後悔なんてしませんわ!
女性と男性を共にターゲット層にした乙女×恋愛シミュレーションの世界。
ゲームの中の世界と違い、ここはその元となったユールソールという大地。
恋と魔法と友情……主人公達がおりなす青春の物語。
そんな世界で唯一人、貴族の真なる誇りを胸に生きた女性がいた。
フフフ、わが生涯に一片の悔いも……まあ有るかも知れませんが、とにかくやりきりましたわ。
どうせ死ぬなら気高き真紅の華を見せながら散り逝きましょう。
――ヒルデガルドの生涯は、将来の妻や自分に対し危害が及ぶ事を恐れた『元婚約者』の差し向けた暗殺者によって閉じられた――
モニター越しならばエンディングロール。
奏でられる音楽。
幸せいっぱいの主人公がキャッキャウフフとしてる。
だが数多くの男性プレイヤー女性プレイヤーが「ネーヨ!」と声高に叫んだ。
こんなエンディング作るなドアホウと叫びながら、CGコンプを目指してた人々がリセットボタンを連打したという。
男女ルート完全攻略後のハーレム(逆ハーレム)ルートの評判はガタ落ちだった。
ゲーム業界初の『CG90%を100%と扱え』の抗議を受けて、制作会社が90%ルートパッチを製作した初のゲームとなった。
まだ個別ルートでは彼女にもそれほど悲惨な末路も待っていなかった。男性ルートでは隠しキャラクターとして登場するんじゃないかと期待さえされていた令嬢で、言ってることは常に正論。但し学園恋愛物としては生徒会を動かしたり理事会を動かしたりと、その強権をもってして邪魔になる存在。まあ所謂、悪役令嬢の役柄を担い、自らの外聞など気にしないで、秩序の為にと己の矜持に基づいた行動をする。扇子を持ってウフフとかオホホとする立ち姿は見事の一言で、仕草や一部言動だけを捉えたならば、それはもう立派な悪役令嬢に見える。
だが現実の彼女は自他共に認める貴族のお手本、誇り高い女性としては至高の存在。これぞ貴族令嬢という理想の女性なのだが、何せ堅物であった。(扱いに困り、ファンディスクの製作でもその堅物さが原因で、入れるに入れられず結局製作も見送られてしまった)
では現実世界の中で、何故そこまでの人物が暗殺などされなくてはならないか。
ゲームでは語られない裏話と言ったところ。
それはヒロインがハーレムルートに突入するビッチだったから。
元王太子殿下の許婚、将来の王妃の醜聞となり、そのネタの核心をすべて握りつつ苦言を呈し、王子であろうが公爵であろうが全てを言葉で叩き伏せる女傑。
それがヒルデガルド・ルビー・スカーレットという公爵令嬢だった。
ゲームならまだしも、現実でそんな醜聞が立てば国際社会での恥さらしと呼ばれ、さらには外国の皇太子も関係してるなんて事悪夢でしかない。
よって彼女は死ぬしか道が残っていなかったのだ。
稀代の悪女として。婚約者を自らの悪行で失って失意の内に自殺したと……
走馬灯を見ながら失われつつある時間のなかで彼女は呟いた。
「お父様、お母様……申し訳ありません、ですが……」