波瀾ですわ
私……
寮に帰って部屋でお茶を飲みながらワガシ、きな粉を塗したモチの上に、クリキントンを裏漉ししたものと小豆のこし餡を乗せた後で梅味の葛を少したらした絶品の甘味を食べる予定でしたのよ?
それがどうして生徒会に……
副会長でしたわ。ですが本日は用件が無かった筈ですのに。
「す、済まないヒルデ嬢、その妹達と茶会をする予定だった所を呼び立ててしまって」
「いえ、アルフレッド殿下が頭を下げる必要は御座いませんわ。それよりも緊急の案件だとか」
そうですわ、私の和菓子の恨みは用件を生み出した人物へと向けられますわ。
「それがね、皇太子殿下なんだが……」
何でしょうか、皇太子殿下と聞いた瞬間にトラブルの中でも最大級に厄介な状況が思い浮かぶのですが。
「何か言い難い事でも御座いまして?」
「うん、実は彼が先程エーリカ嬢に迫ったそうなんだ」
「……はぁ、ってええ!? 失礼しました、それは本当ですの?」
なにがどうしてそんな事に?
と言いますかエーリカ嬢は所用でたしかクリストフ様が迎えに来た筈では?
「「「止めるのに苦労したんだ……危うく一触即発でね」」」
「えーと……」なんでしょう、皆さんが凄まじく疲れた様子なのですが。
「クリストフ、君から話した方がいいと思うぞ」
「あの、私とエーリカ嬢は付き合っていまして」
え、っと……
ああ、驚く事を忘れてしまいましたわ。
お似合いですし、と言うかくっつく様に仕向けたのは私ですから、まあそれはいいのですが。
一触即発って……
「あの、先ほどの一触即発という事は、まさかクリストフ様と一緒にいるのに迫られたのですか?」
「……ええ。というかヒルデガルド嬢も驚かれませんね」
「まあ、お似合いでしたから何時かはご報告頂くものだと思っておりましたもの」
「ハハハ、こんな形での報告になるとは思わなかったのですがね」
それはそうでしょうが……
恋人の雰囲気を振りまくあの空間に割って入りますでしょうか。
あぁ、そう言えばデビュタントの舞踏会の際も少々強引な所が見受けられましたわね。
「一応、そこに通りがかった殿下とバートレット、エルリッヒが止めてくれたのですが……」
「今後の事ですわね」
「そういう事なんだが」
まあ、まだ一応婚約している訳でも有りませんから声を掛けるだけではなんとも抗議し難いですが……
あの時の強引さを考えますと他の令嬢にも迫る可能性が御座いますわね。
それより言い淀むという事はまだ御座いますのね。
「それと?」
「ああ、一応その強引な話は打ち切ったのだが、次は生徒会へ入れて欲しいと言われてね」
成る程……確かに、かの方は前世で私の反対を押し切って生徒会へと参加されておりましたわね。
ですが今回は私が反対するまでもなくといった所で御座いましょうか。
「そこで、どう対処すべきかという話になったんです」
「確かに困りますわね」
相手は皇国からの留学生に過ぎない、立場は皇太子殿下であろうがこちらの軍や将来の官僚を統括する生徒会には入れるべきでは御座いませんわ。それは前世であろうが無かろうが変わらない考えですが。
「先ず大前提と致しまして、他国からの留学生である以上はお断りするべきですわ」
「ふむ、やはりそうなりますか……」
まあ冷静なバートレット様ならその辺りは考えておいでだったことでしょう。
「問題は先ほどの件で揉めた事で御座いますわね」
「そうだね、タイミングが悪かったとも思えるし、断ればまた無理難題で次は魔法小物同好会へ向かう可能性も考えられるだけに、返答に困ったんだよ」
アルフレッド殿下は私達へと矛先が行かないようにと考えて下さいましたのね。
確かに、可能性が無きにしもあらずと云ったところでしょうか。
「いえ、此処は一切退かずにお断り致しましょう、無理難題など通してはなりませんわ。それに臨時役員としてエーリカもそうですし、レイチェル様もジャンヌも生徒会を手伝っておりますから危険でございますわ。魔法小物同好会は私がおりますし、もしも無理を言われても通す事など御座いませんもの」
……あの、何でしょうか、私の話が進む度にその哀れな者を思い浮かべるような眼差しが在らぬ所を向いておりますが?
何か見えまして?
「「「「「…………フックク」」」」」
「あの、どうされましたか?」
「いや、何、もしもヒルデ嬢に無理難題など吹っかける事になるなどと考えたら、我が身の過去の失態と仲間たちの失態を思い出してしまってな……ククク、イヤ済まない、実に頼りがいがある、アルフレッド様の件などを忘れていたわけではないのだがな」
「バートレットォ! 記憶から消せ!」
「ククク」「フ、フフフいかんな止まらない」「な、投げ飛ばされるやもしれぬぞ」
もう一度皆様同じ目に遭いたいのでしょうか?
というか恥ずかしいので早めに記憶から抹消して頂きたいのですけれど、鈍器が必要で御座いますか。
「いや、私はあのお陰で今があるんだから感謝しているぐらいだぞ!」とアルフレッド殿下が仰いましたが。
……褒められている気が致しませんわ!
何処かに穴は空いてませんでしょうか?