知古を得ましたわ
衛生兵! 衛生兵ー!
と、混乱はしましたが、原因は抱きかかえた瞬間に判りましたの。
これはコルセットの閉めすぎだと。
気付けのハーブを嗅がせれば問題もなく起きられるでしょうが、かなり無理をしていた様子。
カウチソファに横たえるようにと抱きかかえて寝かせましたの。
「いや、吃驚したな」
「ええ、突然血を流されて倒れられては驚きますわ」
「かなり珍しいですわ、お話をお聞きしないと判りませんが、何か理由があるのかもしれませんわね」
都合よくカウチソファが置いてあってよかったですわ、舞踏会用に使うのでしょう、とてもシックなデザインですが作りが細部までしっかりしておりますもの。
「……ぅぅ」
「お、起きたようだな」
「お気づきになられましたか」
「良かったですの」
ええ、原因は何であれ気絶までされたのですもの……
それにこの方はあの毒婦ではないと確信のようなものもございますから。
「わ、わわわ! すいませんご迷惑をおかけして」
「構わないわ、エーリカ様、そのコルセットですが、何か理由がございますの?」
まあ原因ですから多少恥ずかしい話でもお聞きしなければなりません。
男性もおりませんし、問題は御座いませんでしょう。
そうすると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめて事情を説明してくれました。
「これですか……その大変お恥ずかしい話なのですが、私、生まれは商家でして、気がついたら何時の間にかダリア・ランドクリフ子爵家の養女に迎えられていたのです。それで3ヶ月程前から貴族としての嗜みを修めるためにとこのコルセットや食事など色々と……」
私の知りえた情報が殆どでしたが……
本人から齎されますと夜の妖精の優秀さが判りますわ。
しかし彼らといえど、まさか令嬢がコルセットで悩んでいる事は掴んでおりませんでしたわね……
ええ、きっとそうですわ、余りな内容だからと気を効かしたなんて、ないですわよね?
都合よく、カウチソファがあったり、気付け薬があったりしたのは偶然ですわ。
すこし私が倒れそうですが、それは後程お聞きするとして。
「まぁ、随分古い仕来りを……今のスタイルからは随分離れた考えですわ」
「え、そ、そうなのですかっ、コルセットは基本で、女性の腰は細く常に可能な限り締め付けないととお婆様が……」
なんというかもの凄く古い考え方ですわ、一世紀とは言いませんが主流では御座いませんもの。
驚かれるということは徹底的に教えられておられますのね。
お年を召されたご夫人で社交界から遠のいておられれば、さもありなん。
「今のスタイルはそういう服は流行りませんもの……それに様々な調査からコルセットでの無理な締め付けが悪影響を及ぼすと結果がでましたから、姿勢の矯正や体型の維持に使われる事は御座いましても、細く閉める為などではもう用いておりませんわ」
「えええ!」
驚かれたでしょうが、それが現実ですの。
もうコルセットの時代は終わりましたの……
一部には需要が御座いますし、必要な場合もありますが、今は補整、もしくは補正下着の次代ですのよ。
それも必要な部分に合わせて物が違いますの。それに下着に頼らないでエクササイズやエステを活用して体型を美しく綺麗にしていくのがメインストリームですのよ! 運動>食事>下着なのですよ。
「フフフ、宜しければ私の方からその旨をお伝えいたしましてよ、ジャンヌも私と共に礼儀作法の勉強中ですし、一緒に学ばれるのも悪く御座いませんわ」
「ヒ、ヒルデ!?」
ジャンヌったら何を今更……
貴方の男装の麗人としての素晴らしさは表面、今後良き殿方を見つけた後の為にも礼儀作法の部類などまだまだこれから鍛える必要があるのですからね。私の代わりに幸せになって頂きますわよ。
「ジャンヌ、令嬢としての振る舞いを身に付ける仲間が増えたほうが楽しいでしょう」
「まあ、それはそうなのだがっ」
「お姉さま、ジャンヌは照れているのですわ」
「レイチェル様ぁあ」
あら、そうでしたの、まぁ。
本当に外見と中身が違うのですから可愛いですわね。
微笑ましいですわー。
「「フフフフ」」
「え、えっと宜しくお願いします?」
こうして新たな仲間を迎えて魔法小物同好会は活動を開始致しましたの。
あら、エーリカが私と親友になれば問題も解決では御座いませんか……
違いましたわ、彼女を守る事が今後の鍵となりそうでしてよ!
忘れておりましたがどうして鼻血まで……
ああ、きっとコルセットですわね。




