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登先輩と、怪談  作者: 鴨野朗須斗
先輩と青い家
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 怪談は嫌いだ。あれを呼び集めるから。

 あれが何かなんて理解できないし、しなくていい。理解した所で、あれを私がどうにかできる訳がないのだから。

 あれを見つけると、私はぎゅっと目と耳を塞ぐ。

 生暖かい吐息が耳にかかっても、指の隙間からこの世のものとは思えないおぞましい声が聞こえても、ただただ体を丸めて、あれが消えるのを待つだけだ。


 私が泣きつかれて気絶するように眠るか、あれが興味を失くし消えるのが先か。頻度から言うと前者の方が多いが、今日は後者だったようで、あれはずるずると足をひきずりながら私が体を丸めるベッドの下へと帰っていった。


 ――保健室には出るらしい。


 こんなうわさ話を聞いたばかりだったから、余計に保健室へは行きたくなかった。

 どうもあれは、私が気にしていると現れるようで、怪談や都市伝説を聞いた直後に遭遇することも少なくはない。まるで私自らあれを呼び寄せているみたいで良い気はしないが、意識している最中はうわさの場所には近づかないという自衛手段にもなっている。


 しかし学校内は別だ。

 校内行事は勿論、移動教室だってあるし、ここ、保健室は怪我や病気で何度もお世話になってきた。

 3つ並んだベッドとそれを覆い隠すカーテン、頻繁に姿をくらます保険医。うわさを聞くまではサボり場のひとつとして重宝していた場所も、今となっては恐怖の対象にしかならない。


 そんな場所でどうして私が震えていたかというと、嫌でも近づかなければならない理由があった。



「成程」



 “ 理由”が隣のベッドからカーテンをめくり顔を出す。

 制服の詰め襟を一番上まで閉め、眼鏡の奥には人当たりの良さそうな甘い顔立ちが覗いている。一見すると真面目そうに見えるこの男こそが私がここにいる“ 理由”である。



「……昇先輩、遅いです。出たらすぐにどうにかしてくれるって言ったじゃないですか!」

「ああ、そうだったか。悪い、失念していた」



 悪びれもせず棒読みされる台詞に怒鳴り返さなかった自分を褒めてやりたい。目に涙を浮かべる私の責め苦は、先輩にとっては何の意味もなさないようだ。嬉々として自分のスマートフォンを操作している。

 鬼、悪魔、ひとでなしといった罵倒は飲み込んだが、今の彼の様子を見るに口に出しても聞こえてはいなかっただろう。それ程までに先輩は手元のスマートフォンに集中していた。

 早くここを離れたい私の言葉など全く耳に入らないようで、先輩はスマートフォンをこちらへ向け、まるでおもしろことがあったように瞳を爛々と輝かせて言う。



「まあ、それより見てみろ相田」



 ――お前の幽霊はカメラには映らないようだ。

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