紛らわしいですわ
ジャンヌのお祝いも終わり、正式に婚約が決まった後の事ですわ。
「ヒルデ嬢、少々時間を頂けないだろうか」
「何で御座いましょうか、少しでしたら問題御座いませんが、同好会へ行くまでで宜しいですか?」
「ああ、構わないよ、すまないね」
その頃には気持ちの整理も付きまして、こうしてアルフレッドと会話ができるようになっていたのが始まりでしたのね。
今思い返しますと……
少し考えれば内容など直ぐに察せられましたのに。
「ああ、荷物は私が持とう」
「あ、有難う御座います、それで殿下、お話と言いますのは?」
「うん、その……ヒルデ嬢、私には貴女が必要なんだ、私を助けると思って私を支えてくれないだろうか」
……
……
……ハッ?
今なんと仰いまして、私の耳は遠くなりましたの?
私、今でもあの時にうろたえてしまった事を後悔しておりますの。
ええ、それはもう見事に焦っておりましたもの。
後悔もですが悔しさも……
ああ、もう憎らしいですわ。
「……以上を卒業される皆様へと送る言葉とさせて頂きます、生徒会会長アルフレッド・ジュエル・エルドガルド・ローゼン」
中々見事な送辞で御座いましたわ、アルフレッド殿下。
聞いている場所がこの壇上でなければ、心からのお祝いを述べたい所でございますわ。
私が何故壇上で、しかも今アルフレッド殿下の横に立っているのでしょうね。
ホホホ、そうですわ、あの告白のような科白、あれには続きが御座いましたのよ。
「以前言われた事だが……私にはまだまだ足りない所がたくさんある。だが王太子として将来この国を導いていく人間になるには学ばなくてはいけない事が多々ある。貴女は私にそれを教えてくれた」
……余りにも鮮明な記憶になってしまって一言一句思い出せるようになりましてよ!
「二度と耳に届かぬようと言われた……だがしかし恥を忍んで敢えて頼みたい。どうか私を支えて生徒会の副会長の役職を引き受けてはもらえないだろうか」
卒倒しなかった私を今の私はそこだけは評価致しておりますの。
「殿下……まずはお顔を上げて下さいませ。それよりも副会長でしたらバートレット様かクリストフ様、デイヴィッド様、そしてエルリッヒ様がいらっしゃるではありませんか」
「勿論彼らにも別の役職には付いてもらうつもりだ、だが副会長の役目はどうしても貴女に頼みたい。いや、貴女でなくては勤まらないだろう、皆には執行部と兼任して、バートレットには既に会計を頼み、クリストフには書記、デイヴィッドには庶務、そしてエルリッヒには風紀を頼んでいるのです」
根回し、そしてその才能にあった振り分け……
全てが考えられておりますわね。
まさか全てを埋めてからこちらへ話を持ちかけてこられるとは、私としては副会長以外なら何処でも構いませんが、庶務か風紀が望ましかったのですけれど、選りにも選ってそうきますか。
「アルフレッド殿下、問題御座いませんわ。『二度と耳に届かないように』と申し上げたのは立場を考えない思いつきや行動のお話で御座いますの。不肖の身では御座いますがこの私ヒルデガルドで宜しければ、そのお話お受けさせていただきますわ」
「良かった、君に断られたら如何しようかと思っていたんだ」
ええ、告白だと思い込み、非常に恥ずかしい思いもしましたが、精一杯頑張りますわ。
オホホホ……
これが全てですわ、無様ですわー。
「アルフレッド殿下、お見事に御座いました」
「私の記憶にはあの挨拶が鮮明に残っています、ですからヒルデ嬢が常に目標でもあるのですよ」
「お恥ずかしい限りで御座います」
あの、皆様方……
その会話に入れないというような空気では決して御座いませんので、幾らでも参加して頂いて宜しいと思いますのよ?
特にレイチェル様は何故満足気なのでしょうか。
これは生徒会でしてよ?
卒業式を終えた後に臨時執行部員として手伝いに来ていただいている皆さんとお茶会になりましたが……
大変居心地が悪いのです。
微笑ましい光景というのは、あちらのデイヴィッド様とジャンヌの二人では?
互いに手を繋ぎながらも微妙な距離をとりつつ目を見詰め合っておりますわよ。
親友である私が揶揄う訳は御座いませんが……
初々しい二人、数ヶ月立ちましたが未だにこの状態ですもの。
フフフ、目の保養になりますわ、二人が揃うとキッと凛々しいジャンヌが見事に花になりますのよ。更に続きそうですものね。
「では休みを過ぎたら次はその入学式ですね、殿下」
クリストフが言った様に、新年度を迎える為の学校の都合や編成の為に春の休暇が少し入りますが、入学式となりますのね。エーリカの弟なども入学しますし、あの皇国の皇太子殿下も留学されますわ。
少々気を引き締めて参りましょう。




