夜会ですわ
「招待状で埋もれてしまいますわっ」
「デビュタントで目立ったからな……同じくだ」
「ウフフフ、お姉さまにですもの当然ですわ」
「そうですよ! 当然ですよっ!」
ええ、見事にデビュタントを飾った私達は一部で『紅い薔薇』『月下の百合』『輝く牡丹』『小さな芍薬』などと言われておりますのよ……
私だけが何故か危なそうですわね。
その様に別の呼び名を頂く程に人気が出ているという事なのですが。
その分週末は金、土、日と全てが舞踏会、晩餐会、のお誘い状態。昼は懇親会や茶会が目白押しとなりそうですの。
家格の関係で私とレイチェル様が断れてもジャンヌとエーリカには厳しい所からのお誘いも御座います。
茶会ならば全て出るのも問題は御座いませんが、舞踏会や晩餐会はそうも参りませんわ。
本来は実家で受け取って家令に頼めば済むのですが、一度全員で持ち寄ってみましたらこの有様ですの。
「ま、先ずは受けなくても構わない家より、受けるべき家の予定を抜き出しますわ」
「ふむ、良かろう」
「それから、同日のお誘いの分をお断りいたします」
「判りましたわ」
「問題は全部が同じようになるかどうかですわね」
「今のところは全部同じですっ、あ、でもこの日は……避けられませーん」
このようにして取り合えず整理をしましたが、どうしても月に一二回程だけですが別々に為らなくては駄目な招待が御座います。
私かレイチェル様が付いていれば問題は御座いませんが……
「もう一度あの方々にお頼みしましょう」そう決定するのに時間は要しませんでした。
「勿論喜んで!」
アルフレッド殿下は喜んで下さっているので問題無しですわね。
喜んでる?
……大丈夫でしょうか。
「エスコートですか?」
バートレットも引き受けて下さいました。
少々疑問系なのはこの際致し方ございませんわね。
お兄様が仕事で忙しいときなどレイチェル様をお送りできるのは貴方だけですし!
常に私のエスコートがアルフレッドでしたら確実に王妃様に埋め立てられますもの。
「構いませんよ」
デイヴィッドは快く引き受けてくれました、ええ、ジャンヌを任せられるのは貴方しかいないのです。
最初から逃がすつもりは御座いませんのよ。
デビュタントでの噂は一番でしたもの。
絵から切り取った景色のようだと噂になっておりましてよ。
「芍薬の令嬢をエスコートしたって最近は言われ続けですよ、ハハハ」
ええ、クリストフはデビュタントで見事にエスコートしたことで株をあげましたものね。
引き続き宜しくお願いしますわよ。
貴方の見事な会話術ならばエーリカも安心ですわ。
「私も宜しいのですか?」
エルリッヒも勿論と言うよりも当然です、貴方達って基本5人組みではありませんか、順番に回っていただきますわよ。
余りに特定の令嬢と居すぎるのも互いにとって噂を立てられる元になりますもの。
そもそもが貴方も騎士を目指すのですからエスコートも完璧にならないとなりませんわ。
これで男性のエスコートは私のお兄様と含めれば完璧ですわね。
他の女性の友人も数名お願いしましたし、常に私共が一緒にいるイメージを持っていただければお誘いも均一になると言うものです。
早めにジャンヌとエーリカの食事のマナーと懇親会でのマナーなどをチェックしませんと……
あれだけ気をつけて噂に注意しつつ、エスコート役を変えましたのに……
どうしてアルフレッド殿下と私の婚約話が話題に……
数ヶ月が経ち夜会や茶会を幾度もこなしてきましたわ。
ええ、問題も起こしておりませんでした。
ですのに、何ですかこの噂は!
アルフレッド殿下にも宜しくありませんわ。レイチェル様の親友として親しくして頂いていますが、云わば親友のようなもの。あの方を鍛えて立派な王太子にしなくてはという立場で接し続けているような、そんな私と噂になってしまうなど良くありませんわ。
下手に公爵令嬢が相手などと言われれば婚約にも差し障りますのに。
「困りましたわー」
「如何なさいましたのお姉さま?」
「レイチェル様……困りましたの」
「はぁ」
「噂がなんだか消えなくて、私王妃様の策謀かと……」
「あの、それってお兄様とお姉さまの件でしょうか?」
そうですのよ、本当に消えませんのあの噂。
寧ろ肯定する勢いなのですけれど、何故でしょうか?
「わ、私お姉さまが本当のお義姉様になってくださると嬉しいのですわ」
あ、あら……
レイチェル様どうなさったのですか?
「レイチェル様?」
「そ、その本当のお義姉様になって頂きたくて、聞かれましたら『そうなると嬉しいですの』と答えておりましたの……」
なぁ!
レイチェル様ぁ……
犯人はレイチェル様でした。




