感謝致しますわ
次々に浮かぶ走馬灯。
ああ、入学前にお父様に誓った言葉。
お母様から頂いた励ましのお言葉。
そして婚約者だった方と最初にあったあの時の事。
長年従者として使えてくれた者達。
初めて魔法を使った時の事。
妹や弟達が生まれた時の感動。
兄上と遊んだ記憶……
これは……そう生まれた時の記憶かし……ら。
「オギャー」
そうそう、聞いたお話だと、こんな風にお母様が優しく抱いてくれて。お父様が飛び込んできて……
「でかした!」
「ウフフ」
「可愛い女の子だ。きっとママに似て美人になるぞ」
「まあ、貴方、気が早いわよ、まだ生まれたばかりなのに」
「何をいうかこの髪、眼の色、そして溢れている魔力、どれをとっても君其のままだよ」
「まあ、貴方も同じなのに可笑しいわ、ねー、赤ちゃん。貴女のお父様は早速親馬鹿になってるわー」
そうですか、このように愛されていたのですわね。先立つ不幸をお許し下さいお父様お母様、ですがあの国を滅ぼす毒婦の始末に関しては私と兄できちんと始末をつけるように手筈は整えて御座います。私の為に一時の謗りは受けるでしょうが証拠の書類も全て保管してございますれば……って妙に長いですわね走馬灯って。
それになんだか痛いのは収まってしまっておりますわ。
アラ? これはいったいどういうことなのかしら。
もしかして、もしかしなくても私って生まれ変わったのかしら?
確かに私ってば刺客に襲われて、毒が回った事で走馬灯を先ほどまで見ていましたわよね。
でも、この方達は間違いなく私の両親ですわ。
見た目は若く見えるけど先ほどから呼び合ってる名前も同じ。この部屋も少し違うけど我が家の一室で間違いは無いでしょう。
そして、あちらで走り回って喜んでいらっしゃるのは敬愛するお兄様、幼いけれど間違いないわ。
当然弟と妹は居ないけれど……私が見ていた夢なんて事はないわ、あんな長い長い夢、しかも生まれたての私が見るなんて有り得ないですわね。
それに赤子である私がこんな鮮明に物事を覚えているだなんて……
どこかの賢者様の仕業かしら。
私は……自身の過去に戻ってきた。
ああ、本当のことならこれ程嬉しい事は有りません。神様なのか賢者様なのか分かりませんが感謝致します。この生を頂いた事に感謝と共に必ずやこの国を揺るがす事の無いよう生き抜いてみせますわ。
そう、たとえ本物の悪役令嬢の謗りをうけようとも……
ウフフ、そうですわ、あの軟弱な方々纏めて鍛え上げれば宜しいのです。そして私自身もあの様な暗殺者風情に殺されるなどという失態を犯さぬように自らを鍛え上げましょう。
楽しみですわね、オーッホッホッホッホ!
――その日彼女は誕生し2度目の人生を始める事になった。
産まれたばかりだというのにも関わらず、終始笑顔を見せる天使のような彼女を迎えた家族は幸福に包まれていた。
その笑顔の裏に、今後の行動を思い浮かべながら高笑いをしている赤子が居るなどとは、誰一人気が付くものは居なかった。――