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奥様はオタク

シャボン玉

作者: 鷹羽飛鳥

 これは、「FALL IN LOVE ~それは、坂道を転がり落ちるように~ 」の後日談に当たります。

 今回は、内容の都合上、天平視点になります。

 これだけでもわかるとは思いますが、本編を読まれた方が梓の人となりがよくわかると思います。


 というわけで。

 この物語は、フィクションです。

 実在の人物・組織・事件とは関係ありません。ないったらないんです。

 息子の翼と妻の梓と3人で、近所の公園に遊びに来た。

 4歳になる翼は、最近シャボン玉がお気に入りだそうで、うちには100円ショップで買ってきたというシャボン液が大量にある。

 いつもは梓が翼を連れてきて遊んでいるんだが、たまには3人で遊びに行こうと誘われた。もちろん、可愛い妻と息子が一緒なんだ、断る理由がない。



 公園に着いて、翼にシャボン液とストローを渡そうとすると、

 「きょうは、おとうさんがシャボン玉してくれるんでしょ?」

と言われた。

 普通、シャボン玉って自分で吹くものじゃないか?

 不思議に思っていると、梓が説明してくれた。


 「あ~、ごめんね。

  あたしがペガサス流星拳しちゃったのが悪いの」


 「ペガサス流星拳?」


 「知らない?」


 いや、知ってるけどさ。

 シャボン玉でペガサス流星拳って、何だよ。


 「まあ、吹いてあげてよ。

  あたし、いっつもぜえぜえいうまで吹かされるのよ。

  今日は休みたい」


 よくわからないまま、シャボン玉を吹いてみた。

 すると、翼がシャボン玉を追い掛けていく。

 ああ、飛んでくシャボン玉を追い掛けて遊ぶのか。と思ったのだが。


 「ばくだんパンチ!」


 なんと、翼はシャボン玉をパンチして割りだした。


 「なんだ、あれ」


 「爆弾パンチよ」


 なんだ、その物騒な名前は。


 「翼、流星拳が言えなくてね。悔しがるから、言いやすいのを教えたのよ」


 「それで爆弾パンチか? 物騒じゃないか?」


 「バロム・(ワン)の必殺技よ。こう、広角カメラで…」

 「まった、それはまた今度」


 俺は、技の説明をしようとする梓を押しとどめて、翼にシャボン玉を吹いてやった。

 梓は、この手のオタクネタになると、平気で30分とか語り続ける。

 終わったかと思うと、また続きが始まるので、よほど余裕がある時以外は止めることにしている。


 意外と、シャボン玉を吹き続けるのって、疲れるんだな。

 これは、確かにしょっちゅうねだられて、しかも1回で1本吹くとなると、シャレにならないかもしれない。

 翼が大はしゃぎでパンチしているので、意識して大きめになるようにしてやる。

 的が大きい方が当てやすいからな。




 ふと気付くと、ベンチに座ってこっちを見ている梓が何か口ずさんでいる。

 耳をすますと、シャボン玉を歌っているらしい。

 童謡とかでも替え歌にしたがる梓が普通に歌っているのは珍しいと思って見ていると、右手が動いている。

 右手をひらひらと左胸から右上に持って行って、拳を握ってから、パッと開く。

 どうやら、シャボン玉が飛んでいって割れる様を表現しているらしい。

 1番ばかり何度も歌いながら、楽しそうに繰り返している。


 そのうち、手の形がおかしいことに気付いた。

 梓の右手は、平手で、4本の指を付け根から曲げていて、くの字のようだ。

 普通、シャボン玉だったら、丸を作るだろうに。

 何か意味があるんだろうか。いや、梓のことだから、何か拘りがあるんだろうが。



 帰り道。

 たっぷり遊んで上機嫌な翼と手を繋いで歩く梓に、さっきの手のことを聞いてみた。

 「なぁ、さっき、歌いながら踊ってたアレ、なんだ? 手の形、シャボン玉なら丸を作らないか?」


 「ああ、あれ。見てたんだ? 夜になったら、説明してあげる」


 梓は、意味ありげに笑うだけで、はぐらかされてしまった。

 まあ、梓が夜にと言ったんだから、きっと夜には説明してくれるんだろう。




 夜、翼が眠った後、梓に昼間のことを聞いてみることにした。

 「なあ、お母さん」


 「…」


