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乙女転生―悪役令嬢REPLAY―  作者: せおはやみ
REPLAY―学園悪役令嬢編―
42/75

閑話 友情

 アルフレッドは日夜『趣味作りに協力』する日々を送っていた。

 無理と非常識の末に『協力』という条件の下で、滞在を許された結果だった。

 ただし、本人は喜んで協力に打ち込んでいる。


 昼はイミテーションフラワーやボトルシップといった工作作業。基本的に指導者付きの作業なのだが、時折妹やその友人も伴ってヒルデガルドも訪れる。

 偶にの外出かと思えば乗馬のコースの下見や狩場の視察。外出なら一緒に行動する事も多かった。

 夕食後にはサロンで団欒かと思いきや、遊戯板を使ったゲームでやり込められるか、遊戯室での新種の遊びの体験をして過ごす。負ければ悔しいだけになんとか勝とうと頑張るが未だに一勝もしていなかった。

 容赦の無い扱いであったが、言質を取られているだけに協力は絶対条件である。そして最初に述べたとおり、嫌がっていない。


 『恋の盲目』とはよく言ったもので、アルフレッドは満足していた。こんなに長時間彼女と過ごしたのは初めてだとさえ喜んでいたのである。

 その喜びの余りに完全に失念していた。

 自分が抜け駆けに近い形でこのスカーレット領に居る事を……


 後から彼らを招待できるようにと取り計らったのだから、抜け駆けと言うよりは足がかりを作ったとも云えなくも無い、然しながら、裏切り行為と言われても可笑しくはない行動でもあった。何よりも本人が友人達が到着するまでに幸せを噛み締めるほどに幸福だったのだから。




 そして数日後。

 アルフレッドの親友達が『王太子殿下と共に夏季休暇を取る』という名目でスカーレット領へと訪れた。


 彼らもアルフレッドからの知らせを受けた後を追う形で訪れたかったが、実家が優秀だった。

 まず問い合わせも先触もせず訪れるという、不躾な真似を公爵家に対して出来ないと判断した各家の判断によって最初に問い合わせがなされた。各家の使者がスカーレット公爵家へと訪れて滞在期間と王家の居る状態での部屋割りなどについての協議され諸事が決定していく。

 そもそも『夏季休暇はデルフィニウム領で過ごす』という予定からの急遽変更となる。デルフィニウム公爵家としても面子と言うものもある訳でその辺りの調整にも時間を要した。


 アルフレッドが考えていた事が可笑しいのであって、これが通常のやり取りである。故にこそ、アルフレッドがとった行動は抜け駆けであり裏切りと親友から思われても致し方ない事になる。正式な手順を踏んで訪れる事が出来ないなど在り得ない立場なのだから、全員で揃ってスカーレット領へと赴く事も可能だったのだ。




 ともあれやってきた彼らが驚いたのはアルフレッドの日常であった。

 アルフレッド本人は大いに満足してるのであるが、何かの修行でもしているのかという光景が訪れた彼らの目の前で繰り広げられていた。

 案内されて訪れたそこには、一心不乱に木を掘り続けるのアルフレッドの姿があった。


 先行したアルフレッドに何があったというのか!?

 驚愕と心配から声をかけるのだが……

「アルフレッド?」と声を掛けても只管ひたすらに木に刃を立て続ける。

 何かに真剣に打ち込むと周りの音が聞こえないというのは多々ある事だが、小さな櫛のような物を一生懸命に彫る姿は鬼気迫るものがあった。


「「「アルフレッドォ!」」」

「ん? おお、皆よく来たな」


 心配になってついつい全員が大声を上げていた。あまりの様子に抜け駆けした事への質問すら全員が忘れていた。だがアルフレッドから帰ってきた言葉は気が抜けたような物だった。

 彼らが暢気なアルフレッドを問い詰めたくなるのも無理は無い。

 あの黙々と作業を続ける光景は、彼らに少しの羨望と尊敬を生み出していたが微妙なその心の変化に誰も気が付かなかった。


「それより何してるの?」

「これか! フフこれを仕上げてヒルデ嬢へと捧げようと思っているんだ」

「はぁ?」

「どういう事だ」

「詳しい説明を聞こうじゃないか、ハハハ」

「可愛いですね殿下、確かにヒルデ嬢に似合いそうですが……」


 全員が一斉に詰め寄ったのは云うまでもない。

 抜け駆け禁止の男の約束は如何したんだと……

 

 全員が見事に趣味作りへの協力を申し込み、アルフレッドと同様の日々を送ったのは当然の結果だった。





 数年前。

 アルフレッドの学友、資質を考慮して選ばれた同じ年頃の少年達、家柄より振る舞いなどが考慮して選ばれた。最初は十数名だったが、徐々に人数が絞られて3人が残り、今の5人に落ち着いた。

 学友が親友となったのには訳があった。

 全員がヒルデガルドに打ち負かされていて、そして恋をした結果、己を高める努力を続けていたからだ。


 恋のライバルにも関わらず親友となりえたのにも原因があった。

 マティアスの存在。

 5歳程年上の天才として有名な人物。

 剣、魔法、礼儀、何れも優れ理想の騎士になるだろうと言われる少年。

 そんなマティアスに壮絶な微笑みを向けられた過去が全員にあった。

 近しい年の中で最高の男子と名高いマティアスこそがヒルデガルドの兄であり、そして彼女の理想と知ってしまった。

 話は5人が互いに思いを抱く相手を告白したころ……

 アルフレッドの情報が全員に衝撃を与える。

 ヒルデガルドの将来の相手についての情報だった。

 恐らく公爵家はヒルデガルドの結婚相手は自分で選ばせるだろうというもの。

 通常では在り得ない話。

 ヒルデの理想については確かに母がそう聞いたと……

 少年時代にこの情報は衝撃的だった。

 彼の天才以上の男でなければ駄目とは厳しい条件だと全員が思った。しかし恋する少年達は諦められなかった。敵わぬ程の相手がライバルだとしてもそれは兄である。ならば望みはあるじゃないかと。

 互いに切磋琢磨しあうことで頑張ろうと誓い、誰が選ばれても恨まず祝福し合おうと誓い合う。もちろん抜け駆けを禁止しようというのは当然含まれていた。


「「「「「全てはヒルデガルド嬢への愛故に!」」」」」

 恋心と合言葉を胸に……

 立派に成長している彼らは普段とても優秀だった。

 にも拘らずなぜかヒルデに対しては格好がつかない。

 だが、ヒルデガルドに関して空回りしているのは彼らにだけ責任があるのではない為に、まさに喜劇としか言い様がないのだけれども彼らは知らない。

 知らない事もまた幸せだった。


 彼らは夏季休暇が終わるまで、一緒に過ごせる幸せを喜びを噛み締めながら『協力』を続けた。

 少しの心の変化を感じながら……


 5人の少年が今日も仲良く一心不乱に作業を続けていた。

 恋する相手に最高の手作りの品を渡すという目標を目指して。

たまにの外出→『偶にの外出』と『恋の盲目』は敢えてそう表現しております


 

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