表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

設備管理の入社

「じゃあ、明日から来てもらえるかな?」


「えっ? 明日ですか?」


 皆さん、お久しぶり。山下隆俊です。


 さて、俺が現在何をしているかと言うと、設備管理会社への入社試験だ。


 今は前職を退職してから2週間ほど経過した。

その間、1週間の待機時間だか何だかを過ぎ、ハローワークにて転職先を探していた。


 正直に言うと、俺には特にやりたいと思うような仕事もなく、特に何かが得意と言う訳でもない。

給料にも特に希望はない。多過ぎてもムダ使いしてしまいそうであるし、少な過ぎるのもよろしくはない。


 まあ、普通に生活出来て、多少貯金でも出来るなら良いと言った感じだ。


 あっ、休みは欲しい。出来るならたくさん。


 そういう訳で、とりあえずハローワークにあった求人から、自分でも勤まりそうな職業を適当に抜き出して見る事にした。


 俺が持っている資格は、学生時代に取った電気工事士やアーク溶接、ガス溶接だったり、取ってから1度も運転してないが、高所作業車や小型車両系建設機械などだ。

俺のスキルでは、まあ、現場作業員が妥当な所だろう。


 しかし、俺の持っているスキルと性格は噛み合わない。


 1度だけ、現場作業員として働いていた時期もあったが、半年で辞めた。

退職の理由は聞かないで欲しい。

あんな荒い仕事なんか、やってられるか!


 それでもこういったご時世だ。

選り好みするなんて、不可能だろう。


 そういった中で、何となく目についたのが、設備管理業だ。

言うならば、設備に居さえすれば良く、営業やサービス業みたいに、対人スキルも必要ない。

 現場の人とは仲良くしないといけないが、別に毎日会うわけでもないし、大人数でなければ俺の人見知りスキルも多少は遠慮してくれる。


 まあ、実際に経験しないとわからないし、悩んでても仕方ないからと言う気持ちと、とりあえず何でもいいから、面接くらい一つ受けてみようと言う非常に軽い気持ちで、求人に募集してみた。


 一通り流れは説明したので、最初に戻ろう。


 今は午後18時過ぎ、と言った所だろう。

求人に募集した後、すぐさま先方から面接をするとの連絡を受けた。

 面接時間は、午後5時から。

まあ、無職の俺にとって、時間は何時でも良いのだが、先方からその時間を指定された。


 そして、いざ面接をしに会社へと向かうと、早速非常事態だ。


 久しぶりにスーツに袖を通し、身だしなみを整え、久しく感じていなかった緊張に囚われながらも向かった会社で、何があったのか。


 俺自身も初めての経験だ。

 

 面接を行うはずの先方が、遅刻したのだ。


 時間を指定したのは誰か、向こうだ。俺な訳がない。

少しだけ、カチンと来ましたとも。


 そこから一時間、ただただ地獄だ。

面接部屋と言っても、何も区切られていない、むき出しの机と椅子のみの場所へ案内され、座る。


 周囲には、会社の社員が数十人。

案内された場所は、ビルの一階であり、すぐ隣にあるガラスから、外は丸見え、つまり俺も丸見え。


 そして極めつけは、隣の席で始められている何らかの会談だ。

恐らく、懇意にしている相手なのだろう。

長年顔を合わせた中であるかの様に、会話が弾んでいる。


 最後に、俺に突き刺さる複数の会社員達からの視線だ。

俺の気のせいかもしれない。しかし、確実に俺を見ていると俺は感じていた。


 そんな中で、いつ来るともわからぬ者を待たなくてはならない。

見知らぬ場所に、見知らぬ多数の人間。

そこにぽつんと座る。極度の人見知り。俺。

ーーー無理だ。いっそ逃げ出したい。


 俺が解放されたのは、1時間後。

「ごめんね。遅くなっちゃった」


 そんな軽はずみな態度で、奴は現れた。


 軽い自己紹介で、奴は課長だと知った。

この会社は、大丈夫なのだろうか?


 面接と言うのは、会社側が面接を通し、入社するに相応しいかどうか、判断する物。

そう思う人も多いだろう。


 しかし、俺はこれに異議を唱える。


 面接とは、俺(受験者)が、会社側を直接評価可能な、場であるのだ。

 

 どんな人がいるのか、社内の雰囲気はどうか、清掃しているか、挨拶はしっかり返してもらえるか、面接をする者は礼儀がなっているのか、失礼な奴なのか・・・


 他にも、様々ある要因をこの目で確かめる事が出来る数少ない機会。それが試験だ。

場合によっては、ここでその会社への入社を辞める事も出来る。何も嫌味を言われてまで、入社したい会社など、俺には存在しないのだ。


 そこで、今の雰囲気はどうか・・・悪くない。

若干フレンドリーな気もするが、人見知りの俺からすると、下手に堅苦しいよりもやりやすい。


「じゃあ、明日から来てもらえるかな?」


 そんな事を考えていると、言われたのはこの言葉だ。

面接開始から、約5分。

ちょっと高めのカップラーメンが出来上がる位だ。


 まさかの言葉だった。不覚にも完全に不意を付かれてしまった。


 普通、就職試験の答えは、1週間以上はかかるものではないだろうか?

 

 もしかして、バイトの面接だったのだろうか?

そんな俺の疑問は、手元にある資料で否定される。そこには、しっかりと社員と記入されている。


 この会社、大丈夫か?


 またしても、その疑問が頭に浮かぶ。

いかに課長と言えど、そう簡単に新入社員を迎え入れる権限があるのだろうか?

普通はないはずだ。


 それをこいつはあたかも当たり前の様に実行しようとしている。


 もしや、こいつ、出来る奴なのか?

いや、指定した面接の時刻に1時間も遅れるやつが、そんな訳がない。


「提出してほしいのは、これと、これと、あと健康診断を受けてもらえる?」


「健康診断?」


 要らぬ事を考えていると、もう既に俺の入社は決定事項であるように事が進められる。

今更、考えますとは言えない雰囲気だ。


 仕方ない、嫌ならまた辞めればいいし、受かった事を喜ぼう。


 そう判断したが、一つ困った事がある。


 さっきも言ったが、現在午後6時を過ぎた所。

こいつが言う明日の出勤時間は明日の午前8時。

管理する施設へ、直接向かい、その場所でこの課長と待ち合わせだ。


 問題はここから。

提出書類は、まあ急いで書いて親に保証人になってもらえば問題ない。


 問題は、健康診断だ。


 当然、最新の物。つまり、これから医者に行き、健康診断を受けなくてはならないのだ。


 俺は、自慢じゃないが、田舎者だ。

ここから帰り、家に付くのは約1時間強。

当然の様に、地元の医者には間に合わない。

なら他に病院があるのか? ない。


 それでも、こいつは明日の朝に持って来いと言う。無理だろ。


 それに健康診断自体も、曖昧だ。

何しろ、何を受診すれば良いのか、わからないのだ。

血液検査や尿検査は必須なのかなど、何一つ書類には書いてない。


 聞けば良いじゃないかって? 聞いたさ、もちろん。


「んー、一番簡単なやつで良いよ!」


 意味、わかります?

俺にはわからなかった。健康診断なんて、何が簡単なのか、知ってる訳がないじゃん。


 ムカついたから、医者にもそのまま言ってやった。一番簡単なので良いと。

項目を指定しろって怒られた。当然だよね。


 そんな事もあって、俺は何故か入社する事となってしまった。まあ、特に希望はなかったから受かれば入社するつもりだったんだけども。


 ただ一つ、俺が心に決めたこと。

この課長には、もう関わらない。


 明日から、いよいよ入社だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