 返事がない。ああ、名前を呼べということか。

 梓は、翼のいないところでお母さんと呼ぶと、拗ねることがある。


 「梓」


 「なぁに、天さん」


 「昼間の踊りなんだけど、説明してくれるんだろ?」


 「ああ、あれね。

  ふふ、あれはね、屋根なのよ」


 「屋根? 屋根まで飛んで、の屋根?」


 「そう。

  屋根まで一緒に飛んでって、壊れるの。


  シャボン玉飛んだ♪」


 梓は、左の拳の上に、くの字にした右手を被せて歌い出した。


 「屋根まで飛んだ♪

  屋根まで飛んで♪」


 そう言いながら、右手が揺れるように右上に上がっていって、拳を握り。


 「壊れて消えた♪」


 握った拳をパッと開いた。

 …それは、つまり。


 「屋根は到達点ではなく、飛んで壊れる対象…。

  あの右手は、屋根なのか?」


 「そう…、そのとおりっ!!」


 梓は、やけににこやかに断言した。

 この言い方も、何かの真似らしい。

 右肩を前に出して小芝居を始めたから、さっさとストップをかけて話を続ける。


 「銀の…」

 「あのさ、梓」


 「何よ、名乗りを邪魔するのは邪道よ」


 「それはいいから。

  一応聞いとくけど、歌詞の本当の意味はわかってるんだよな?」


 「当ったり前じゃない。何言ってんの」


 「じゃあ、なんで」


 「楽しいから」


 そう言って、無邪気な目で見上げてくる。

 その目は反則だ。

 いつも「あたしは汚れきった大人だから」とか言ってるくせに、時々こうやって無邪気な目で俺を見つめてくる。

 結婚してもう6年以上経つのに、未だにこの目で見られると可愛くてたまらなくなる。

 惚れた弱みか。

 そして、こんな目で見つめてくる時は、梓が甘えている時だ。

 梓を抱き寄せると、耳元に口を寄せてきた梓が


 「大丈夫。翼には、今のは教えてないから」


と囁いた。





 あれ以来、シャボン玉を聞くと、強風に煽られた屋根が吹き飛んでいって、空で砕け散る映像が頭に浮かぶようになってしまったのが悩みの種だ。

 2人の物語は、まだまだ続きます。

 死が2人を分かつまで。


 梓と天さんの物語は、今後も折に触れて書いてみようかと思います。


追記

 梓の「銀の…」のくだりのネタがわからないという方がいらしたので、説明です。

 「銀の…」は、屋根とは関係ないネタです。

 平成5年に、「勇者特急マイトガイン」という、列車がロボットや飛行機に変形するロボットアニメが放映されていました。

 蒸気機関車型のロコモライザーを本体に、新幹線のぞみから変形する小型ロボ(ガイン)が左腕に、新幹線つばさから変形する戦闘機マイトウィングが右腕に変形し、巨大ロボ・マイトガインが完成します。

 すると、敵が「お前が噂のマイトガインか!」と言い、それに答える形でマイトガインの名乗りが始まるのです。


 「そう…、そのとおりっ!!

  銀の翼に望みを乗せて、灯せ平和の青信号!

  勇者特急マイトガイン、定刻どおりにただいま到着!」


というのが定型です。

 「銀の翼に…」で、それぞれつばさとのぞみが変形している方の肩を前に突き出し、「灯せ…」で信号が付いている額を指さします。

 梓はこのシークエンスを全部やろうとしたのですが、危険を感じた天さんに最初の段階で潰されたので、「名乗りを邪魔するのは…」と文句を言っているのです。


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― 新着の感想 ―
[一言] マイトガインは最高ですね! 翼くんも立派なオタクになりそう。
[良い点] 好きなものへの拘りは評価に値します。 スーパーロボット大戦シリーズで嗜む程度しかマイトガインなどは知りませんが、勇者ロボシリーズやマジンガーなどのスーパーロボット。ガンダムをはじめとす…
[良い点] こっちも拝読しましたv もう、幸せの塊のような小説ですね。 シャボン玉がいっぱいある、というのも幸せの象徴のような気がします。 うちにも姪たちが来た時用にシャボン玉が買ってあります。 やっ…
2018/01/16 18:29 退会済み
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