今更ですわ
犯人はレイチェル様でした。
レイチェル様……
まさかのお義姉さま願望でこんな事態になるなんてっ、想定外ですわ。
アルフレッド殿下は、その顔も悪くありませんし、少々頼り甲斐……はデビュタントの時はありましたわね、傲慢でもなくなっておりますし、家格は当然のことながら釣り合いまして、あの方の方が上……
誠実さは……
夏季休暇で快くお手伝い下さいましたし、浮ついた噂など全く聞かないと言いますか、噂の対象が私のみですわね。
まあ剣の腕などは直接は知りませんが夜の妖精の報告ではそれなりと聞いておりますし、王太子という立場からすれば十二分に努力なさっておられます。
甲斐性は王族の方ですし。
そう言えば細工の腕も悪くありませんわね。趣味と言う面でいうと……
同じような事をしておりますから、と言いますか私が趣味を植えつけたといいますか。
あら?
いえいえいえいえ……確かに理想的なお相手ですけども。
え!?
さ、流石に今までのご無礼の数々が御座いますわよ。
そうです、私前世では確かに王妃になるべく日々を過ごし、王妃様を目指す努力を続けておりました。
ですが……
今世だけでも思い返すに、最初の紅茶事件から始まりまして、茶会のお誘いやら、生徒会長の件、夏季休暇の件は一言では言い表せませんわね、そう魔法文化祭の件もございましたし、デビュタントからこの夜会などのエスコートの件など……オ、オホホホホホ。
やっておりますわ、見事なほどにやっておりますもの。
「レイチェル様、私いま思い返しただけでアルフレッド殿下のご婚約相手など到底無理だと思い知りましたわ、どうか諦めてくださいませ、本当の義姉になることは叶いそうも御座いませんわ」
「ヒルデお姉さま?」
「いえ、思い起こすだけで少々眩暈が……何と言いますか、その立場を目指す淑女ではありえない行為が続きすぎておりますから、ええ、目指しておりませんでしたので問題は御座いませんがその立場に立つ事は叶いませんの」
確かに、前世ではいつか王妃様の思いを受け継がれて立派な方になられて素晴らしい王になる筈とお慕いし続けた事もございます。ですが今世では立派になられるように私が仕向けてまいりましたもの。
たとえ立派な王太子殿下にアルフレッド様がおなりになろうとも……
「少々席を外しますわ」
「お姉さま」
「レイチェル様、今は……そっとしておきましょう」
「ですがっ」
「大丈夫ですっ、レイチェル様、お姉さまですもの信じて待ちましょう」
有難う御座います、ジャンヌ、エーリカ……
庭園を散歩して一人でゆっくりとしておりました。
そうですわ、私逃げておりましたのね。
恋がしたいとは言っておりましたが……
誰かに告げておりませんわね。
失った恋をもう一度失うのが怖かったのです。
今のアルフレッド殿下は勿論でエーリカも全く違いますわ。
王太子殿下として立派になられておりますし、考えは少々甘い所は在りましても実直な考えをお持ちですもの。そうですわね、夏季休暇なども、もしかしたらなどと心の隅で思っておきながら怖かったのです。
知ればまた失うかもしれませんのよ。
もう一度……失うのだけは嫌。