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目覚め


ピチチチ…


────小鳥の…声?

響いたその声に、意識が浮上する。ふと聴こえてくる水が流れる音。川があるのだろうか。そして頬を風が撫でる感覚。身体がなにかゴツゴツした地面に横たわっている感覚。風が吹く度に葉が擦れてさわさわと動く音がして、瞼の裏がチカチカとする。……街中にいるはずなのにどうして森の中みたいな音が聞こえるのだろう。かわりに、街中特有の音は聞こえない。

そのまま目を閉じて周りを探っていると、ふと、良くない気配が遠くにあるのを察知し……察知?


「…えっ!?」


気配を察知なんて、そんな高度なことできたっけ?

驚いて、思わず閉じていた目をバッと開けて身体を起こす。思った通り、目の前に広がる緑。ではなく。ちょっと、まって。

確認しようともう1度目を閉じる。

…やはり、分かる。いくつあるかわからないが良くない気配。と。


「あれ?名前忘れた……」


全然関係ないが、自分の名前がわからないことに気づく。ついでに記憶を辿るが直前に“自分の家のベッドにいた”事以外のことを、思い出すことが出来ない。元いた土地のことも、家族や友人の名前も。何一つ、思い出すことが出来ない。軽くパニックに陥りかける。その時、現実逃避しかけで散っていた意識が先程察知した良くない気配が近づいてくるのを感じ取った。


「近づいてくる…!?」


やばい。よくわからないけどこんなところで寝ている場合ではないと本能が告げる。逃げようと手をつき立ち上がろうとすると、


ぐんっ


…!?

腰に、重い感触。思いがけない質量につい尻餅をつく。見ると、剣。それにハッとして出で立ちを確かめると、白い手袋に包まれたほっそりとした手と、さながらファンタジーの剣士が着るような紺色の衣装に包まれた、女性らしいスラリとした体躯が目に入る。確認するとともにセレステ・シャロン・ナイトリーという名前が脳裏に浮かぶ。


「…セレ……ステ??」


ふと浮かんできたその名前を呟くと、それが自分の名前なのだとわかった。それと同時に“セレステ”の記憶らしきものが、情報として頭の中に流れ込んでくる。気配のことを忘れて、突然流れ込んできた情報に呆然としていると、ガサガサっという大きな音と共におどろおどろしい化け物がでてきた。考えるまもなく反射的に剣を抜く。どうやらあまり自分を調べている時間はないようだ。


「これは……低級のデビル!?なぜここに!?」


咄嗟に剣を抜けた事に安堵しつつ、ここにいるはずのないモンスターを睨む。ここの世界のデビルは暗いところを好み、洞窟や廃墟の地下などに生息しているモンスターのはずだ。間違ってもこんな木漏れ日で溢れた明るい森で生息はしていない。とりあえず逃げようと後方を確認すると、どうやら川は後方にあったらしい。キラキラと光を反射する水面が見えた。後ろに逃げることは難しそうだ。敵は2体、こちらは1人。後方には川。逃げ場がない。


「これまでか……?」


ここで死ぬわけにはいかない、と思考を巡らせる。前に逃げようにも前にはデビルがいる。どうしたらこの状況を突破できるのか。私が思考の渦に飲まれかけた時、グアア!!!と声を上げてデビルが襲ってきた。悠長に考えている場合ではない。


「ここで死んでたまるものか!」


そう叫んで、デビルに向かって剣を薙ぎ、攻撃を弾く。ガアン、と音をたてて弾いた攻撃の重さに歯噛みして、次々と繰り出されるデビルたちの攻撃を躱しながら周囲を確認する。先程から情報を探ってみてはいるものの、セレステの記憶にここまで来た経路の記憶はない。幸い川が近くにあるので、この川を辿って下流まで行けば人里におりれるかもしれない。が、それも一か八かだ。それでもこの可能性にかけない理由はない。


「隙を作っていっきに撒く!」


ザンっと踏み込んでデビルを斬る。と、同時に地面にあった石を全速力でもう1体に向かってぶん投げ、トップスピードで走り出す。


「いっけえええええええ!!!」


走りづらい山道にも関わらず、ぐんぐん上がるスピード。だが、ここで簡単に逃がしてくれるほど、敵も甘くない。時間稼ぎに、と周りの枝を落として走っても、その枝ごと押し切ってデビルが追いついてくる。時間稼ぎにもならず、疾風の如き速さで追いつかれてあっという間に行く手を阻まれてしまった。どうやらあちらは敵意100%のようである。


