閑話 忠義
連投
数年前、護衛の依頼が大陸の反対側にある国から打診されました。
護衛の依頼を、私たち忍と呼ばれる集団にする者達がいるのは珍しいとは思いました、ですが興味を抱く事はなかったでしょう、依頼主の年齢と依頼内容を聞くまでは……
我が一族の役目といえば諜報、暗殺、破壊活動が主な仕事、更に連絡、潜入といった汚れ仕事と言われるものが殆どです、世間を普通に渡り歩く事も褒められる事も無い、ましてや、主家が潰されてしまった我等の仕事と言えば別々の国々から依頼を請負ながらの暮らし。
希望という文字すら私は忘れていました。
それ故だったのかも知れません、面白い依頼ならば受けるのも一興と……
何故に幼児と言える少女が護衛と共に訓練を施す事のできる人物を望んでいるのか知りたいと思ったのです。
気紛れだったともいえましょう。
結論から言って大変面白い依頼です、勿論継続中でございます。依頼主であるヒルデガルド様は才能があり人が極めし術を次々と己の物にされております。
体さえ出来上がれば一人前どころか私さえ凌ぐ使い手になる事でしょう。
それだけでは御座いません、何が面白いかったのかと言われると、信じられない事に我が里の者達全てを雇うと言い出されました。
大国の公爵家のご令嬢といえど本気かと疑うのも無理は無いとおもうのです。
しかもたった5歳の少女が言う事、普通ならば取り合わないでしょう。
ですがヒルデガルド様からシショウ、オネエサマと呼ばれその才覚の全てを見てきた私には判っておりました、我が一族の全てを賭ける価値があると。
そして現在、公爵領に大規模な里を作る計画を、私は我が主であるヒルデガルド様と進めています。
先立ってカンパニーなるものを作ってしまわれたお嬢様の行動力には驚かされましたが、それ以上に驚かされたのはサロンなる所で自ら営業をされて仕事を持ってこられた事です。
次々と我等の一族は護衛の任務、いえお仕事に就いております、しかもその多くが国の重責を担う家での従者の仕事がメインになっていて護衛と執事の仕事が主なのです。
汚れ仕事と言われる物は一切受けておりません。まあその手の組織をお嬢様指揮の下で一掃する事は多々御座いますが、技術の優れる我等の敵では御座いません。
そんなある日お嬢様は仰いました。
「この先、私の家が雇い主であり続けます、闇もまた必要なのかもしれないけど、汚い事に貴方たちを使う事は絶対に御座いませんわ。そのような主が立った際にはその主こそ誅する事ができる誇りある方々ですもの」
あの時の私の気紛れを今なら褒めてやりたい。
希望が此処にあったのだから。
我等の誇りは紅の瞳と共に在り。




