休暇ですわ
試験も終えて、夏季休暇となりました。
帰省する方々と同じように、私も今回は王都で過ごすのではなく、避暑を兼ねてスカーレット領へと向かいますの。
公爵令嬢ともなれば馬車数台を含めて使用人を引き連れての移動が当たり前。
その一行自体が家格を示すとされ、旅程を楽しみ、各地を訪問するのが普通でございますわ。
ですけれど、私にそんな暇ございませんの。
ええ、名目こそは『避暑で王都より涼しい公爵領へ』ですが、実際は化粧品開発に関して現地指示でしてよ……
後はそうですわね、慰問という名のついた退役軍人への訪問。
こちらは退役軍人の方々という鍛えられた肉体と精神を持つ方々を、事業に勧誘するという役目が御座いますの。
孤児院への慰問と言うのも、忙しすぎて労働力が不足している今、意欲ある若い労働力を確保するという狙いですわ。
それ以外も訪問と云う現地視察……
途中の旅路を優雅に過ごす?
何処のお姫様でしょうか。
無駄で御座いますわ!
公爵領へは重要地域となっておりますから勿論転移門がございます。
ええ、優雅など云っている暇があれば、日々の内職を逃れる為にも積極的に活動致しますわよ。あのギラッとしたサロンのご婦人方からもご要望が高まっておりますから、使用許可など即座に頂けました。奥様に恨まれたくない官僚の方々の方針としては当然だったので御座いましょうが、大丈夫で御座いますか、時にはスイーツなどお持ち帰りに為られた方が良いかと思いますの、ええ、新作もございますから。
「これなど、ご夫人にもお嬢様にも喜んで頂けますわ」と、ご紹介しておきましたので、きっと喜ばれる事でしょう。それに私自身がこちらの施設にはご厄介になっておりましたし。
ボンボワール夫人の旦那様でしたわね、それでしたら知り合いとしてこのチケットをお渡ししても問題は御座いませんでしょう。
「これは」
「奥方様とお嬢様にお渡ししてくださいませ、日頃お世話になっておりますの」
「いいのですか!?」
さすがサロンを開かれているご夫人を持つ子爵だけありますわ、そのチケットの価値をお分かりになりますか。
お渡ししたのはアンチエイジングエステ2号店として開店したリラクゼーションスパの優待券ですもの。地下深くから湧水を汲み上げてのスパと海草やヌカなどお好みに合わせた全身パックとマッサージ。
美容と健康を考えた食事をして頂く昼から翌日までの宿泊プランのみの専門店。既に一つのサロンとしての役割を果たしておりますが高級店としておりますものね。
「ええ、有名なボンボワール夫人とお嬢様にお使いいただければ幸いですわ」
「有難う御座います」
転移陣を抜けましたら、そこは公爵領施設。
国内専用の転移陣とは言えど悪用されないように管理されております。
「お帰りなさいませお嬢様」
「ありがとう、では早速いきましょう」
こうして私の夏季休暇という仕事が始まりましたの。