道理ですわ
調査結果がでました。
信頼する夜の妖精からですもの……
――情報操作、その他工作の可能性は無し、策略、謀略に関してもないと思われる。
可能性は内部の生徒による噂話程度を広める方法しか残っていない。
よって本件はヒルデガルド様への畏敬の念の上での行動と判断する。
要因と見られるのは茶会での王太子との振る舞いも含まれるが、それよりも、化粧品を扱い、大手サロンの夫人達と既に懇意である事や、助言、アドバイスなどの……――
……
ええ、一応はレイチェル様からもジャンヌからも言われておりました。
ですがあの態度で?
……
成る程ですわ、畏敬とは良くも言ったり見抜いたり。
流石は夜の妖精。的確な表現と観察力でしてよ。畏れ敬われているという事ですわね。
――もしも夜の精霊の報告書作成者が知れば、こう叫んだ筈である。「お嬢様、曲解に過ぎます」と。
しかし、この内容に関して誰一人として助言者は居なかった。
敢えて言うならば、レイチェルやジャンヌが告げていたが、奇妙に噛み合った歯車はそのまま回転していく――
でも、避けられていると言うわけで無いのなら構いませんわ。話しかければ答えて下さいますし。様々な要因の下にこの事態があるのでしたら受け入れなくてはなりませんわね。
これまでどおりに過ごせば良いだけの事。
ですが私に平穏が訪れる事は無く、見事に嵐へと突入いたしましたわ。
「と言うわけで、君に次期生徒会長になって欲しい」
私の前に現れたのは現生徒会長とアルフレッド殿下。
お待ちなさい、アルフレッド殿下、なぜ貴方がそちら側で、しかも私に進めておいでなのですか。
ええ、畏れ敬われているからこそ、そういった話をもってきて生徒会の力にしたいのはわかります。
ですが御二人とも根本的に大きな勘違いをされておられますわ。
そして私の事も全く判っておられませんわね。
理解されるでしょうか……
「失礼ですが私などまだまだ若輩の身ですし、生徒会の内容を把握しておりませんわ。こういう事は人を率いる方が経験を積まれた上で為さるのが本来の筋、上級生の方がいらっしゃいますでしょう。もしくは、そちらにいらっしゃいます王太子殿下など、上に立つべき地位に居られる方を支える体制を作るべきではございませんか?」
「これは参ったね、想像以上の方なようだ。勿論それが正論的な物ではある。だからこそ経験を積んでもらう為にスカウトに来たのだが」
生徒会長を務められているだけありますわね。諦めが悪いですわ、しかも悪びれない理解してない顔です。
殿下は若干まだ、見所がありますでしょうか。私の言ってる意味を考えておいでのようですわね。
しかし、私、最高に忙しいですの。
その辺りの情報収集はまだまだですわね。
「そもそも……」
少々キツメに言わせて頂きますわよ。
パシンとセンスを鳴らして一睨みすれば、何に対して強くお話をしているか、お分かりになりますでしょうか?
アルフレッド殿下が、そこまで成長している事を望みましょう。
「まずは殿下です、貴方が生徒会長になるべき案件ですのに、何を首を縦に振って頷いて居られたのでしょうか」
将来の王となる王太子でありながら他人を生徒会長に押す事に同意するとは何事ですかっ。
「我ら臣が君になりえる事はございませんのよ、お分かりに為られて居られる上でしょうか? そちらの笑顔の生徒会長、貴方もですわ。敢えて言わせて頂きましょう、正気ですかと。本来なら仮に殿下が言い出しても御止めして体勢を整えるべき立場にも関わらず、なんですか先程の物言い、余人を交えていないから良いものの、衆人環視の中であれば大事になりましてよ!」
殿下にセンス(武器)を向ける事は出来ませんが、この愚かな男ならば構いませんわ。
「いや、それはそうなんだが」
「そうお思いでならば、反対されようがご要望があろうが、ご説明差し上げ納得してもらうまで、道理を説きなさいませ。私はこれで失礼させて頂きますわ。そして二度と耳にも届かぬ事を願っておりますわ」
ええ、決して忙しいだけでは御座いません。
『王太子殿下を支えて貰えないか』という打診であればお引き受けしましたでしょう。
ですが、私を生徒会長にするというのは学校の法は通りましても、私の道理も貴族の道理も『学生の甘えで無理を通す』考え程度では捻じ曲げる事など叶いませんわ。
出直していらっしゃいませ。
成長は為さったとお聞きしておりましたのに……
残念でしたわね。
この件はあの方にご相談だけはしておきましょう。
フフフ、耳に届かないのであってお伝えする事はございますわよ。
勿論、全てをそのままお話するのではありませんが。
ええ、確りと何が道理であるかを教えてくださいますでしょう、オーッホッホッホッホ!