9話 最後の技
少し短いです…
聞き慣れないチャイムの音で目が覚めた。
目を開けるとそこはいつもと違う部屋。周りを見てから思い出した。
そういえば健さんの家に泊まってるんだった。
俺は伸びをしてベッドから起きると、部屋を出て玄関の方へと向かった。誰が来たのか気になったからだ。
玄関が見えるところまで来た時、もう健さんが来た人と話しているのが分かった。
そして相手を見た時、俺はその相手をすぐに思い出した。
間違いない、あの茶色のスーツ…
「あなたは…」
俺がそう呟くと二人は俺の方を振り返った。
「君は神崎さんの… 何故こんなところに?」
茶色いスーツの男はそう聞いてきた。
だが、その理由を俺が答えようとする前に健さんが口を挟んだ。
「私は彼を鍛えているんだ。だからまだ戦場には行けない」
「と言う事は彼も戦場に出ようと?」
「あぁ、そうだ」
男は少し考えた後、一つの提案をしてきた。
「では、彼もご同行するというのはどうですか? それなら戦場に出たい彼も出て貰いたい我々もお互いに有益だと思うのですが」
その提案に乗ってもいいんじゃないかと思った。
だが、健さんの答えは違った。
「いえ、彼は私がここで鍛えてPTTで優勝させます。それが本当に彼の為でもあり、あなた達の為にもなるので」
健さんはそう断言した。俺はその時もう彼の言う事に反発する気はなかった。
「何故そう言い切れるんですか?」
なぜなら彼には『力』がある。
『観察力』という力が。
「私の『目』がそう言っているからだ」
後ろから彼の姿を見ていたが、彼の目が輝いているのは想像できた。
彼の目を見た男は驚いた顔をしていたからだ。
「そうですか、ではもうお迎えには来ません、行ける時になったらそちらから近くの基地へ来てください」
「分かりました」
男はそう言って帰った。
帰りながら携帯でどこかに連絡しているようだったが、さすがに相手は分からなかった。
「さっさと今日も特訓をするぞ」
「はい!」
それから一週間、俺達は毎日、腰に構えて撃つ射撃方法と弾を避ける練習をしていた。
すると、もう完全にその二つは身に付いた。
「撃て!」
彼の合図で構えると同時に三つの的を連続で撃つ。
当たっている場所は三つとも見事に中心部。
そして弾を避ける方は、もう狙う場所を肩だけではなく身体全身を狙われている。
だが、動きを見て彼が銃口を向けた方とは真反対にすぐ動く。
さすがに距離が近いため、連射ではなく単発で1秒に2発撃つくらいの速度だが、これなら避けられる。
弾倉の弾が切れたとき、彼は銃を下げた。
「完璧だな、もう十分だ」
俺はそう言われて嬉しさを隠せなかった。
「よっしゃあああ!!」
まるで難関校の受験で合格した受験生のように喜んでいた。
だが、一瞬で俺は興醒めした。
「それでは次の技だ」
「えっ、まだあるんですか!?」
もうすっかり本番だと思っていた。
「教える技は次が最後だ」
少し無駄に喜んでしまったが、次で最後だ。こんな辛い技を身に付けてきたんだ。今更どんな技が来ようとやってみせる…
「それで次はどんな技なんですか?」
「あぁ、最後は近接格闘術だ」
「…えっ?」
今まで銃で戦う前提で命中や避ける事を意識して来たのに…?
「ここで格闘術ですか?」
「あぁ、そうだ。もし近距離で遭遇したりでもすれば恐らくその時は銃撃より格闘の方が強い時もある。その時の為に、格闘術も身に付けておかねばな」
何かちょっと失望してしまった。
「弾を避けるなんて不可能そうなことをした後だから何をするのかと思ったら格闘術ですか…?」
「拍子抜けかもしれないが、必ず役に立つ」
彼がそう言うならそうなんだろう。
「じゃあやりましょう、最後の技を」
PTTには役に立たないし、戦争でも使えるかどうか分からないけど、俺はこれから格闘術を学ぶようです…
一方その頃、ドームの会場では第3回PTTが始まる鐘が鳴り響いていた。
俺達はその特訓をしていたため、第3回の様子は見れなかった。