「戦うしかない……か」


ぐっ、とデビルを睨み剣を構えた。だが、そんなセレステを嘲笑うかのように、デビルは鋭い爪で襲いかかってくる。

デビルの爪には毒がある。受けてはたまらない、と鋭く後ろに跳躍した。

ズシャッという音とともに、地面にデビルの爪が突き刺さる。この爪にやられたら、と悪い方に頭が働きかけた途端、ヒヤリ、予感がして体が右に動く。その直後、さっきまでいた空間をデビルの槍が駆けた。背筋に冷たいものが走る。ほんとに考え事をしている場合ではない。

気を取り直してデビルを睨む。こうしているうちにまた攻撃動作に入っていた。今度はさせない!と踏み込んで距離を詰め、剣を一気に振り下ろす。が、もう1体の爪攻撃に阻まれ、ダメージを与えることができない。攻撃を間一髪で避け、再び後ろに跳躍する。と、攻撃動作に入っていたデビルが目の前に現れ、ニタアと嫌な笑みを浮かべた。

次の瞬間、腹に重い衝撃がきて、地面に叩きつけられる。


「ッ!?」


腹を蹴られたうえ、地面に叩きつけられたことで、まともに呼吸ができなくなる。どうやらこの体は随分と痛覚が鈍いようで戦うのにあまり支障はなさそうだが、痛いものは痛い。痛みに怯むが、敵は待ってくれない。デビルの追撃を、グッと力を入れ直し、横に転がることで免れる。そこで屈んだ体勢のまま、追撃で手が地面に突き刺さったデビルを薙ぎ払う。ズシャアと湿った音をさせてデビルの腕から脇腹が血飛沫を散らす。グギャアアアと悲鳴が上がるが致命傷とまではいかなかったようだ。しぶとい。血飛沫を浴びないように少し距離をとる。だが、あと一太刀浴びせれば倒せるだろう、と判断して相手がまた攻撃を仕掛ける前に思い切り鋭い剣を浴びせてやろうと踏み込んだその瞬間。


グギャアアア!!


ザシュッ


「っ!?」


剣を浴びせてやろうとしたデビルの後ろから現れたデビルその2の、よっしゃもらったとばかりの攻撃に、脚をざっくりとやられた。思わず地面に膝をつく。これは正直今までで一番痛い。攻撃してきた1体に執着するあまりもう1体のことを失念していた。悔やむ間も無く、デビルその2がまた槍を振り上げる。この体勢では避けきることはできないだろう。せめて致命傷はうけるまいといたむ脚に力を入れ、傷が広がるのを無視をして横に転がる。


ザシュッ


今度は背中に鋭く痛みがはしる。幸い致命傷とまではいかなかったようだが、熱いものが背中を流れるのを感じる。先ほどの脚の痛みすら塗り潰すような背中の痛みに萎えそうになる体に鞭を打ち、もう1度攻撃をされる前に立ち上がる。身体が悲鳴をあげるが、聞いている余裕はない。はやめに決着をつけなくては、体が動かなくなるだろう。声を出して、力を入れる。


「ハアアアアアアっ!」


その時、気持ちに呼応するように勝手に口が言葉を紡ぎ、体が動いた。


斬狼刃(ざんろうじん)!」


ザンッッッッッ


グギャアアアと断末魔をあげ、瀕死の1体が散る。1体倒したことに喜ぶ間もなく剣を構え直す。とめどなく血を流して悲鳴をあげる身体を無視し、あと1体のデビルに向かって、今自分ができる全力を込めた一太刀を、放つ。


天照蒼穹剣(てんしょうそうきゅうけん)!!」


ザンッッッッッ!


これで倒れなかったらそれまで、とばかりに放った一閃に、デビルは霧散して消えていった。どうやらちゃんと終わったらしい。よかった。

べっとりとまとわりつく己の血を洗おうと川のあるであろう方向を向くが、見えなかった。だが、もう1度川を探そうにも、全力を出し切った身体はいうことを聞きそうにないな、と考える。そういえばあたりが暗い、と思って気がついた。あたりが暗いのではなく自分の視界が暗いのだと。それに気づいた途端、かろうじて立っていられた身体からぷっつりと力が抜ける。


……倒れる


そう覚悟し目を閉じた体に、強い衝撃は襲ってこなかった。いくら痛覚が鈍っていても衝撃くらいはわかるだろうと思ってうっすらと目を開くとそこには、黒髪の美少年がいた。


「おい!しっかりしろ!」

「だ……れ?」

「自己紹介は後だ!何があった!仲間は!?」


わからない、と答えたかったが、どうやら身体に限界が来たようだ。答えられたかはわからない。また人が来たのをちらと視界に映すと、意識はゆっくりとブラックアウトしていった。

読んでくださってありがとうございましたm(*_ _)m

続くかどうかは不明ですが、応援してくださると嬉しいです。


では、また。

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