閑話 お掃除ですわ
「こちらクマさんです、お猿さん聞こえまして?」
「……どうしてお猿なんです、猿はなんだか嫌であります」
どうして作戦が始まってから言うのですか、この子は……
「ではワニさんでいいですか、強いですわよ」
「了解であります! ワニさん問題ないのであります、嬉しいのです」
「私もチェリーではなく皆と一緒に動物にして頂いても……」
貴女様まで……
「では猫さんで」
「猫さんですね! 判りましたわ、了解ですにゃー」
恐ろしいですわ、猫さん、いえ、レイチェル様……
それだけで人を落とせますわよ?
ああ、お猿もとい、ジャンヌはお馬鹿っぷりに磨きが掛かってきていますわ。
……変ですわ、出会った時より悪化しているなんて。
王都の闇の中、作戦は実施されているのです。本来はもっと緊張の中での作戦の筈なのですが……
これも猿がレイチェル様に情報をもらしたせいでしてよ!
本当なら私とシノビの手勢でもって急襲するはずが……
「闇夜に蠢く悪党達よ! 今日が貴様達の命日、なのです」
ジャンヌはセリフをもう少し滑らかに喋って欲しいですわね。
でも、まあ登場の仕方は合格ですわ。
「世間を欺き例え王家が見逃したとて、この私は見逃しませんわ」
レイチェル様は、セリフ其のものの変更が必要ですわ、王族が不敬罪的なセリフを言うのはどうかと思いますの。
「国に仇為す者達よ、我ら夜の妖精の裁きをお受けなさいませ」
そしてこの最後を飾るのはやっぱり恥ずかしいですの。
「なんだテメエら」って説明いたしましたわ。
それに乙女に向かってテメエとは失礼な!
本来は名乗りも上げずに一斉捕縛の予定でしたのに、それをお馬鹿が『名乗りは騎士に必要』なんて意味不明な事を言い出したのが原因ですわ、それを聞いたレイチェル様が目を輝かしてしまって……
お馬鹿には特訓ですわ!
それとこの気持ちを発散しますわよ。
「取り合えず、その無駄に無礼な口を閉じなさい!」
低級の電撃魔法でこんな雑魚は一撃でしてよ!
「親分!」「よくも首領を!」「なんて奴だ! 容赦がねえ、先生頼みます」
まさか親分とか首領ってこの一撃で倒れたのがここのボスでしたの?
ま、まあ頂点を失えば後は雑魚ですし、逃れられませんわね、こういうのって『フコウチュウのサイワイ』と言うのでしたかしら?
でも『タナボータ』の方がしっくりときますわね。
「『タナボータ』ですわ!」
「『カモネーギ』ですわね」
「「ヒョウタンカラコマ』ではないのでありますか?」
レイチェル様は正解、それにお猿でも強ち間違いではないのが悔しいですわ。
「フッ小娘共が……俺が対処してやろう」
剣の構えからして騎士崩れといったところですわね、ならず者共相手なら十分でしょうが。所詮は騎士崩れ、私達が鍛えに鍛えたジャンヌが相手をしても問題はなさそうですから、ここは練習相手になって頂きますわよ。
「甘いであります、余裕が仇であります(ガンッ)、喋っている隙なんてみせたら打たれるであります(ドカッ)、投げ飛ばされるでありますよ!(ガシャーン!」
腕を上げましたわねジャンヌ、日々打ち込まれて投げられてと自分の身についた技が繰り出せるようになっていますわ。ですが、貴女も喋ってますわ。それにそれって、日頃の……
フフ、体に染み込んでますわね
「先生ガッハ!?」見事な電撃ですわレイチェル様。生かさず殺さずの王族たる一撃でしてよ。「逃げグェ」「助けグホッ」オホホホホ、余所見をしてる暇なんて御座いませんわよ。
これで一網打尽ですが、まあ本当に腕の立つ奴がいる現場は別働隊のお姉さまにお任せしておりますから問題は御座いませんでしたわね。
後2年で入学ですか、様々な方々にお願いして彼女を探しているのに関わらず見つからないのは不思議ですが……
王都の掃除も今日で一段落ついたと云った所でしょう。
「ではお二人とも、後は当家にまかせて祝勝会ですわ」
「楽しみですわ」
「訓練じゃないのです!?」
「フフフ、淑女にピッタリな美味しいケーキを用意しておりますわ、参りましょう」
心配性ですわねジャンヌは、原因は私とお姉さま、そして我が家の面々であると知っておりますが、私が妹であるレイチェル様に嘘をつく筈がないではありませんか。
さあ、深夜の妖精の茶会を始めますわよ。




