探しますわ
懇親会や茶会などに赴きますと偶にですが王太子殿下とのご婚約は?
などという事を問われますの。
王妃様が早く諦めて下さるか、別の方と正式に王太子殿下がご婚約為されればいいのですが……
まずは王妃様ですわよね、王妃様が私を気に入っておられるのは知っておりますの。私も王妃様を目指しておりますから、この髪型はその意思表示ですもの。
王妃様と巻き方についての議論をしたことも御座いますのよ!?
ええ、私の自慢ですの。最近ではこの巻きを態と緩めにしてみたり、大きさを変えてみたりと色々と王妃様と試しておりますのよ。特に緩くしてふわっとした仕上げにするのはレイチェル様にものすごく似合いましたの。残念ですがジャンヌはツインの大振りなものも緩フワも駄目でしたの。
確かに男装の格好ではちょっと変ですものね。
外巻きも試しましたが怪しい音楽家になりましたし、緩く内巻きにしておくか後ろで束ねるのが彼女にはピッタリですもの、仲間に出来なくて残念ですわ。
そのかわり、エーリカが新たに緩フワの仲間入りをしました。どうやらレイチェル様に憧れておられたようですわ。フフフ、顔を真っ赤にしてましたが、似合ってましてよ。
縦ロール仲間が増えないかしら……
いけません話が逸れております。
とにかく王妃様が諦めないかぎり私に恋が訪れませんの!
まだ問題は解決しておりませんが、私にも恋のチャンスはある筈ですのよ。
……え、有りますわよね?
婚約者が居なければもしかして駄目なんて事は……
なんて言いますか、学校では畏れられておりますから無理だとしても、ほら、お兄様関係の軍の方とか!
世の中の半分は男性の方なのですから、私に恋する方が一人ぐらいはいらっしゃいますわよね。
流石に同性は結婚できませんし。
ああ、なんでジャンヌが男ではなかったのが残念だとは思いますのよ。
揶揄い甲斐があって、剣の実力に優れ、常に努力を怠らず、競い甲斐もあり、趣味も悪くなく、誠実で友のために必死になる、一緒に居て楽しい、なんて好条件なんでしょうか。揶揄い甲斐があるなんて最高ですわ。なによりも面倒がないのが最高ですのに。
お兄様を抜きにして異性であれば……
私の相手が居ないっていうのも納得ですけれど、酷い話ですわ。
唯一の候補が女性ですかっ。
奇妙な薬が落ちていたりしませんか?
男装はしてますが男性ではないですしね、まあ、でもこう冷静に考えますと、やはりジャンヌが女性から熱を上げられるのも致し方御座いませんのね。
まあ、難しい刺繍をこうして教えていると指先と頭が付いてこなくなって糸が縺れるような女性ですけどね、フフフ。
「どうかしたのか? ヒルデ、なんだかボーっとしているぞ」
「え、ええ、ジャンヌは女性に言い寄られてますわねぇと」
「なっ、一応騎士は目指しているし、女性っぽくないが、これでも女子なんだぞ」
「知ってますわよ、だからこうして特訓してるのですわ」
ジャンヌもある意味苦労しますわね。
はぁ、お兄様のような男性ですか……
王太子殿下も抜けている部分が無ければ成長なさいましたのに残念な所が出てきますのよね。
「ジャンヌ様もそうですが、一番憧れを抱かれている対象はやはりヒルデガルド様では?」
「ウフフ、有難うございますエーリカ様、ですが宜しいのです、私のアレは畏怖というものですわ」
「そ、そうなのでしょうか?」
そうなのですわ、ええ、最近お気に入りでしたレモン風味のレアチーズケーキ、プディングに続いて私の好みのデザートがまた学食で購入する前に消えますのよ!
お陰でプディングは食べれるようになりましたが……
あれは畏怖の裏返しですわ。
「最近はレアチーズケーキが被害に遭いましたのよ……」
「レアチーズケーキ! 美味しいですよねっ」
「エーリカ様、もう少し落ち着いて下さいませ」
「ハッ! 失礼いたしました」
「いえ、そのお気持ちは判りますのよ」
小うるさい様ですが、先日ダリア・ランドクリフ家にご挨拶に伺いまして色々とお話させて頂きましたから、エーリカ様には慣れて頂かなくてはなりませんの。
「弟の件といい助かりました……」
「いえ、お気になさらないで下さいませ、力になれる事だったまでですし、友である方の身内の事ですわ」
他国から狙われる可能性があるのはエーリカ様の弟も同じ事、であればスカーレット領で教育を受け持つという名目で保護が可能ですもの。幸いにして我が家の名声がありましたから快くお話を受けて貰えましたし、ジョセフ様も魔力の才能は高いのですから鍛えれば一流の騎士になれますわ。
「……ヒルデ様!」
突然如何されましたか?
がしっと両腕を私の手に添えて握り締められております。
男性にしてはいけませんわよ?
これは確実に男性が恋に落ちて頷くだけの攻撃力が御座いましてよ。私が女性ですから問題は御座いませんが、これがエーリカ様の素直で積極的なところでもあり、無防備な所でもありますわね。少しずつお教えしなくてはいけません。
「はい?」
「レイチェル様と同じように私もお姉さまとお呼びしても宜しいでしょうか!」
「え、ええ、同年代でも構わなければ私は別に……」
別に問題は御座いませんが、そんなに気合を入れなくても宜しいのですよ?
少々こそばゆい感覚は御座いますが慣れておりますし。
しっかりと手を握られておられるということは緊張なさっておられたのですね。
大丈夫ですわ、私が居る限り他国には狙わせませんわよ!
「本当ですかっ! その、私貴族の中の貴族の振る舞いとしはぅ」
「あの? エーリカ様?」
あら、どうしたのでしょうか……
緊張のあまり気を失われたのですね。
「気を失っているぞ……」
「あら、新しい姉妹が出来ましたのに……」
「興奮しすぎたのかも知れませんわね」
そうですわね、レイチェル様の妹分でもありますわ。
フフフ、姉妹が増えるのは悪く御座いませんわね。
少しお転婆ですが、真っ直ぐですもの。
さて、私よりもこの役目はジャンヌですわ……
「暫く寝かせておこうか……」
「ジャンヌお願いできまして?」
「ああ、任せてもらって大丈夫だ」
やっぱり男前ですわね。
口に出来ませんが、完璧ですわよ、フフ、ククク、いけませんわ、余りに適役ですわ。
はぁ、勿体無いですわ……