりあえず投げてみて。」
「はい。」
一稀が小学生とは思えない球速とコントロールでボールを投げる。
「...ふぅむ...」
「ど、どうでしたか?」
「そのフォーム...プロ野球選手の混合でしょ。よく見てるね。」
「は、はい。毎日録画して、録画を見直してるんです!」
「もしかして、まとめてたりする?」
「は、はい!こ、これなんですけど...」
「...これは...!?すごい...変化球の特徴や、投げる球のパターンまでメモをしてる...!?どこまで行ったら...ってこれって...変化球...オリジナル...?」
「...そ、その...自分だけの変化球...投げて...みたいな...って...」
「ふふっ...」
「や、やっぱり、おかしいですか?」
「いやいや、そうじゃなくてやっと子供っぽいところ見れたなって思ってさ。」
「あっ...ぼ、僕やっぱり子供っぽくないですか...?」
「うん。とても一年生とは思えないね。」
「そ、そうですか...」
「でもそれはいい所でもあるんだよ。」
「えっ...本当ですか?」
「ほんとほんと、自信持とう!」
そんな会話が続き、一稀は監督と少し子供じみた話で盛り上がり、友樹はコーチの教えによって成長していた。
「はい、じゃあこの手紙をお家の人に渡してね。」
「今日はありがとうございました。」
「子供っぽくていいんだよー。」
「そ、その話は...」
「野球楽しかった!」
「おーそうかそうか!」
一稀が野球で子供っぽくなっていた。そんな一稀を見るのは初めてだ。野球に誘ってよかったな。
友樹はそう思いながら、楽しそうな一稀の隣で微笑んでいた。
一稀があのマイペースな性格になったのは小学四年生の頃の事だった。
「...友樹...その...」
「ん?どうした?」
「ぼ、僕を...野球に誘ってくれてありがとう。」
「...ぶっ...今更何言ってんだよ!」
普段そういった事を言わない一稀がそう言ったので、友樹は少し照れながらそう突っ込む。
「本当に思っているんだ。僕が友樹と青葉ちゃん以外の友達を作れたのは間違いなく、友樹のお陰だなって。」
「一稀はさ、隠しすぎなんだよ。だからよくわからなくて誰も近寄ろうとしないんだ。だから...もっと自分をさらけ出せばいいんだよ。」
「...そうしちゃうと、また君に頼る事になってしまうよ...たまには僕だって...」
「いいんだって。俺はお前が頼ってくれてすっげぇ嬉しいんだからさ!」
「...じゃあ、僕、君にもっと頼っちゃうね〜?」
「おう...っておーい?」
「友樹の身体、大きいから、安心するんだ〜。これ、ずっとしたかったんだ〜。えへへ〜」
「...想像以上に我慢してたんだな、お前。」
いきなり喋り方や行動が変わった一稀を見て、友樹は苦笑しながらそう言った。
「...迷惑じゃないなら、続けちゃうよ?友樹の腕を枕にして寝ちゃうよ?いいの?」
「おう、全然いいぞ。」
「...友樹、大好きだよ。」
「...え?」
「...すぅ...」
「...マジで寝てるし...」
「...お、二人とも、よっす。」
「慎也さんももう卒業ですね。」
「あー...そうだな...お前らはそのまんま中学上がるか?」
「はい。そのつもりです。」
「あー、でも練習はあまり一緒に出来ねえか...個人的な練習以外では...」
「そうですねー...えっとー...こういう時頑張ってくださいって言うのが普通だとは思うんですけど...慎也さんが頑張りすぎたら他の人が相手にならなくなっちゃいそうなので...適度にサボってください。」
「はは...慎也さん、すいません...」
「友樹も大変だなぁ。ちゃんと面倒見てやれよ?」
「あ、お兄ちゃん!...と友樹に亀井さん。」
「いやなんで慎也さんにはさん付けなのに俺は呼び捨てなんだよ。」
「別にいいじゃん。」
「あ、美穂...わっ...!?」
「...ん?その後どうなったの?」
「あぁ、あいつ思いっきり転け」
「それは言わないで〜...」
少し赤面した一稀が友樹の近くに来てそう告げる。恐らくその話が何かに気付いたからだろう...ちなみにその後、一稀は何もないところで思いっきり転けた。