目が点ですわ!
お姉さまとの修行の日々は大変有意義な物となっております。
未だ完成していない肉体を考慮され、本格的な格闘術や組み手などは後回しになっておりますが、毎日の訓練は確かな目標を見据えて続けております。
私の現在の目標はお姉さまのようなシノビと同等の体術を身に着ける事。
最初にお姉さまと目標に関してお話をした時は流石に眼が点になりました。私、今ではそれを目標にするべく頑張っておりますの。
そう、たしかあの時……
「まず最初にお嬢様がどこまでご希望になるかを確認せねばなりません」
「何処までというのは体術や技術の事ですわね」
「無論、その通りです御座います」
「シショウと同じ技術を望みますわ」
「……お話を伺った時にも思いましたが、面白きお方で御座いますね。失礼致しました、悪い意味は御座いません」
とても素敵な笑顔をお見せ下さったのですわ。
そして、生意気に告げる私の言葉に応じて下さいました。
「私は目標の為にも必ずや自分の望む自分になって見せますわ」
「では私と同じ技術ということですので……」
そう言った瞬間、お姉さまの姿が突然消えたようになったかと思うと足元には脱いだ侍女の制服のみが残っていて……
「このような事もできるのが私のレベルのシノビですが?」
頭の上から聞こえた声の方へと眼を向けると、其処には別の衣装になって足の親指と一指し指だけの力で天井にいるお姉さま。
「す」
「す?」
「ステキですわ!」
「……驚かれないのですね、フフフ」
これは驚くなど勿体無い事、そう感動、ファンタスティックですわ。
「必ず、必ずやその域まで到達して見せますわ」
多少驚かれたような表情に見えたのですが、お姉さまは「では出来る限りの技をお伝えしましょう」と笑顔でお答え下さいましたわ。あの時、魔法の反応も魔術らしき痕跡もなかったのでお聞きしましたら『技術のみで衣類を一瞬で脱ぎ、体術のみで天井にぶら下る』のが当たり前との事。
素晴らしいですわ!
まだ私のレベルでは天井まで届きませんし、両手両足を使っても天井に数秒と居られません。お姉さまも流石にタビという足の親指が使える特殊な物でないと出来ないし『足の指の間だけ』で天井にぶら下る事ができるようになったのは12歳の頃だったとか仰られておりましたの。
まだ、焦りは御座いませんが、シノビというのは魔力も使わずにあれだけの事を成し遂げる存在。他にも『天井まで一瞬で飛び上がる脚力』やその後で見せて頂いた『道具を使った屋根まで一瞬で駆け上がる』技術などとってもファンタジーに見えてしまう事を『魔力を一切使わずに』行われるのには驚いたとしか表現のしようがない語彙の少なさに歯噛みしたいくらいです。
勿論、この修行だけでなく日々魔法の特訓は続けておりますし、令嬢としての嗜みなどの習い事などはこなしております。
ええ、そのような些事、心配はご無用ですことよ?
お母様が時折、心配そうに「あの子は何を目指しているのかしら」と仰っておいでですが、私、礼法を初めとして貴族に必要な事は完璧、既に一流で御座いましてよ、オホホホホ。
そう言えば、最初にあの方にお会いしたのは5歳の頃だったかと記憶しておりますが、今世でも同じように登城するのでしょうか……いえきっとそうなるのでしょうね。公爵家の令嬢としては随分と変わった生活を送っているという自覚は御座いますが、これは飽く迄も公爵家の敷地内のみの出来事。我が家から情報が漏れるなど考えられない事でしょうし……最初の社交デビューとして呼ばれますわね。
公爵令嬢として、一切恥ずかしく無い態度で挑みますわ。
ですが、出来れば第一王子との婚約なんて御免被りたいですわね、何か方法は御座いませんでしょうか……
『鍛え直す』のは決定事項ですが、考え物ですわね。