6話 射撃の基本
これから何話かはトレーニングの話になります!
「まずは射撃だ。これが出来なきゃ話にならない」
彼にそう言われて俺は防音用ヘッドホンを耳に当て、目の前の机のようになっている板の上に置いてある銃を手に取り、構える。
「しっかりと肩に固定して、サイトを覗き込み真っ直ぐ標的に合うように」
俺は彼に言われた通りにして人型の標的の頭を狙った。
「そして息を吸って、止めた時… 引き金を引け!」
彼の合図と同時に俺は発射した。身体に伝わる衝撃を精一杯抑える。
俺は狙った的を見ると確かに狙った通り頭の部分に弾が行っている事に気が付いた。
内心嬉しかったが、表には出さなかった。
「呼吸を乱せば狙いも乱れる。戦場では常に冷静に落ち着く事が大切だ」
「なるほど…」
俺は彼が言う事を熱心に覚えていた。
彼がただのガンマニアだったりしたらそんなに聞き入れては居なかっただろう。
だが、彼には実績がある。第2回PTTに優勝したという実績が。
そのため彼の言う事は信頼性が高い。
「後、君は今どこを狙った?」
彼にそう聞かれて俺は素直に返した。
「えっと、頭です」
「今は狙う練習になるから頭でも構わないが、本当の人間相手だと頭は狙わない方が良い」
「何故ですか?」
俺は疑問を抱いて彼に問う。
「頭を狙うのはリスクが高すぎるからだ。走ったりされていては頭を狙っても当てる事は難しいからな。それにゲームじゃ胴体で耐えたりするが、現実は1発で行動不能にさせる事は出来る。ましてや心臓に当てれば即死だろう」
なるほど… 頭を狙う意味は無いと言う事か。
「なるほど、では胸部を狙うべきと言う事ですか?」
「そうだな、それが恐らく最適だ」
それから俺は狙いを胴体、ちょうど中心を狙うように心掛けた。
こういう標的の大体が中心の点数を高めにしてあるのはそういう事なのかもしれないな。
10m、20m、30mと距離の離れた標的を順番に狙っていく。
大体どの距離でも射程距離内なら外さなくなってきた。
狙い方を覚えるだけでこんなに変わる物なのか。
何事にも基礎は大事という事だろう。
「よし、それだけ当てられれば十分だろう」
弾倉が空になった時、彼はそう言った。
「それじゃいきなりだが、次のステップだ。 次は狙わず的に当ててみろ」
俺は言われた事が良く分からなかった。
「えっ?狙わなかったら当たる訳無いじゃないですか」
「正確に狙わずと言った方が良かったか?」
「正確に狙わず…?」
そこまで言われてようやく理解出来た。
さっきまでは銃の上にあるアイアンサイトと呼ばれる照準器を見て狙っていた。
だが、恐らく彼が言うのはそれを使わずに狙えということだろう。
俺は銃を腰の辺りに構えてまずは1発撃ってみる。
だが、的に穴は開いていなかった。
こんなにも命中度が違うのか。
「とりあえず今度はそれで当てられるようにしたまえ」
そんな無茶な事を突然言われて俺は困惑した。
この調子じゃ当たる気がしない。でも、やるしかない。
これで当てられるようになれば恐らく急成長出来るはず。
やってやる… そう思って俺は何発も撃った。
的に何発か当たってはいたが、狙った中心部には当たっていなかった。
さっき構えていたより下に構えているから少し上を狙って、左右にズレないようにしっかりと持つ…
そう深く考えていた時、彼はもう一つの助言をくれた。
「考えすぎじゃないのか?」
「そう言われても考えないと的外れな事に…」
「銃の目線を感じるんだ。 自分が銃になったと思って」
銃の目線…? 俺は一度銃の方を見た。
これが俺だったら…? そう想像しようとして目を閉じた。
狭く暗い道の中に一筋の光が見えた。
その光の先には的がある。狙いたい部分はもう少し下だ。
少し下を見ると、的の赤くなっている中心部分が見えた。
その瞬間、目を開けて俺は引き金を引いた。
発射された弾は真っ直ぐ、狙っていた的の中心部分に穴を開けた。
完璧な狙いに自分でも驚いた。
「分かったようだな、銃の目線が」
彼にそう言われて俺は銃を眺めていた。
「あの、観月さん」
「どうした?」
「俺、絶対兄の仇取ります」
「…ふっ、そうか」
俺は銃を眺めながら何か自分の中の何かが変わったと思った。
「今の君は自信に満ち溢れた顔をしている…」
観月さんがそう呟いていたが俺には聞こえて居なかった。
「それよりさっきから言うのを忘れていたが、下の名前で呼びたまえ」
「苗字は嫌なんですか?」
「嫌とかでは無い、ただ短い呼び名の方がこれから先困らないからな」
俺は何に困らないのか良く分からなかったが、彼の言う事に従うことにした。
「良く分からないですけど、そうします」
「君は確か習汰くんだったね?」
彼はそう確認するように聞いてきた。
「はい、そうです」
「では習と呼ぼう。それで良いか?」
「構いません」
「では改めてよろしくお願いします、健さん」
「あぁ、よろしくな習」
そう言って俺達は握手していた。