7話 先読み
まだまだ特訓の話が続きます…
「それで次は何をするんですか?」
彼にそう聞くと突然彼は銃を手に取った。
「これからやるのは恐らく困難な技だ」
そう言って彼は俺の方へ銃を向けてきた。
実銃だと分かっているため、流石に身を竦めた。
「銃口向けたら危ないですよ!」
俺は顔を守るように手を伸ばした。
「見なきゃ避けられないぞ」
彼は威圧するようにそう言ってきた。
避ける? 弾をか?
「避けるなんて無理に決まってるじゃないですか!」
冗談にも程がある。銃弾が飛んでくる速度は避けられる程鈍くない。
「君はお兄さんの動きを忘れたのか?」
そう言われて思い出す。
第1回PTTでの兄が不意打ちの射撃を避ける姿を。
「あれは人間の領域を超えてますから…」
「それは浅はかな考えだな」
彼はそう言うと銃口を上に向け、俺に向かって銃本体を投げてきた。
焦って抱きかかえるように銃を掴む。
「私に撃ってみたまえ」
彼は真剣な顔でそう言った。
戸惑った挙句、俺は銃を構えて彼に銃口を向けた。
「いきますよ?」
「あぁ、いつでも来い」
俺は何となく肩だったら致命傷になったりしないと聞いた事があったから彼の左肩を狙った。
そして引き金を引いた瞬間、身体全身に伝わる衝撃が来た。
本当に実銃を向けられていたんだと改めて身震いした。
彼は撃たれる寸前くらいから動いていた気がした。
自分から見て右に動けば当たっていただろうが、彼は左に身を寄せていた。
彼の肩を狙った弾は彼の背後の壁に当たった。
「本当に避けた…」
思わず声に出た。 彼との距離はわずか2,3m。まるで何処を狙われるか分かっていたかのような動きだった。
「これを出来るようになってもらう」
「そんな簡単に言ってますけど、普通の人には無理ですよ!!」
俺がそう言うと彼は笑った。
「確かに普通の人には無理だ、だが私には分かる、君は普通の人じゃない」
また彼の『目』が言っているというのか。
「そういえば、気になったんですけど健さんのその目って何なんですか?」
そう聞くと彼は少し困った顔で俯いた。
聞いてはいけない事だったのかもしれない。
「これを身に付けたら話そう」
彼は顔を上げてそう言った。
答えが知りたければ課題をこなせということか。
彼はやる気を出させるのが上手いな。
「分かりました、やれるだけやってみます」
「さっき私が撃たれる前に動いていたのは分かるか?」
そう言われてさっき撃った瞬間の出来事を思い出す。
「はい、でないと避けられないと思いますし」
「そうだな、私には君がどこを狙うかすぐに分かった」
一体どうやって…?
「答えは簡単だ、銃口を見るだけだ」
確かに簡単な答えだった。だが、そんな事をするのは簡単じゃない。
「銃を向けている方向から避けるって事ですか?」
「あぁ、それだけの話だ」
簡単そうに言うなぁ、この人は。
「それが出来たら苦労しないですよ」
「じゃあまずは左肩と右肩だけを狙う。どちらを狙われるか見るだけだ」
そう言って彼は銃口をこちらへ向ける。
「いきなり実弾でやるんですか!?」
「大丈夫だ、君なら出来る」
そう言われた瞬間、避けるしかないと思った。
一度瞬きをした時、俺は彼がゆっくり動いているように見えた。
彼の手が俺から見て左に動いた。これは左肩を狙われる。
そう思って俺はもう右に寄っていた。
その瞬間、頭に響く銃声と共に左肩に当たりそうな位近い所を弾が通っていったのが分かった。
後ろの壁には弾痕がついていた。
避けれたと思って安心したのも束の間、彼はもう避けた俺の右肩を狙っていた。
急いで左に避ける。隙を狙われた為、弾は右肩に掠った。
思わず力が抜けて左にそのまま倒れこんだ。
「いっ…いきなり2発も撃つなんて思いませんでしたよ…」
「でも、避ける力は身に付いた。違うか?」
この人の教育は異常だ。厳しいなんてもんじゃない。
だが、確かに俺の為になっているのも事実だ。
俺はもう恐怖なんて感情は抱いて居なかった。
「違いませんね」
俺はそう言って笑っていた。