閑話 慕う花たち
「お母様……私、ヒルデお姉さまが心配ですの」
春の休暇の少し前、城の一室でレイチェルが母親である王妃メアリーと優雅にお茶をしていた。
そこで先日の事を相談しようと思って話をふった。
「あら、どうして、ヒルデちゃんに何か心配する必要ができたのかしら?」
「私、ヒルデお姉さまは兄上の事を好きなのだと思いますの」
思い違いかも知れない、だけどヒルデガルドは無理をして諦めているようにしか思えない。
ずっと小さい頃から姉と慕って一緒にいたのだから間違いではないはずとレイチェルは確信しているのだ。
「フフフ、だと良いですわねえ、そうすればヒルデちゃんが義理の娘に来てくれますものね」
「ええ、私もそう思って……茶会など噂があったら望ましいですねとお答えしていたのです」
「あらあら、まあまあ、流石私の娘ですわー」
「ですがヒルデお姉さまは自分は相応しくないとお思いですのよ?」
そう、全て我が兄の為にと行動して下さっているだけなのにどうしてかと疑問に思う。
「ウフフ、そうね、ヒルデちゃんならそう思っても仕方が無いけど……勿体無いですわねぇ」
「お、お母様は出来れば静観して頂きたいのですわ」
「あら、ひどいわねレイチェルったら」
「間違いなくヒルデお姉さまが警戒しますわ!」
「そうなのよねえ、あの噂もレイチェルが居なかったらきっと効果がなかったもの、オホホホ。でもレイチェル、最後はね、そういう思いも含めてアルフレッドが勝ち取るのが恋であり愛なのですよ、あの子も私の息子ですもの、それ位は出来る筈ですわ」
やはりそうだったのですねと思いつつも、その噂を自分も利用していたが為に攻められないレイチェルはガクッと首を垂れる事しかできなかった。
「後は……お兄様次第ですわ」そう思うしかないレイチェルだった。
母に相談はしたものの良い案もなく、下手をすれば暴走の危険があると諦めたレイチェルだが、姉と慕うヒルデガルドには幸せになって欲しいと願う事を諦める事はできなかった。
「緊急の秘密会議ですわ!」
「レイチェル様、これは?」
「秘密ですかっ」
集まったのはヒルデガルドを除く3人。
別にマスクをしている訳でも三角布を被っているわけでもない。
ヒルデガルドには聞かせられないと、一応の秘密会議と言ったのだ。
だが、彼らに聞こえるように告げれば、夜の妖精が聞いていてもレイチェルの立場からすれば一応は秘密扱いになる。
彼らにも協力を願う必要があり、そうなった時ヒルデガルドの為と判っていれば頼みやすい。
レイチェルは妹デシとしてヒルデガルドの強かさを、そして何より王妃の血を十二分に受け継いでいた。
この日、一体何が話し合われたのかは記録に残っていない。
一人の女性が差し入れた、仄かな紅茶の香りと、甘いケーキの匂いだけがその部屋に残っただけである。