蝶ですわ
早急に一つ確認をしたいのです。
目の前の光景は何でしょうか……
取り合えず、見無かった事にして上げたほうがいいのではないかと愚考するのですが。
「お姉さま、あれは偽者ですわ!」というレイチェル様の訴えが……
どうしましょうか……
結局、あの日の夜の妖精からの報告を受けた頃には彼女は帰寮しておりまして、現行犯ではないので御仕置きできませんでしたの。正確に言いますと、報告された内容が突拍子がありませんでしたので、現行犯を抑えるしか方法がないと判断したのですわ。
その結果が現在なのですが。
最初の場面からお伝えしましょう。
「フッ、そこまでだ! 悪事はこの夜の蝶が許さない!」
繁華街で暴れる酔っ払いの集団に向かって宣言しているのがテッサロッサさんです。
ええ、夜の蝶だそうですわ。でも夜の蝶って所謂『蛾』ですわよね……
良いのですか自ら蛾と名乗って?
「『蛾』はありませんわねぇ」
「お姉さまそこではありませんわ! あれでは私達の夜の妖精が間違われますわ」
「あのキラキラした派手な衣装とですか? 無いと思いますが……」
それは勘弁して頂きたいですわね。
まあ、私でしたらあの衣装も考慮して輝く蝶とでも名付けますが。
そうですね、それなら許容範囲内でしょう。
「『蛾』と『妖精』は間違いようがございませんわ」
「いえ、一般の方々からすれば仲間と思われる可能性が御座いますもの」
「早急に対処しようヒルデ、それは困る」
「確かに……」
仲間と見られるなら衣装も変えていただきたいですわ。
それとむやみに暴漢だからと言って殴りすぎですわね。
腕前はそこそこですが、危なっかしいですし。
「はい、そこまでですわ、テッサロッサ嬢」
「わ、私は夜の蝶! ソンナ人物デハナイゾ」
「フフフ、では夜の蝶、改めて『蛾』のお方に告げますわ」
「『蛾』とはなんだ『蛾』とは! 夜の蝶だっ」
拘りは判りますが……
そういう事では御座いませんわ。
夜の妖精と間違われない為に決まっていますでしょうに。
ここではっきり告げておきますのよ。
「オイタが過ぎますと御仕置きしますわよ?」
「ヒィ、さ、さらばだ! 今日の悪事は滅びた」
往生際が悪いですわ。
目配せと共に夜の妖精の面々が配置を完了しましたわ。
「確保して下さいませ、それと此方の方々を警邏の詰め所へお連れしておいて下さいませ。では撤収しましょうか、たっぷり帰ってからお話をしましょう」
「うわぁ、なんだお前たちうわぁ」
見事なスマキができあがりましたわね。
……ええ時間はたっぷり御座いますわよ?